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第17章 「女王蟻を斬った少女士官のサーベル」

 ほとんど無抵抗に右往左往している蟻怪人達は、ハッキリ言って私達の良い的だった。

 アサルトライフルや拳銃で射殺したり、銃剣で刺し殺したり。

 ちょっと荒っぽいやり方だと、バイクや軍用車両でメチャメチャに轢き殺しちゃったりだね。

 こんな具合の一方的なワンサイドゲームになっちゃったのには、実はそれ相応の理由があるんだよ。

 とはいえ今は、轢き逃げに対する心の準備をするのが先決なのかな。

 幾ら相手が蟻怪人とはいえ、自分の騎乗しているサイドカーが人型の物体を跳ね飛ばしているというのは、あんまり楽しい事じゃないね。

「所詮は兵隊蟻の悲しさ…司令塔をやられたら脆い物でありますね、吹田千里准佐。」

「然りだね、天乃ちゃん。だからこそ、京花ちゃんと美鷺ちゃんには感謝しなくちゃ。何しろ例の二人は、女王蟻を真っ先に潰してくれたんだから!」

 そうして十何匹目かの蟻怪人を轢き潰した少女士官に頷きながら、私は本作戦の序盤で見事なファインプレーを決めた二人の同期生に思いを馳せたんだ。


 私達が出動するより先に巡回パトロールに出ていた子達がいたって事は、前にも話したよね。

 青いサイドテールを靡かせながらレーザーブレードを振るう枚方京花少佐と、騎士を思わせる西洋式サーベルと蓮っ葉なスケバン口調がトレードマークの手苅丘美鷺准佐。

 そんな二人の特命遊撃士が、蟻怪人達に指示を出している特殊な個体が存在する事に勘づいたんだ。

 流石は御子柴1B三剣聖に数え上げられる程の剣士と言うべきか、その鋭い洞察力には驚嘆させられるね。

 そうして最優先に倒すべき標的が分かったならば、後は該当する奴に目星を付けて問答無用に引導を渡すのみ。

 街灯の淡い明かりに黒光りする兵隊蟻達をバッサバッサと斬り捨てながらも、二人は冷静沈着に敵の布陣を確認したんだ。

 そうして敵対勢力の様子を注意深く伺えば、妙に触覚の長い蟻怪人が他の個体に守られるようにして直立しているじゃないの。

 この毛色の異なる蟻怪人こそ、兵隊蟻をコントロールしている女王蟻に違いない。

 そう直感して速やかに行動へ移した美鷺ちゃんの機敏な判断は、私も是非とも見習わなくちゃね。

 相棒の京花ちゃんと特命機動隊の下士官達に援護を任せると、フルスロットルにした軍用オートバイで敵陣の真ん中へ堂々と殴り込みをかましたんだもの。

 自分達の親分を守ろうとする兵隊蟻達の抵抗も、それは激しかったそうだよ。

 しかしながら、不埒極まる怪人達の攻撃が人類防衛機構の掲げる正義の御旗を遮る事なんて、万に一つも有り得ないんだ。

 軍用オートバイに搭載された小型機銃と特命機動隊によるアサルトライフルの一斉射撃が鳴り止んだ時には、蜂の巣に成り果てた兵隊蟻の骸が転がるばかりだよ。

 そうして護衛を失いながらも、女王蟻はなおも抵抗を止めなかったんだ。

 古人曰く、窮鼠猫を嚙む。

 追い詰められた者が働く死に物狂いの抵抗っていうのは、本当に侮れないね。

 美鷺ちゃんが追い詰めた女王蟻怪人だって、その例外じゃないよ。

 大きな顎をガチガチと鳴らして威嚇するだけならまだしも、そこからゲル状の蟻酸を吹き付けてくるんだもの。

 美鷺ちゃんの巧みなハンドル操作で躱せたから良かったけれど、蟻酸のかかったアスファルトの路面から白煙が上がったんだから大変だよ。

 詳しい事は科学班の検査結果を待たなきゃいけないけど、危険な化学反応を発生させる強酸性の蟻酸だって事だけは確かだろうな。

 そんな有り様だから、流石の美鷺ちゃんとはいえ暫くの間は回避を余儀なくされたんだって。

 だけど美鷺ちゃんは僅かな糸口を巧みに見い出し、見事に西洋式サーベルで斬り伏せたんだ。

 これぞ正しく、御子柴1B三剣聖の一角の面目躍如だよ。

 そうして真っ二つに斬り捨てた女王蟻の亡骸を轢き潰した次の瞬間、激しい抵抗を示していた兵隊蟻達の動きがピタッと止まり、獰猛な雑兵から単なる烏合の衆に成り果てちゃったんだって。

 司令塔である女王蟻の触覚から放たれていた命令を失った途端に、これだからね。

 自分の頭で考えずに上からの命令に盲目的に従っているばかりじゃ、やっぱり駄目なんだ。

 同じ兵隊でも、私達人類防衛機構の前身となった大日本帝国陸軍女子特務戦隊の皆様方とは大違いだよ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] やっぱり、数割はサボってる個体だったんだろうか(`・ω・´) [一言] 温かい時期に行軍する生物に冬の行軍はキツいぜ(`・ω・´) 蟻の中にゃゴムのニオイを嫌う種類がいるそうで。 で…
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