日本が動き出す?
午後の業務を開始してしばらくするとイベントの告知が行われた。最初の反応としては「ここもダンジョン絡みかよ」といった声だ。他のゲームもブームを逃すまいとダンジョンに絡めたイベントをやっているからな。弱小でフットワークが軽いゲームほど、その傾向は強い。大手はどっしり構えているというよりは、動くのに時間が掛かるという面が大きいだろう。
次に目がいくのは報酬面だ。初心者に手厚めの報酬だが、ハイエンドが腐らない様にアビリティ引き直しのチケットを配っている。これには掲示板に通う常連連中の反応も良かった。
逆に豪華な報酬を出した事で「サ終か?」という声も出ているが。サ終、サービス終了はゲームの運営を辞めるという事だ。収益が見込めないとなると、継続するよりも早めに打ち切る必要がある。
最後に豪華なアイテムを配って、課金を促して利益を確保しようとする施策もあった。
ただそんな前例があれば、それ以後は豪華過ぎるアイテムは、最後の集金と捉えられて出し渋るとか、一気に客離れを加速させる羽目になってしまう。
今回は違う……と言い切れないのは、現場にはギリギリまでサービス終了が迫っている事を伝えられないからだ。
ダンジョン出現で家にいる時間が伸びて、スマホゲームの需要が伸びた訳だが、それはうちのゲームに限った話ではない。より貧富の格差というか、集客力の差が顕著に出るという事でもある。
先方は幾つものゲームを並列して運営する企業。その中で客の伸びが悪いとなると、もう終わりかという決断を下される可能性はあった。
オンラインのスマホゲームというのは、開発中は当然ながら収益がない。サービスを開始して長く運営が続くほど、収益が増えていく。収益のない期間の費用を回収して、プラスで長く続けるためには努力とセンスが必要だ。
「ひとまずは好感触だが……」
実際のイベントは少し先。そこでの評価がどうなるか。大型アップデートではないので、そこまでのハネは期待していないが、せっかくイベントを打ったのに効果がなかったではマイナス査定だからな。
割と重要な局面を迎えるだろう。
「イベントイラストが高評価っぽいな」
襲い来る不浄の獣の姿が迫力あって良いという声が上がっている。基本的にはイラストを仕上げたデザイナーへの称賛だが、俺が提供した写真も多少の貢献があるだろう。
他のイベントではベタな黒塗りの影というイラストが占める中、黒基調だが虎縞の様なアクセントが違いになっている。
それがリアルに近いのかは多くの人には分からないだろうが、今後わたりの活動が活発になりよりリアルな獣の姿が明らかになると、こちらが正しい事も伝わるだろう。
それがフックとなって客が引っかかってくれると良いのだが……。
デザイナーに好評を伝えつつ、迫力のあるイラストに感謝を伝える。この辺は出社してた方がより伝わるんだろうが、今は社内チャットのみで少し寂しい。
上長にネットの反響の一報を入れて、その他の業務へと戻った。
19時に仕事を終えてネットを確認。わたりの動画を最初に確認してしまうのは、世の流れと言うものだろう。
「お、ちゃんとダンジョン動画が上がってるな」
3階の探索の続きが上がっていた。しかし、大きく違うのは映像の質だ。今までのわたりは小型のカメラを背負い、ほぼ無編集の状態でアップしていた。
それはダンジョン攻略の臨場感もあったが、ブレも酷くて被写体となる獣も見切れていたりして見づらい動画だった。
しかし、今日の動画は随行者がいるらしく、戦闘するわたりと獣の姿がきっちりと映っていた。もちろん、画面のブレもなく戦う様子がよく分かる。また変なテロップを入れて盛り上げようとかの編集はないため、ダンジョン攻略の実態を映していた。
「やっぱ【ソニックエッジ】は使いやすそうだな」
攻撃を飛ばす【ソニックエッジ】は、武器を横薙ぎにする事で発生する。わたりの場合は相手の武器を弾く攻撃を行い、返す刀で【ソニックエッジ】を放っていた。
返す動きは速さを重視して力はあまり入ってないように見える。動作としては空振りなので弾かれる心配もない。軽く片手で振る感じで、一定のダメージを与えられるようだ。
そこでわたりはダメージで怯んだ所へ、本命の一撃を叩きつける。上段からの打ち下ろしや袈裟斬りの様に一番力を込めやすい振りだ。
武術の専門家が見ればまだまだなのかもしれないが、実際に戦ってきた身からすると十分に安定した戦い方だと思える。
何というか無理がない。
最初の一撃は上手く当てる必要はなく、相手の動きを制限する事を念頭に強い一撃で武器を弾いて隙をつくる。
そして動作としては軽く速い必殺技で相手に確実なダメージと怯みを発生させて、本命の一撃をしっかりと当てる。
やってる事はシンプルで真似をしようとすればできそうな戦い方だった。俺には二段目の必殺技がないからそのままは無理だが、動画の視聴者に俺もできるかもと思わせる戦い方だった。
俺の戦い方は少し泥臭いというか、必死に見える部分があるからあまり真似したいとは思わないだろう。
力技で吹き飛ばして、相手を踏みつけたりして動きを封じて、タコ殴りにするとか。あまりスマートには見えないはず……。
以前のニュースで野蛮と言われただけはある。
その後の戦闘も危なげないというか、安全に重きを置いて無理をせずに戦っていく姿が映っていた。それでいて武術の達人感はない。相手の攻撃を見切ってる感じもないし、多彩なフェイントを使う訳では無い。
なるほど相手の行動パターンを見切ってる感じなのか。
この距離になったら相手は攻撃を開始するから、それを避けるなり弾くなりして、自分のターンを作って攻撃できるよといった感じ。
「我が社に来てくれたら、今日の戦い方の様な事を指導して、ちゃんと自分で戦えるまでをサポートする予定です」
といった求人広告で動画は締められた。最後に1枚の画像は、動画での戦いで1日に獲得した暗号資産の金額、3階の獣人は一体で500UBC、3時間で20体を倒して、一万円になる事が書かれていた。
地味にやった事がそのまま収入になるというのは大きいんだよね。頑張った実感があるというか。
月給で働くサラリーマン、時給で働くバイトなんかもだけど、成績が加味される事は少ない。一応、ボーナス査定とかあるんだろうけど、他人と比較できる訳でもなく、自分の働きが評価されたという実感を得る機会は少ない。
でもダンジョン攻略、獣退治は倒した分だけ稼ぎになる。それ以上を求めるのは難しいかもしれないが、やった分は確実に儲かるのだ。
食品の宅配みたいにライバルと注文の奪い合いとか、こぼれてるとか難癖を付けてくる客との揉め事もない。
「今後もこうやってダンジョンは怖くない系の動画を上げて、入社希望者を募るんだろうな」
動画配信者の中には緊張感を高めてスリリングな狩りを演出しているものもあるが、わたりとしては難しくないよと仲間を増やす方向性だ。
「アミューズメント感覚で応募すると、負傷した場合とかに反動がくると思うがどうなのかね」
何にせよダンジョン攻略に関わる人が増えていけば、獣が溢れる危険も減っていくはず。まだどれくらいのペースで狩れば出てこなくなるのかは分からないが、動画配信者のいた地域では少なくなったのは確認されている。
これで風向きが変われば日本でもダンジョン攻略が根付いていくだろうか?




