第264話
シャドーモード・ダブル。
名前の通りに2人分の魔力を万能系で模倣し、接続する術式。
現状は部分的にだがトライとも言える状況だが、基本は変わらない。
現時点で健輔が発揮できる力の限界を超えた術式だった。
葵の制御された固有魔力と真由美の圧倒的な固有魔力。
どちらも性質としては極めて攻撃的だが、健輔にとってこの形態は極めてバランスが良い形態だった。
真由美だけの場合は力だけが特化して、健輔も砲撃以外の戦闘スタイルが困難だったが、ここに葵の力が加わることで、暴力を制御された力にすることが出来る。
「一気に行く!!」
『魔力は安定状態。周辺魔力への偽装も問題ありません。マスター、存分に』
「おうよッ!」
フィーネの魔力はドームや偽装を突破するために周辺に漂っているものをコピーしただけだが、それでも効果は絶大だろう。
本人に干渉するものでなければ、健輔に幻惑は通じないことになる。
最も、代償もそれなりに大きかった。
本来の自分の分も含めて、都合4人分の魔力を制御する健輔は外見に反して余裕など微塵もない。
いつ暴発するかもわからないが、それでも笑顔だけは崩さなかった。
ここで自分が負けるとチームが負ける。
そう思って、心を支えていた。
何より、フィーネの能力に干渉したことで健輔はあることを把握している。
敗北した相棒のためにも、ここは絶対に負けられない。
「タレット展開!」
『タイプはバスター。選択完了』
「いけええええッ!」
真由美の力と葵の術式制御力を組み合わせてフィーネに攻撃を仕掛ける。
固有化状態の真由美の砲撃をぶっ放しながら格闘戦を行うという狂気の所業だが、この程度はやらないとフィーネに危機感を抱かせることすらも出来ない。
展開された小型の砲塔からいくつもの閃光が放たれる。
フィーネの環境操作が防壁として展開されるが、真由美の火力はそれを上回っていた。
真由美よりも今の健輔の方が制御力では上である。
葵の固有化すらも自在に発動できる制御力がなければ、とっくの昔に力が暴走していただろう。
それ故に2つが合わさった力は強力なのだ。
劇物であるがために、効果は絶大だった。
「これは、なんという!」
高速機動する移動式の砲塔だが、放たれる攻撃が『終わりなき凶星』の砲撃ではフィーネの顔色も変わる。
小回りがきく高火力砲台など敵にとっては悪夢の具現だった。
「光よ! 穿ちなさい!」
魔力を注ぎ込み、同様の術式を展開する。
高速移動するレーザー砲台。
レオナと違って威力を出せる今のフィーネだからこそ出来るものだった。
これで砲台の方はなんとかなるだろう。
既にそれを囮にして、懐に潜り込んでいる男がいなければ、フィーネもここで安心することが出来た。
「0距離、貰ったッ!」
「――もう、ここまで!? っ、させませんッ!」
今まで通りに周囲の環境へ干渉を行うが、
「効かないなッ!」
「私の魔力を弾きますか!」
葵よりも遥かに広い領域を魔力で包み込んでいる健輔に、重力操作などの細工は通用しない。
純粋に技量と自身の力で対峙することを求められていた。
「舐めないで!」
高速で突き出される槍。
悲鳴を上げる体を無視して、フィーネは自己強化を全力で施していく。
敵に使えずとも、自分にはいくらでも使える。
まだまだ全てを封じられた訳ではなかった。
格闘スタイルの健輔に間合いで槍は勝っている。
ここでそれを活かさない理由はないだろう。
だからこそ、次の光景を見て、フィーネは相手の厭らしさに臍を噛むしかなかった。
「それは……どこまでも!」
「はん! 閉じ込められた恨みは百倍にして返すッ!」
健輔の手には槍型になった陽炎があった。
先端同士が魔力を纏った状態でぶつかり合う。
発生した衝撃から両者が体勢を崩すが、健輔は直ぐに立て直すと突撃を敢行した。
後のことを一切考えない完全なる力押し。
フィーネに余裕を与えるわけにはいかないのだ。
こちらへの対処で精いっぱいになってもらう必要があった。
「陽炎!!」
『魔力充填――バスタータレット、再展開』
「しょ、正気ですか!! この距離でそれだけの数、自爆ものですよ!!」
「俺に、今更それを問うかッ!」
「これだから!!」
2人を囲むように展開された砲塔を見てフィーネが叫ぶ。
余裕のある表情しか見せなかったフィーネが必死な表情を垣間見せている。
健輔は悪戯を成功させた子どものように無邪気に笑った。
「行くぞッ!!」
加減なしに力の全てを注ぎ込みながら、武器を握る手にも力を入れる。
フィーネを倒すまで絶対に暴発はしない。
己への信仰、ここに賭けた思いが女神撃墜への誓いを呼び起こす。
『タレット、充填完了』
「一斉、発射ッ!」
真紅の輝きが健輔すらも巻き込む形で連続で発射される。
お互いに武器で組み合える距離での砲撃にフィーネも焦りを隠さず、防御に移行していく。
しかし、素直にそれをやらせてやるほど健輔は優しくない。
「テンペスト、ディフェンス・モードを展開!」
『警告。マスター、魔力干渉が』
「私の力で、私に邪魔を!」
フィーネは正面で不敵に笑う健輔を睨みつける。
このタイミングで干渉する相手など1人しかいない。
タイムラグは一瞬だったが、完全な防御が不可能になるには十分な時間だった。
「本当に、性質の悪いッ!!」
『魔力をフルバースト。防御に回します』
噴き出す銀の輝きが紅い輝きを押し戻す。
負担が大きいため、最後の手段としていた防御方法だったが、あっさりと使わされたことに戦慄を禁じ得ない。
ここまで強くなるとは、完全にフィーネの予想を超えていた。
「それでも、限界も見えた!」
激変する状況の中でも観察は行っていた。
去年もそうだったのだ。
ほとんど勝利を確信した段階での逆襲など慣れている。
攻勢を焦る健輔の様子から、必要な情報は取得出来ていた。
「恐らく、制御の要は藤田葵のはず。ならば、そこを落とせばいい」
まだヴァルキュリアのメンバーは残っている。
一時であろうが、真由美を解放して他のメンバーで葵を仕留めればこの試合の勝利は間違いない。
だからこそ、必要なのはドームの解除とそこからの転移である。
「これが、終われば……!」
「――とか、思ってるのか?」
「ばっ、どう――っ、はああああッ!」
口から出そうになる問いかけを全て封じ込めてフィーネは槍を繰り出す。
いつの間にか背後にいた健輔に槍を直撃させた。
その瞬間、笑っていた健輔は幻のように掻き消えてしまう。
「また! 私の術式……!?」
「はっ、残念でした! 前だよッ!」
「くっ……!?」
あっさりと騙されてしまったことに、フィーネも自分を呪う。
至極当たり前の話だった。
相手も敵を化かすようなことが出来るならば、それを戦術に組み入れるのは当然だろう。
葵のような力であっても、葵ではない。
力押しに見せかけて、どこかで罠を張っている可能性は否定できないのだ。
全力防御の後に、無理矢理攻撃したことによる体勢の崩れ、到底攻撃を防げるものではない。
「まずは、1発ッ!」
「がっ!?」
この試合で初めて――否、この大会で初めてフィーネが防御を粉砕された上でダメージを受ける。
健輔の渾身の拳が確かに女神にダメージを与えた瞬間だった。
変換された苦痛に顔は歪んでいるが、美しい瞳を真っ直ぐと健輔に向ける。
正面から見つめ合う2人。
健輔は僅かに笑みを零し、女神はハッキリとした敵意を瞳に宿した。
「離れなさいッ!」
フィーネの叫びと共に、風が彼女を中心に巻き起こる。
吹き飛ばされる健輔に向かって、フィーネの追撃が放たれた。
「いきなさいッ!」
周囲の魔力が活性化、様々な自然現象に姿を変えて健輔に襲い掛かる。
「陽炎! こっちもだ!」
『魔力フルバースト!』
4色混合の輝きが健輔から放たれて、フィーネの攻撃は近づけない。
葵の魔力固有化による獲得した性質は、魔力の干渉を受けないこと。
真由美もほぼ同じ能力を獲得しているため、2つ分の性質が合わさってフィーネの攻撃を寄せ付けない。
しかし、それは自分にだけは通用しないということである。
誤魔化す方法などいくらでも存在していた。
先ほどとは対象が逆になった光景。
ならば、敵は同じことを考えるだろう。
『さあ! 今度はあなたの番です!』
「反響か、どこから来るかわからんな!」
姿を見失ったフィーネの声が方々から聞こえてくる。
一旦、距離を離れると化かし合いになってしまう。
健輔も真似事は可能だが、流石に本職にこのフィールドで勝てるとは思っていない。
余裕そうに見えているが結構なピンチで笑う主に陽炎は苦言を呈する。
『楽しそうに笑っていないで、対応してください』
「わかってるよ。ご主人様を、信じなさいな!」
陽炎の武装部分を糸に変更する。
相手に干渉するというイメージにおいて、糸は中々に優秀だ。
戦闘の序盤、圭吾がほとんど相手にならない状況で仕込んだものをそろそろ着火する準備が必要になる。
確かに圭吾は干渉を弾かれた。
しかし、弾くということはそこに突破口があるということでもある。
力が足りなかった圭吾ならばともかく、健輔ならば有効活用が可能だった。
「やっぱり、強いな。でも、あんたは勘違いしてる。俺と呑気に戦っていて良いのかな」
ここまでの戦いを振り返り、改めてフィーネの強さに感心する。
桜香とは傾向が違うが、間違いなく3強の名に相応しい魔導師だった。
健輔も常の状態なら、最終的には押し切られるだろう。
それでも弱点がないわけでない。
2人分の固有化を全て使ってようやく互角というのが恐ろしい限りだが、この頂に立ったからこそ見えたものがある。
「総合的に強いけど、これと言うべき決定打がない」
早い話、フィーネはあるゆる物事を完璧にこなすが、それだけなのだ。
最強レベルでは変換系の特性程度では役に立たないという驚くべき状態になっている。
一言で言えば、彼女は器用貧乏なのだろう。
極限まで磨き上げたからこそ、万能に見えるだけで本当は違うのだ。
「ふ、ふふ、ははは、なんだよ、そっくりじゃないか!!」
皇帝のように基本攻撃が既に必殺技でもなく、桜香のようにただ単に強くもない。
やり方こそ違えど、フィーネは間違いなく健輔の先輩だった。
だからこそ――、
「――負けられないよなッ! 見せてやるさ、万能の可能性ってやつを!」
「――よく言いました! ならば、見せてくださいッ!」
展開していた糸に反応がくる。
高速で突撃してくる相手、言葉を交わせる距離に既にいるが、健輔は何も対応しない。
何もしないということが、相手を焦らせる。
罠を疑い、一瞬動きが鈍るのを健輔は見逃さなかった。
「臆病だな! 万能でそれは致命的だッ!」
「なっ!」
まだまだ拙いが、圭吾でも出来たことである。
ならば、今の健輔に出来ない道理はないだろう。
葵や真由美の力のまま、まったく別のバトルスタイルに切り替える。
来るべき雛型をフィーネに見せつけるように力を振るった。
魔素を断ち切る糸――親友の技が再び、形を変えて女神に襲い掛かる。
「っあ!?」
『マスター、ライフ70%』
「見事、ですが!」
肉を切らせて骨を断つ。
順番は逆だが、健輔はあえて隙を晒すことで状況を動かしたのだ。
欧州最強に隙を見せる。
言葉では容易いが実際には健輔も恐怖で震えそうになっていた。
「雷光よ!」
ダメージを受けたフィーネも反撃に移る。
意図的とはいえ、隙を見せたのだ。
防御は不十分である。
ダメージは避けられなかった。
「ぐっ!?」
『ライフ60%。ご注意ください』
「了解ッ!」
直ぐに立て直して、行動に移る。
両者共に、高い次元で纏まっているからこそ、もはや戦い方以外で細工する箇所が存在しない。
壮絶な削り合い。
完全に互角の領域に2人は存在していた。
「これでも、まだ沈みませんか!」
「こっちのセリフだ! 凄いよ! 流石だ、フィーネ・アルムスター!!」
「――受け取っておきましょうっ!」
健輔の結論として、フィーネは強いが近接戦闘能力では桜香には勝てない。
今の健輔ならば、1対1の近接戦で負けることはないと断言できた。
健輔は対桜香を前提にして、鍛えてきたのだ。
2人分の固有化の恩恵もあり、環境操作の影響が半減、おまけに周辺に対する操作も健輔は抵抗する手段がある。
この状態では、フィーネが勝てる要素を探す方が難しい。
故に、焦点となるのはフィーネの桜香対策である。
現在は互角だが、ここが底だとは健輔は思っていない。
可能ならば、このまま押し切りたいと思っているが――全力を見せて欲しいとも思っていた。
攻撃は苛烈なまま、休む暇など与えない。
同時に健輔は期待していた。
こちらの浅知恵など軽く超えてくれることを。
「このままッ! 一気に落とすッ!」
健輔の攻勢を前にして、フィーネもとうとう決意の瞳を見せる。
このままだと負ける。
彼女がそのように判断した証だった。
「やはり、万事上手くはいきませんか」
「――っ、させるかッ!」
「ここで前に出てくる……! やはり、予想していましたか! あなたは本当に厄介です!」
このまま素直にやられてくれるような相手なら楽だったが、やはり上手くはいきそうになかった。
僅かな落胆とそれを大きく超える歓喜を感じながら、健輔はフィーネを攻める。
周辺の分断、ならびに環境操作が特殊系の力の発展型だとすれば、桜香に対抗するためにあるのは、必然として戦闘能力を高めるものはずだった。
同時にヴァルハラの特性を考えれば、それは――。
「テンペスト、やりますよ!」
『術式展開『ヴァルハラ』サードフェイズ』
周囲に飛散していた魔力がフィーネに集まり始める。
ドームは消えて、元の光景に戻っていく。
フィーネの中で分断の重要性はそこまで高くなく、何より既に主目的は達していた。
ドームの維持にもそこそこ労力が掛かっているため、これ以上の展開は厳しかったのである。
それでも20分ほど、敵チームを封印した力は見事なものだった。
「私の力、見切ったなどと思わないでください!」
「欠片も思ってないさ。――かなり、期待している!」
『マスター、周辺の魔力反応が活性化しております。ご注意ください』
「了解ッ!」
健輔の様子を見て、フィーネは意を決して叫ぶ。
「術式展開、『ヴァルキュリア』!」
『サードフェイズから、そのままファイナルフェーズへ移行。術式展開『ヴァルキュリア』』
「来るかッ!」
壁を少しずつ壊されて、女神の真実が少しずつ顔を出す。
その強さと気高さに劣らぬものを示すためにも、万能の魔導師もまた眠れる可能性を存分に見せつけるのだった。
「くくっ、はははあはッ! あそこまで荒れるとは、健輔も大したやつだの」
「お前、後輩が頑張ってるのに感想はそれだけかよ」
天空の焔の観戦室に響き渡る笑い声。
霧島武雄の大笑いはその場にいた者たち全員に聞こえていた。
試合開始後、しばらくしてからここに武雄を含める日本のエース勢がやって来て、3人だけだった場所は随分と賑やかになっていた。
後から押しかけた迷惑な客にも関わらず、彼は我が物顔で場の空気を壊す。
もっとも、今更ここにそんなことに文句を言うのは1人を除いて存在しなかった。
「いきなり大声で、しかもそんなことで笑うの? 相変わらず、ずれてるわね」
「ああん? 何だ、文句でもあるのか?」
「ないわよ。でも、せっかく好意で貸してもらえてるんだから、周囲には配慮しなさいよ」
「おお、そりゃ、すまんかった」
同じように観戦していた立夏に軽く謝罪すると、好奇心に満ちた瞳でスクリーンの方に視線を移す。
悠々自適な態度に立夏は頭痛を感じるが、迷惑を掛けられたわけではないので何とも言い難い気持ちになっていた。
「ん、あの人は、もう仕方ない」
「特訓もあんな感じだったですしね」
「……苦労したのね」
香奈子とクラウディアの諦めたような笑みに立夏は同情した。
冬休みのメインでの特訓相手が『賢者連合』であるだけでも疲れるのに、あれに振り回されるおまけまで付いていたのだから、疲れもするだろう。
それを乗り越えた天空の焔には立夏も尊敬を禁じ得ない。
宗則と武雄、天祥学園いろんな意味で疲れるランキングの第1位と第2位を相手にするなど、立夏としてはあまり考えたくない状況だった。
苦笑する立夏にクラウディアたちも苦笑で返す。
「もう慣れましたよ。それよりも、立夏さんたちはこの試合、どう見ますか?」
「そうね」
苦労話などに話が流れそうになるのをクラウディアが無理矢理引き戻す。
男に苦労する、などという話題になれば試合に出てる誰かも引き合いに出されるからだ。
健気な様子に微笑ましいものを感じつつ、一瞬だけ意地の悪い思考が立夏に過る。
過ったが、可愛い後輩に免じて、立夏は素直に質問に答えることにした。
「現時点で有利なのはヴァルキュリアね。クォークオブフェイトは無理に無理を重ねて抵抗してるだけだわ」
「その通りだな」
立夏の声に割り込んでくる男性。
スサノオ所属の望月健二は威厳のある表情で頷く。
いろいろな不幸が重なったが、本来なら世界でも通用する近接戦闘の雄の言葉は重い。
クラウディアも神妙な面持ちで頷く。
「フィーネ・アルムスターは一切の誇張なしに強い。単独で九条桜香を降せる魔導師は彼女か皇帝ぐらいだろう」
「実際、健輔が押し返したから、互角に見えてるだけで内情は結構きついでしょうしね」
「近藤、藤田は強いが予想が出来る。まあ、藤田は狂犬ゆえに簡単には屈服しないだろうがな。だが、1つだけ問題がある」
健輔のシャドーモードによる能力共有などという無茶苦茶がどこまで続けられるかは立夏たちもわからない。
このまま試合終了まで保つことが出来るなら、僅かなりとも勝機はあるだろう。
それを込みにしても、試合は些か以上に厳しかった。
葵、真由美の両名は既に全力である。
ここからさらに力を発揮しようとしている女神に対抗するのは、些か厳しいと思うべきだろう。
逆転の芽は少ない。
普通に考えれば、今の状況はその程度には詰まっている。
だからこそ、仮に問題があるとすれば――、
「健輔でしょうね。女神も今頃、あまりの祟り具合に本気で頭を抱えているでしょうに」
「その通りよな。あいつがいるだけで、場がわからなくなる。あの女神みたいに理詰めのタイプには天敵だろうて」
「霧島……」
武雄が僅かに離れた場所から立夏たちの会話に口を挟む。
武雄はニヤニヤとした様子は変わらないまま、何かに期待するような表情で試合を見守っていた。
武雄の言葉に異論を返す者はなく、全員が自然とスクリーンに集中する。
魔力を、チームの力を結集する女神。
チームの中心に居るように見えて、実はそんな事はない健輔。
立場も能力もまるで異なる両名が全霊を以ってぶつかろうとしていた。
同じ魔導師として、全員がそれを見守る。
「健輔さん……」
クラウディアは憧れの魔導師ではなく、日本で出会った少年の勝利を祈る。
彼女に敗北を刻んだ男性は、憧れすらも超えてくれると信じていた。
少女の衷心を周りの女性が暖かく見守る中、試合は最後に向けて加速する。
天秤はまだ揺れ動く、決着の時を待ちながら――。




