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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
九章 第四回公式大会

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9-11.本戦 二回戦第七試合 セリスアネシアVSアルデバランリゲル

『さあ始まります二回戦第二試合!』

『ゆにこーん&コバルトペア!ビショップコバルトさんの支援を受けたゆにこーんさんの槍が超強い!』

『お相手はカフェオレ大好き&紅茶こそ至高ペア!果たしてどっちが美味しいのか!?』

『その戦争の話は一旦やめろ!』


 今日はもう試合がないので、またギルドに引っ込んできた。

 ニンカとグライドもギルドハウスの方に居て、公式配信を開いている。


「どもー、さっきぶり。手伝うよ~」

「別に上がっても良かったんだぞ?」

「明日アレにどうやって勝つんです?相談要るんじゃないかと思って」

「あー助かる~~~グライド相談乗って~~~」

「トラキチの方は応援しなくて良いのか?」

「あいつは応援しない方がいいんじゃない?"万全のサザンクロスに勝つ"、とか言いそうじゃん」

「めっちゃ言いそう」

「ちょっと今脳内でトラの声で聞こえたぞw」


 めっちゃ言いそうだし、言ったってことにして相談に乗ってもらおう。

 現実問題としてグライド以上にこの問題のことを分かってるやつは多分居ない。


「グライドだったら、どの装備で行く?」

「これです」

「即答www」

「フルジャスガは前提です。あとはお互いをどれくらい信頼できるか、という話になります」

「OK、ちょっと頭から組み立ててこうか」


 手持ちのスキルとロイドのスキルを全公開して組み立てる。

 予選と本戦でトラが使っていたスキルはすでにリストアップされていて、スキルツリーからこれは置いてきている、という判断もついていた。

 ……グライド、こういうまとめがすごい上手いんだよな。仮令盾を置いたとしてもサポーターとして優秀過ぎる。



 □■□■□■□■□■□


『勝者!カフェオレ大好き&紅茶こそ至高ペア!』

『ぐっどげえええむ!』


 グライドとロイドさんとリーダーが本気の相談を始めてしまい、ヒマを持て余して公式配信をぼんやりと眺める。


「オルタナティブさんは第二パーティも強いね」

「紅茶さんは最初期に遊び人そこそこ使ってた人だしにゃ~」


 いつの間にか近くに来ていたニャオニャオが一緒に画面を覗き込んだ。

 いつも一緒にいるねむねむ蝉(だんなさん)が居ない。


「おつかれニャオ姉、ねむ蝉は?」

「ねー君はリアルお部屋でめそめそしてる」

「めそめそしてるのか……」

「予選落ちたの結構凹んでるみたいでさー」

「まあ、乱戦って負ける時はサクッと負けるもんだしねえ。悔しいのは分かるけど」


 さっきちらっと確認したけど、ニャオ姉ねむ蝉ペアは予選Cグループ第2ブロックで、ブレイダーのねむ蝉が凡ミスかましてブラックマジシャンに沈められていた。


「それにゃ~、わたしは気にしてないんだけどね、楽しかったし。まーそのうち復活するからさ」

「りょーかい」

「で……あれ(・・)は何?」

「明日のトラキチ対策本部」

「なるほど、彼氏クン取られちゃったか」

「うっ、あ、えと、元々そのつもりでここで待ってたし、あの、あたしはいいっていうか、別に、」

「何この可愛い生き物~」


 ニャオ姉がぐりぐりと頭を撫で回す。

 うぐぐ、未だに彼氏とか言われると答え方に困る。相棒とかパートナーとか言われる時は平気なのに。


 ニャオ姉はふとトラキチ対策本部の共有画面を覗き込んで、しばらく考えた後、


「ニンカ、今日この後の予定は?」

「え、ヒマ。あ、いや最後から2番目の、セリスの試合は見たい」

「おっけー、じゃあちょっと付き合ってよ」

「どこに?」

「巨人の峡谷」


 フレンド:ニャオニャオ からパーティ申請が届きました。

 パーティ申請を受理しました。パーティリーダーは ニャオニャオ です。




 大会中だけど、それはそれとして関係なくゲームをしている人はかなりいて、巨人の峡谷の付近もほどほどに人はいる。

 街の中はそこかしこで公式配信を開いている人がいるけれど、流石にダンジョン前までくればそんな喧騒もなくなり、大会なんてやっていないんじゃないかってくらいいつも通りの風景が広がっている。


「で、何で巨人の峡谷?」

「ちょっと巨人シリーズ集め~。付き合ってよ」


 ここで落ちるドロップは巨人シリーズという、「どう見ても大剣だけど巨人の片手剣っていう名前の片手剣装備」とか、そういう系だ。

 EFO初回アプデで追加された118レベルダンジョンだし、すでに公開から2年が経っているのだけど、この巨人シリーズは大変ピーキー装備で、相性によっては今でも最前線で現役で使われている。


「あたしドロップ率ゴミだけど大丈夫?いわゆる当たり系全然出ないんだけど……」

「だいじょーぶだいじょーぶ」


 片手剣とメイスが今も前線で使われている当たり扱いだ。もはや人間には使えないという噂の大剣やハンマーみたいな大外れもある。


「ニンカと一緒に潜るの久々だね~」


 道中の敵を蹴散らしながらニャオ姉が笑う。


「そういやそうだね、ニャオ姉最近ボスとかも不参加だし」

「そうなの、リアルで色々あってさー、時間不明系は参加できないんだよね~」

「あー、そりゃしょうがないか」

「大会は時間大体わかってるからなんとかなるんだけどね。だからねー君が落ち込んじゃってるんだけど」

「なるほど、せっかくニャオ姉が遊べるはずだったのにー!ってことか」


 そりゃ凹むわ。


「わたしが練習できなくてペア練度が低かったってのもあるからさ~、お互い様だと思うんだけどねえ」

「やらかした方は凹むもんだからなー、なんとも」


 80レベルも下のボスなのでサクッと蹂躙する。

 いやもうここまで来るとビショップの支援とか過剰だって。

 ドロップはハンマー、大外れだ。さくさくと二周目に入る。


「ニンカはさ~、グライドとどうなのー?」

「うぇ!?いや、どうって……」

「話しにくいとか、どっちかだけ話しちゃってるとか、そういうことない?」

「え、あー、どうだろう。話のテンポは、そんなに変わんない、かも?」

「そか、それはいいねえ。言いたいことが言えなくなっちゃった時が一番しんどいから、口数減ったなって思ったら誰かに相談しな~」

「うぇ~、その時はニャオ姉相談乗ってくれるー?」

「――――うん、もっちろんにゃ~!若人の悩みを聞くのがおばちゃんの楽しみだからね!」

「ニャオ姉そんな年じゃないでしょwww」


 そんな雑談――というか、デートの話を根掘り葉掘り聞かれながら小一時間ほど回って、ニャオ姉が「しゅうりょ~!」と言った。


「え、ドロップコレ?」

「コレだよ?」

「マジ?」

「大マジ大マジ。さ、今第6試合始まったとこだし、時間もちょうどいいから戻ろっか」



 戻った先では3人はまだ肩を付き合わせて何か相談を繰り広げていた。


「そろそろセリス戦始まるよー」

「流しておいてくれ、耳は聞いている」


 ロイドさんが画面から顔を上げずに言う。ガチだなー。



『さあ選手の入場です!レンジャーのリゲル選手、ブレイダーのアルデバラン選手が入ってきました!』

『ブレイダーってやっぱ使いこなせると強いわ』

『ぼっくん大武器つかえねーもんな~。リゲル君も頑張れリアル弓道部!』

『お、向こうも来ましたよ!アサシンのセリス選手、奇術師のアネシア選手です!』

『毒アサ強かったな~!』

『神出鬼没の使い方動画みたいなの欲しいんだよねアネシアさん今度解説して!』

『……あれ、ギルド未所属対決じゃん』

『ベスト16で全員未所属は珍しいね~』


 神出鬼没の使い方動画は確かに欲しい。今度頼んでみようかな。


「はじまったにゃ~」

「うわーリゲル君ガン無視じゃん。ブレイダーって毒アサ奇術師で落とせんの?」

「短時間でってなるとちょい厳しい気がするねぇ。アルさん、ふつうに武器ガード上手いし」

「だよねー、リゲル君はアネシア狙いかな……奇術師結構怖いもんな」

「片方落とされて神出鬼没で逃げ回られるとどうしようもないもんにゃ~」

「んー、ん?あれ?宵闇の短剣じゃない?」

「え?見えない……何持ってた?」

「多分、イエローラクーン?」

「「「は?」」」


 さっきまで横で仮想ウィンドウを広げていた男三人衆が一斉にこちらを振り返り、配信画面を覗き込んだ。


「うわマジじゃん、アルさんには勝てないと思ってたけど、これはもしかするともしかするか?」

「助っ人さん、えげつねえこと考えるな……」

「お前はいい加減名前で呼ぶようになれ」

「うっす」


『無視してんじゃねーぞ!スナイプショット!ホーミングクロス!ブラスターアロー!』


『リゲルの弓がかっ飛んでいくぅ~!』

『アネシア選手の切り落としも上手いですね!』

『あ~でも全部は落とせない!』


「これやっぱイエローラクーンだよね?ってことは()()()()()()?」

()()()()()()だな」

「アルさんの対策具合にもよるけど……」

「とりあえず服はあれデフォ毒耐性ついてる鎧だよね?」

「っすね、グリーンフロッグシリーズ、フルセットで毒解除時間短縮っす。対毒エンチャに限り効果増大があったはず」

「対策、()()()()()()()か~」


 みんなが一様に微妙な顔になった。

 そして全員がこれがセリスの発想だと信じて疑わない。


『あっ!』

『アルデバラン、麻痺った(・・・・)ーーーーー!?!?!?』


『イカサマダイス 百発百中 貴方に特別な賞品をプライズイズアサプライズ

『奥義 真理の刃(ヴェリタス)


『プレゼント爆撃が棒立ちアルデバランにちょくげきいいいいい!!!!』

『からの!短剣奥義!!!!』

『アルデバラン選手、ダウンです!!!』


「わぁ…………」

「さんっっっっざん毒使ってきて、相手に毒対策強要させて、自分は麻痺装備とか……」

「毒対策と麻痺耐性は、両立しんどいからなぁ……」

「鬼か……」


『盾のいなくなったリゲル選手にセリス選手が迫る!』

『リゲル君避けきれない!ダウン!!!』

『勝者セリス&アネシアペア!』

『ぐっどげえええええむ!!』

『この作戦考えた人後で職員室に来なさい!グッドゲーム!!!』



「…………リーダー」

「うん、後でセリス対策も考えよっか……」

「正直、アルデバランには勝てないと思っていたからな……」


 リーダーとロイドさんが神妙な顔でため息を吐いた。


「とりあえずトラはこれでいいっすかね」

「いい気がする。ありがとねグライド」

「アレ、倉庫にあるか確認してこないとな」

「とってきたよ~」

「あ、ニャオ姉ありがと、倉庫にあった?」

「んにゃ、とってきた、巨人の峡谷まで」

「え?」

「さっき出た時に」

「は、え?」

「だから未エンチャなの。びっくり箱夜に来るって言ってたから、エンチャはそっちでよろしくね?」


 ニャオ姉がいつもの笑顔で取ってきたアレを渡す。


「相変わらず、気が利く」

「これ気が利くで済ませていい話?」

「そう聞かれると少し自信がないが……とにかく、ありがとう。ニンカも」

「どういたしまして~、頑張って使いこなしてね」

「まっかせろ」

「リー君もロイ君も明日頑張ってね」

「じゃ、見たいものは見たから今日は落ちるね~」

「おう、おつかれ、グライドもありがとな」

「いーえ、なんか相談あったら日付変わるくらいまでは反応できるんで、リアルの方にメッセください」

「多分ないけど、助かる」


 ひらひらと手を振ってログアウトする。

 ゲームの喧騒が消えて、現実の静けさが帰ってきた。

 明日の予定は空いてしまったけど、明後日は成人式だし、あまり潜れないかもな。

 そんな事を思いながら、孝宏(グライド)と立てているプライベートルームに入り直した。







 ――――この日、寝る直前まで潜って好きなだけ話をするべきだったと思ってしまうのは、ただの結果論だ。




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