ダンジョン企業の反響(21日目)
昨晩もたらされたダンジョン攻略会社設立というニュースは、朝の情報番組の話題を独占していた。
ダンジョンは日本ではないというわたりの主張を他の弁護士を招いて議論している。そもそもダンジョンという前代未聞の存在に、現行法で対処するには無理がある。解釈によって予測するしかない。
『日本であるか否かとなると、明確なルールがないというのが現状です。ただだから法が適用されないという考え方は危険です。それこそ殺人を犯しても罪に問えないとなってしまう』
『しかし実際問題、ダンジョン内に連れ込まれて殺害されたとして、それを裁けますか?』
『ダンジョンの入口は監視されている状況です。不審な侵入者がいて、入った時より出た人数が少ないとなれば調査する事は可能でしょう』
ダンジョンに残された死体がどうなるかも分かってないんだよな。ラノベなんかだとスライムみたいなのが処理してダンジョン内は綺麗だとかあるけど、今のダンジョンにスライムはいないからな。
不浄の獣も食事は必要としないっぽいし、死体はそのまま残るのか?
まだ日本のダンジョンで死者は出ていないという話だが、海外ではどうなんだろうか。階層が進むにつれて敵も強くなるらしいので、既に被害者がいる可能性もある。
「別に死体に限る話じゃないか。ゴミを捨てといたらどうなるのかは気になる」
日本人の習性でダンジョン内で食事してもゴミを持ち帰っていたから、放置したゴミがどうなるか知らないことに気づく。
今度試してみるかな。
『しかし政府としてこんな企業を放置しますかね?』
『ただダンジョンの管理は国にとっても頭の痛い問題です。獣が外に出ると分かって、民間の警備会社に監視を委託している状況。その費用は税金で賄われています』
警備費用というのはそれなりにかかる。万博などの大規模イベントで警備費用が積み上がり、予算オーバーしたというニュースもやっていた。
それが全国で1000箇所近い場所に人員を配置するとなれば、莫大な予算を必要とするだろう。
またそれを受け持つ警備会社としても、元々予定になかった仕事だ。急に人員を増やせと言われてホイホイと用意できるものでもない。
自衛隊や警察、消防などからも人員派遣は行われているが、やはりこちらも予定のなかった人員派遣。元の業務に支障をきたさない様に数を制限するしかない。
よく用意できたなと思うレベルだ。そこに無理が生じているなら、この体制は長く続けられない。
『そこを民間企業が率先して引き受けるというなら、国としても見て見ぬふりをするしかない可能性はあります』
『そんな無責任な!』
『そもそもダンジョンという未知の物を何の確証もなく管理できると言う方が無責任ですよ』
『ならば解明を進めるべきでしょう!』
『人を襲う獣が出る場所に研究者を送り込めと?』
実際、自衛隊とかに警護させつつ調べるくらいはやってそうだが、現実から離れた異空間ってだけで未知の塊。一朝一夕で解明できる物ではない。
キャンキャン吠える人自身が調べてみろと言いたいだろうな。
『ダンジョンを解明する為にも、獣を対処するにも、今以上に多くの人がダンジョンに入る必要があるのでしょう』
『そんな人を襲う獣がいる中へ入らせるなんて!』
さっきは解明しろと言ってた人が、人が入るのに反対してらぁ。綺麗な掌返しに笑うしかない。
ま、テレビなんて言うだけ番長が幅を利かせるだけで実際に行動するなんて一握りなんだろう。こども食堂がコメ不足で困っていると報道するなら、自分達で支援するなり募金を集めるなりすればいいのに、単に伝える事しかやらないからな。
あ、募金を集めても横領するだけか。
「テレビでわたりの会社が宣伝される点だけは役に立つのかね」
わたりの起こすダンジョン攻略会社は既にHPを立ち上げており、ダンジョン攻略者の募集をはじめていた。
ダンジョン攻略は体力勝負という事もあり、募集年齢は若めだな。34歳までとなっており、それ以上は経歴などで要相談となっている。武道の心得とかがあれば、多少年齢がかさんでいても可なのだろうか。
何にせよ、俺は対象外だな。
今後の事業計画にスポーツ用品会社との武器防具開発ってのがあるな。これが進めば安全性が高まりそうだ。
しかし、そういった話まで出ているとなると裏でサポートしている人員は思った以上に多いのか大きいのか。
商機を掴むのが上手いベンチャーが絡んでたりするのだろうか。
「思った以上にダンジョン攻略のペースアップが始まるかもしれない」
過疎ゲーを有名な動画配信者がプレイしたことで、一気に盛り上がる的な状況になっていく未来も見えてくる。
「ううむ、早い所フレックスタイムの申請が通らないものか」
人のいないうちに探索を進めておきたいものだ。
今日はイベント告知がある日だな。告知開始は15時なので、その直後くらいはネットの掲示板などでユーザーの反応を確認しとかないといけない。
ユーザーの生の声というのは、継続プレイに影響してくるからな。まあ大半は自分勝手なクレクレ要望なので無視するが、中には貴重な意見も混ざっている。UIの使いにくさとか、そういう不満は拾い上げて向上させていく必要があった。
停滞気味の掲示板もイベント告知からは活発に予測やら議論が始まるのでユーザーの言葉を拾いやすい。
「とりま、午前は会話シーンの続きだな」
脚本家からのチェックバックが来ていたので、要望に合わせて調整。間の取り方何かを大事にしたいそうな。シーンが切り替わる際にキャラが少し思案にふけってる風な様子を含める。
ヒロインが襲ってきた謎の騎士に何かを感じたとかそんな雰囲気だ。生き別れの兄かな?
昼休み。話題はやっぱりダンジョン企業だ。ニュースサイトやまとめサイトの更新が激しい。色々な憶測が飛び交っているが、結構無責任なものが多いな。
単に目立ちたいだけとか、人を集めて金を搾取するつもりだろうとか。
ダンジョンというものとどう向き合うのかという根本的な考察が欠けている記事も多い。
破滅アプリに掲載された警告文で、10年ももたないとの記載があるが、それが10年後の話と受け止めている人も多いのか。
既にダンジョンから獣が溢れる現象は起こってるんだが、前回はきっちり抑えられた事で問題ないと考える人が増えたか?
破滅アプリの中の人的には海外などで攻略が進んでいたら日本が遅れても問題ないんだろうか。でもダンジョン的には攻略が遅れた所から強い獣が出てきて、攻略しないとまずいぞと脅してくる気もする。
わたり氏の会社がどう展開するかだな。今の所はわたり氏の地元である名古屋での求人だけだがモデルケースとして成功すれば、ご当地ダンジョン企業ができるのだろうか。秋葉原とかだとアイドル部隊とかメイド部隊とかできそう。
「と言って獣と戦うのは女子にはむかないか」
戦闘で能力値が上がっても筋力が伸びる訳ではないので、最終的には素の筋力量が必要になる。となれば生物的に筋力量の劣る女性はダンジョン攻略に向かないだろう。もしくは魔術師は女性の方が向いているなんて事もありうるか。
「正確に能力を測っていかないと何とも言えないか」
わたり氏の会社に人が集まればそういった能力の比較などもできる様になりそうだ。何にせよダンジョンに潜る人が増えて恒常的に攻略が行われる方が獣の出現も抑えられて、解明も進んでいくだろう。問題はダンジョン内で人に会う可能性が出てくることか。
まあ俺が行ってる入口は路線の端の方だから企業が出張る優先度は低そうだけどな。
「ダンジョン攻略を進めようって方向だし、おれ個人の要望なんてワガママの範疇だな。ちゃんと仕事しろって話だ」




