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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第4章 冬 ~終わりの季節~
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第263話

 フィーネを前にして、手を抜くような余裕はない。

 即断即決が彼女の持ち味――葵はセーブしていた力を1段階上に引き上げる。

 いつ全力で挑むのか、それを確かめるのすら困難な相手。

 欧州最強、その名の重みを葵は甘くみてはいない。


「リミッター解放! 吠えなさい、『餓狼』!!」


 赤紫の魔力が激しく放出される。

 葵は固有化状態でのリミッターを2つ用意していた。

 これは固有化の効果を長く発揮するための処置であり、固有能力でサブ系統のレベルがメインと同じ領域にある葵にしか出来ないことである。

 それを1つ解除して、一気に力を高めていく。

 もっとも、このリミッター解除は攻撃よりも防御に重きを置いていた。

 魔力固有化の条件は向こうも同じ、その上で長時間の発動のため力を絞っている上に、あまり固有化との相性が良くない葵ではそこまでの脅威にならない。

 魔力を纏っていれば、障壁に頼らずに防御が出来る。

 ただそれだけのために固有化を使う。


「押していく!!」


 葵は閃光となり、フィーネに向かって直進する。

 自然操作関係の攻撃ならば、どうとでも出来る自信があった。

 問題は格闘戦の間合いでフィーネにダメージを与えられるのか、ということである。


「はッ!!」


 固有化での強化状態も合わせた拳。

 スピード、パワー共にこれまでの葵と比べものにならないレベルの攻撃。

 並みの魔導師ならば1撃で沈められる攻撃だったが、


「その程度で、私は止められないですよ?」

「っ! 流石ね!」


 葵の拳をフィーネの槍が受け止める。

 格闘戦の領域で葵は早々負けるつもりはない。

 拳を受け止められた状態で流れるように蹴りを放つ。


「なっ、障壁の部分展開!!」

「余所見をして良いのですか?」


 放った蹴りが僅かに展開されて障壁で防がれる。

 固有魔力を纏った葵の攻撃は温い干渉力の魔力ならば、簡単に砕ける――はずだった。

 それが真由美クラス、いやそれ以上の硬度があるのを感触で伝えてくる。

 混ざり合う視線。

 顔は微笑んでいるが、女神の目は笑っていなかった。


「これぐらいでッ!」

「いつまでも受けに回るのは、性に合わないですね」

「なっ、消え……!?」


 フィーネの姿が幻のように消えていく。

 同時に声と魔力反応が様々な方角から感じ取れるようになる。


『さて、私はどこでしょうか?』

「左、それとも……!」


 フィーネの笑い声が左側から聞こえてくる。

 魔力探知はフィーネが正面にいると示していた。

 信じるべきものが何も信じられない。

 葵がフィーネならば、背後を取るがあまりにもオーソドックスすぎて逆を突くとも考えられる。

 選択肢が多すぎて、自分の中で自信が揺らぐのを葵でも止められなかった。


「ッ! こんな小細工で、惑うなんて!」


 与えられた情報の正しさを確信できない状況で女神と戦うのは、葵であったとしても恐怖だった。

 フィーネの強さを突破出来た者でも、これに惑わされて敗北することになる。

 どこから来るのか、迷ってしまう間に粉砕されるのだ。

 ここに欧州最強にして、3強の一角としての実力が加わる。

 葵はヴァルキュリアは負けなしだった理由を肌で感じていた。


「……ここは!」


 頭に過る数々の選択肢、それらを前にして、


「――面倒臭い! 全部、潰してやるわよ!」

 

 葵はいつも通りにすることに決めた。

 一気に放出される魔力が周囲の空間からフィーネの干渉を弾いて、正しい光景と音を葵に運ぶ。

 葵の魔力は如何なる干渉も防ぐ。

 体内に限定しているため。本来ならば周囲には一切の影響がないのだが、それならば外に垂れ流せば良いだけである。

 力技も良いところの解決策だったが、葵は会心の笑みを浮かべて背後に振り向いた。


「見つけたッ!!」

「なんて強引な解決策ですか。――ああ、もう、これでは彼も大人しくはしてないでしょうね」

「余所見してんじゃないわよッ!」


 狙いがわかれば対処は簡単だった。

 フィーネに向かって肘で攻撃を仕掛ける。

 避けられても問題はない。

 多少(・・)、燃費の悪い攻撃だが、葵は元々消耗の少ない戦い方である。

 長期戦は望むところだった。


「……まったく、これでは早期の決着は望めないですね」


 優位を崩されて、強引に正面からの戦闘にフィールドを仕切り直される。

 フィーネは自分の計算が崩れたことをハッキリと理解した。

 力技で無理矢理に策謀を突破していくのは、葵のようなタイプには日常茶飯事だろうが、突破される方は堪ったものではない。


「これだから、脳筋は困ります」

「あなただって、似たようなものでしょうが、この陰険!!」

「い、陰険……。も、もう少し言いようがあるでしょう!」

「悔しかったら、言い返してみなさいよ! ほら!」


 フィーネが零した愚痴に葵は罵倒で返す。

 涼しい顔が僅かに歪んだのは1つの戦果だろうか。

 良い気分のまま、葵は果敢に攻め続ける。


「はあああッ!」

「その程度で、ダメージは貰えませんね。――何度言わせるのですか?」

「通るまでよ! 何度でも、ね!」

「それもダメです!」


 葵の格闘能力と容易く渡り合う。

 舐めていたわけではないが、葵は3強の一角の強さを改めて思い知る。

 事前の予測の通りにフィーネは守りの型に秀でているようで、葵の攻撃を上手く受け流していた。

 こうやって受け流し、『ヴァルハラ』と合わせて相手のペースを乱して勝利する。

 そんな方程式が見えるが、見えたところで葵はこれ以上の対処方法が存在しない。

 防がれていても、より苛烈に攻めるしか方法がなかった。


「あの時よりは、私も強くなってるのに……!」


 国内大会の時に、桜香を倒すのが結局は健輔頼りになってしまったのをずっと悔いていた。

 次は力になれるように、何よりもエースの責務を果たせるようにずっと鍛え上げてきたのである。

 それでも――、


「――良いじゃない、壁は高い方が超える意味があるわ!」

「やはり、そういうメンタルは厄介ですよ! しかし、その程度で通用するとは思わないで欲しい。――格闘戦で私を倒したければ、桜香を超えてきなさい!!」

「言うわね!!」


 ――フィーネには届かない。

 葵の固有化は自分より下、もしくは同格や少しだけ上程度なら干渉を完全に遮断出来る。

 恐らくだが、香奈子の砲撃も今なら無効化出来るはずだった。

 魔力還元化などの同レベルの現象でも十分に抵抗が出来るだろう。

 確実に強くなっている。

 

「まだ、まだ届かないの!!」

「当然です。欧州最強、伊達で名乗っているわけではないですよ」


 葵の魔力がいくらフィーネの干渉を防ごうとも、周辺の環境操作の影響は受けてしまう。 

 魔力を放出して、接近直前の分だけはなんとか対処しているが、それでも全てを防ぐのは無理だった。

 フィーネの能力は2段構えになっているのだ。

 直接干渉と間接干渉。

 どちらも使用することで効果を上げているのであって、どちらかがなくても力は発揮出来る。

 この辺りは桜香への対策が窺えた。

 相手に何も出来ずとも、結果的に同じ状況においてしまえば良いということなのだろう。

 そして、葵は桜香ほどの戦闘能力を持っていない。

 単純な物理型は確かに強いが弱点もある。

 フィーネほどのレベルになった特殊型には、肝心の力が通用しなくなるのだ。

 柔よく剛を制す。

 故事にある通りの状況になっていた。

 無論、葵にはまだ戦士としての高い格闘能力や経験などもある。

 しかし、それらもフィーネには及ばない。

 近接戦闘能力において、桜香と同レベルにいる女傑と比べられたら葵でも格下となるのは避けられなかった。

 経験においては言うまでもない。

 3年間、頂点の域で戦い続けて、おまけに敗北の苦渋も知っている。

 葵に勝てる要素は見当たらない。

 

「っ……!」

「闘志は見事、技術も素晴らしい。意外性もある。しかし――」


 葵を包むように結界が展開される。

 拳で殴ると一瞬で砕けたが、飛び散った破片が葵を囲むように動き出す。


「――力が足りないですよ。ようは、小細工をどうにかする手段が無さ過ぎです」

「障壁!!」


 破片が四方から光を集めて、葵に放つ。

 同時に爆発する破片たち。

 自然操作の複合などフィーネには容易いことであった。

 展開された障壁についても、対策はある。


「確かに固有魔力は厄介ですよ。私の力でも完全に干渉するのは無理でしょうね」


 フィーネの言葉が周囲に響く。

 複数方向からの言葉はフィーネの位置を幻惑してしまい、葵は反撃に移れない。

 どれほど強力な攻撃も当たらなければ意味はないのだ。

 フィーネの戦い方は防御というものを多面的に捉えている。

 回避も結局は防御の一形態であり、攻撃もまた敵を排除するという防御なのだ。

 そのための手段として徹底的に環境、つまりは場を支配することに力を注いでいる。

 単体として強い葵では、勝てない相手。

 ジャンケンにおけるグーとパー。

 フィーネは葵を撃墜し、試合を決めるために油断なく次の行動に移る。


「リタ」

「了解です!」


 葵の周囲に逃げられないように魔力を展開して行動を制限する。

 頭上にはリタの落石群。

 ここにフィーネの自然操作が放たれれば、逃げ道のない必殺の空間が誕生する。

 爆風が晴れた時、赤紫に染まった瞳で葵は天を見上げていた。


「……フィーネ・アルムスター」


 女神の名を呼んで、目を瞑る。

 万策は尽きて、対抗手段はない。

 最後の足掻きとして、攻撃が放たれた瞬間にリミッターを解除するしかないだろう。

 制限時間付の大暴れ。

 援護があるのかもわからない状況で使うには博打に過ぎる札だが、このまま落ちるくらいならば、使う他ないだろう。

 どこまで通用するかもわからないが、それしかやれることがなかった。


「きなさい! 私が、落としてみせるッ!」

「意気込みは良いですが、これで終わりです」


 放たれる攻撃たち。

 雷と光に包まれる戦場の中、葵は懸命に魔力を振り絞る。

 最後の時に――、


「え?」


 心の中に誰かの声が響いて、葵は珍しくも目を丸くして驚きを露わにするのだった。






「……違和感、これは一体?」


 葵が攻撃を防ぐ手段は存在せず、確かに直撃させたはずである。

 フィーネが知る限りでは、絶対に防げないはずの攻撃。

 なのに、倒した際の爽快感も感じなければ、転移の光もない。

 膨れ上がる警戒心。

 この場に留まるのは危険だと、彼女の勘が叫んでいた。


「リタ、レオナと合流します」

「えっ、はい。こっちは大丈夫ですけど……」

「では、転移を――」

『フィーネ、いけない! こちらの凶星が、突然固有化を!』


 レオナから念話で警告が入ると同時に考えるよりも先に体が動く。

 障壁と環境操作による防御は勿論のこと、転移まで用いてその場から離脱する。


「あれは!」


 直後、先ほどまで2人がいた場所を駆け抜ける真紅の光。

 その輝きには見覚えがあった。

 フィーネの能力もまた、相手が『終わりなき凶星』であることを示している。


「バカな! 凶星はレオナと戦っ……まさか!?」


 フィーネのヴァルハラは空間展開内部の状況を正確に把握できる。

 バックスの補佐もあれば、視覚的、魔力的な監視は容易だった。

 だからこそ、健輔を閉じ込めて他を攻めるという選択肢が取れたのである。

 葵と戦闘する前に確認した限りでは、確かに防衛術式と戦闘を行っていた。

 あれから5分も経っていないし、先ほど攻撃する瞬間にも確認はしたのである。

 なのに、既にドームの中には健輔の姿がなかった。


「この短時間で、離脱? いえ、でも、この空間で転移を使うのは無理のはず……!」


 健輔の万能系は厄介だが、フィーネの固有魔力を使えば外部に放出された瞬間に魔力は操作不能に陥るはずだった。

 現に、他の魔導師たちはそういう風になっている。

 健輔が檻を突破して、転移まで出来た理由がわからない。

 そんなことが出来るのは、この空間ではフィーネ自身だけである。

 

「――待って、私なら出来る……」


 フィーネが答えに至ろうとした時、赤紫の輝きが背後から強襲を仕掛ける。

 殺気を感じて、フィーネは素早く防御態勢を構築していく。

 用いれる力を全て用いて展開した防御。

 リタも視界の端で、防壁を作っているのが見えていた。

 葵の火力は対人としては大したものだが、対術式で見るとまだ粗い点も多い。

 これで防御は可能なはずだった。

 後はもう1人に対して対処すべきだろう。


「シューティングスターズ戦と同じなら、ここで来る!」


 真由美が魔力固有化を発動させたなら、必ず健輔の力も上昇しているだろう。

 葵という壁と、真由美クラスの後衛。

 侮りはない。

 油断なく構築した防御は確かに、真紅の光を防いだ。


「防御は出来た。でも、どこから!?」

「はああああッ!」

「フィーネさん!」

「――リタはそのまま、援護を!」

 

 真紅の砲撃が健輔の存在を示しているが、どこにいるのかわからない。

 仮にシャドーモードがフィーネの考えている通りの術式だとすれば、状況は非常に悪いものになっている。

 しかし、ここで葵から視線を逸らすことも出来ない。

 勝利を確信してから、一瞬で変化してしまった戦況だったが、だからこそフィーネは健輔のことを思考から追い出した。

 まずは、目の前の敵である。


「好きにはさせない!」

「ふっ――どうかしら!!」

「強がりを!!」


 健輔が何処にいようとも、ここまで接近してしまえば援護は出来ない。

 事実上の1対1に持ち込んで早期に決着を付けるべきだった。

 健輔が自由になった状況は流石に見過ごせない異常である。


「風よ!」

「これは、枷!? こんな、術式まであるの!」


 風が葵の手足を拘束していく。

 葵が本気を出せば力尽くでの拘束解除は可能だが僅かであろうとも隙を見せることになる。

 葵が力を籠めようとして行動が止まるのを見て、そのまま見送るほどフィーネは優しくなかった。


「はッ!」

「っ――!」


 雷を纏い威力を上げた槍の一突きが葵に直撃する。

 今までの分も含めればライフを半分は削った計算だった。

 このまま一気に勝負を決めようとフィーネは前に出る。


「これで――!」

『フィーネさん! 後ろに!』

「リタ? え、――なっ!?」


 『リタ』の声に従って、背後に振り返るがそこには誰もいない。

 一瞬、フィーネの体が硬直する。

 多くの考えが過っていくが、その全てを棄却してフィーネは全方位防御を選択した。

 リタの声を捏造したものが誰かなど考えるまでもない。

 視界の端に一瞬だけだが確かに見えた。

 フィーネはついに、先ほどからチラついていた影と対面することになる。


「上!」

「大正解ッ! 流石だな!」


 真紅の光と赤紫と白――そして、銀の色が混在する魔力を纏った拳が障壁に叩きつけられる。


「私の障壁を砕きますか!」


 5層の内、2層が砕かれるが、突破までは許さない。

 攻撃はなんとか防げた。

 しかし、フィーネの表情に安堵の色はない。

 むしろ、表情はさらに険しくなっている。


「あなたは……!」

「さっきはどうも。閉じ込めてくれて、ありがとうよ」

「やはり、私の魔力を! シャドーモード、想定よりも危険な術式ですね!!」


 健輔の姿、ここに来れた理由。

 全てを察して、フィーネは魔力を一気に高める。

 この相手はなんとしてでも倒しておかないといけない。

 クォークオブフェイトのキーマンなどと言うレベルではない。

 彼女の中で、健輔の警戒度が完全に桜香と並んだ。


「テンペスト!」

「陽炎ッ!」


 お互いに魔導機の名を叫び、攻撃態勢に移る。

 膨れ上がる魔力は万能系とは思えないほどに力強い。

 常に余裕のあったフィーネからついに、笑顔が消えた。


「おそらく、切り替えは今までほど上手くはいかないはず、それでも……」


 健輔の急激なパワーアップと変貌の理由は推測できている。

 シューティングスターズ戦から考えれば、シャドーモードは万能系の『魔力を操る』という部分を特化させた術式なのだ。

 これを応用して、真由美の魔力と同じ魔力を生み出す。

 そして、両者を接続することで双方に恩恵を与えていた。

 では――接続先を増やせばどうなるのか。

 その答えがフィーネの眼前にいる健輔の姿であった。


「2人分の魔力固有化、能力の共有。そんな劇物をよく制御する! あなたは、やはり危険だ!!」

「あの女神が警戒するなら、十分な力かなッ! さっきまでとは違うぞ!」


 葵に匹敵する高機動での格闘戦能力を見せつけてくる。

 これだけならば、対応は可能だった。

 彼女は欧州最強の魔導師。

 ナイツオブラウンドのアレンも打倒している。

 葵は強いが、彼ほどの技量は保持していない。

 問題は健輔の場合は、ただ強い、というわけではないということだった。

 あの状態は接続を維持して、制御しているだけに過ぎない。

 

「どんな特性があるのやら、ああ、もう、2つの固有魔力が共存するなど、あり得ない!」

「戦ってみれば、わかるだろう! それとも――怖いか?」

「くっ、言うに事欠いて……」

 

 挑発だとわかっているが、癪に障る表情にフィーネも表情が歪む。

 ここまで余裕を持って戦いに臨んできたが、後1歩のところで勝利が遠のくはフィーネにも辛い。

 そこでフィーネはある事に思い至る。

 あまりにもあっさりと状況が変化し過ぎだろう、と。


「まさか、タイミングを計っていた……?」


 あまりにも登場のタイミングが良すぎる。

 最後の1撃を放って、そこからの逆襲など都合が良いというレベルではない。

 攻撃を捌きながら、フィーネは健輔を睨みつける。

 涼しい顔をして、この男は出待ちしていたのだ。

 横合いから殴りかける最良のタイミングを待っていた。


「性悪、ですね! 男性として、恥を知りなさい!」

「あんたに言われたくないな。同類同士、仲良くしようぜ!」


 不敵な笑みは崩れず、返礼とばかりに拳には真紅の光が集まっていく。

 もはや何度目になるかもわからない驚愕を隠して、フィーネは速やかに迎撃に移る。

 葵の格闘戦用のパワーと真由美の砲撃用のパワーが1つに集う。

 どのような破壊力になるのか、フィーネにもわからない。


「テンペスト!」

『術式解放『ジャッジメント』』


 光を中核としたフィーネが所持する中でも最大級の攻撃術式が全方位から健輔に放たれる。

 向かってくる攻撃を意に介さず、健輔は笑いながら手に集う真紅の光を解放した。


「はっ、こっちのに、耐えられるかなッ!」

『術式解放――『終わりなき凶星』』

「まさか、そこまで!」


 真由美の2つ名と同じ術式が紅い破滅となって、フィーネに放たれる。

 進路上には『ジャッジメント』。

 激突する最高レベルの攻撃術式。

 銀の閃光と真紅の輝きが2人の間で激しく輝く。


「いけッ!」

「いきなさいッ!」


 敵を打倒さんと魔力を注ぎ込み、光は一進一退を繰り返す。

 両者の輝きはどちらも退くことなく、結果として相討ちに終わる。

 広がる閃光はドームを消し飛ばし、4人を飲み込んでしまう。

 

「は、はは、どうよ!」

「……常識外れにも、程がある。『凶星』の火力を持つ前衛魔導師など悪夢のような存在ですよ」


 光が晴れた時、両者はライフにダメージを負いながらも健在だった。

 睨み合う2人。

 再び試合の行方はわからなくなった。

 影たる魔導師が、輝きに負けぬ力を発揮出来るのか。

 女神が影すらも払う輝きを見せるのか。

 この試合の全てはそこに掛かっている。


「さあ――」

「ええ――」


 ――勝負をしよう。

 お互いに視線で語り合う。

 睨み合うのは数秒。

 敵を見定めた両者はもう1度、激突するのだった。


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