閑話 昼食休憩の人々
『お疲れ様です、先生』
「おつかれさま、先輩も来て良かったんだよ?」
昼休憩でログアウトすると、メッセージアプリに着信が入った。
相手は午後からの相方で、用意していた昼飯を広げながら通話を繋げた。
『いやー俺配信とかはちょっと……なんか、切り替えらんないんですよね。一日中配信ならいいんすけど、午後は試合だし』
「そか、それは仕方ないな」
『先生は大丈夫そうですか?』
「いつも通りいつも通り。どうせ配信に出ても出なくても解説っぽいことしながら見てるのは変わらないよ」
『流石ですね、先生』
「まあ今回は解説役は譲ったけどね。リーダー君のが喋りは聞き取りやすいし」
『先生が質問役なの、ちょっと新鮮でした』
「適材適所だよ、上手く質問する役もこういう場には必要だからね」
唐揚げにガブリと噛み付く。
リーダー君もロイド君も自身が上手すぎるのもあって、視聴者が知りたそうな情報を先回りして質問する技能が少し低い。そこはおるくんの方が上手いんだよな。
『午後の解説って誰か聞いてます?』
「聞いているよ、ぼけっとぽけっとさん2人。昨日の夜から移動してて、午後と明日は解説だって」
『ああなるほど、あの二人不参加ですもんね』
「成人式はなー、どうにもならんからな。出るなと言うのも違うし」
『それは人としてアウトっすね』
「解説って形でも関われるのは、いいよね。あの二人が全くの不参加とか大会の損失だ」
『ってか今日午後で間に合うなら大会出れば良かったのに』
「多分レンタルVRセットを移動先に手配したんだと思うよ。がっつり戦闘は難しいんじゃないかな」
『あーなるほど……あー、おるさん荒れてるなぁ』
「そうなの?」
『つぶやいたーがちょっと……ほら、予選が……』
「……第3ブロックな、アレはな……」
『アレは事故ですよねぇ……』
「剣と魔法のRPGで暴走ダンプトラックに轢き殺される事を想定しろというのは酷だろう」
『まったくもって』
「あるくんとクレシェンドさんペアが真っ当な山羊車戦法で、涙出そうになったもん」
『めちゃめちゃ分かります』
麦茶をごくごくと飲む。食べ終わった皿を流しに積んで、背筋を伸ばし、固まった体を解していく。
『各グループ、先生は誰が上がってくると思います?』
「んー、そうだね、」
ぱぱっと予選を見た雑感で予想を立てれば、先輩が意外そうな声を上げる。
『――――の評価高いっすね』
「あの戦法は本戦でも有効なんだよ。それを完全に防げそうなのはあそこくらい。他のとこはどうかな……この昼休みで対策装備作れるかどうか……。ところで、お前昼飯食ったか?」
『……いつも通りっす』
「明日終わったらこっちに来なさい。飯行くぞ」
『悪いっすよ』
「いいから来い、ちゃんと食え」
『……っす』
いつも通りカロリーブロックで済ませたらしい生徒を呼びつける。
こいつはそういう私生活を潰すところがあっていかん。
「さて、少し身支度してログインするから、君も早めに来るなら向こうで合流しようか」
『うっす、行きますね』
ぷつりと通話が切れて、部屋の中に静寂が戻ってくる。
MMOはいつも騒がしくて、静かな時間を忘れられるから好きだ。
トイレを済ませ、VRポッドに寝転んで目を瞑る。
「騒がしい向こう側へ」
一時期気の迷いで設定した起動コマンドを久々に呟くと、マシンはなんてことなくそれを受け入れて、EFOが起動した。
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「で、何言おうとしてたの?」
『何の話だ?』
昼休憩は1時間と少し。一緒にメシというには少し短いし、絶対に会って話すほどの用事では無いので、とりあえず通話を繋げた。
通話の向こう側では親友がカロリーブロック片手に茶をすすっている。
「Dグループの頭で、なんか言おうとしてやめただろ?」
『あああれか……まぁ、何でもない』
「お前の何でもないはちょっと信用ならないんで、とりあえず言え」
こちらはコーヒー片手にサンドイッチを摘む。
ロイドは少しばかり逡巡して、口を開いた。
『何も言っていないけど、セリスなら気付くと思っていたと、言ったから』
「ん?ああポイズンレインの話?言ったね」
『セリスの事を、信頼しているのだなと』
「抜け目のない洞察とトンデモの思いつきに関しては、信頼してる」
『それがまぁ、少し、あー……これが適切な言葉かは分からないのだが、――妬けた』
「………………お前さ」
『ああ』
「出力ゼロか100しかない感じ?」
『言えと言ったのは君だが』
ロイはバツの悪そうに目をそらす。
「んー、そんな気にしてんなら、俺等も結婚するか?」
『は?』
「ほら、グライド達に倣って」
『……………………またコメント欄が腐るぞ』
「アレお前のせいじゃん……」
『君がウィスキーショコラを持ち込んだのが根本的な原因だが』
「うん、次からはちゃんと追い酒も用意しとく。それはそれとして――言ってもいい?」
『何だ?』
「貴腐人たち、俺とお前がペアを解消したとしても、それはそれで腐らせると思う……」
『分かっているなら余計なことを言うな』
真顔で言い合って、二人でふっと吹き出す。
「さて、じゃあ行きますか」
『そうだな、一旦ギルド合流でいいか』
「OK、じゃあまた後で」
ぷつりと切れた通話の向こうの親友は、力の抜けたいい笑顔だった。
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おるくん@公式大会予選落ちました 3時間前
ひどくね……?
おるくん@公式大会予選落ちました 3時間前
今アーカイブ見てるんだけど、もしかして俺初手狙われたやつ?
おるくん@公式大会予選落ちました 3時間前
まじかよ……
必殺技練習中ってもしかしてあれ?そんなんアリ……?
おるくん@公式大会予選落ちました 2時間前
ゲーム仕様的には問題ないって話なんで、まあ、言いたいことはヒマラヤ山脈並にありますが、だまります……
おるくん@公式大会予選落ちました 2時間前
流石に修正くるよね?来てよ???
おるくん@第四回大会予選落ちました 1時間前
ねころとリアル合流しました。
飲みに行きます。酒を飲まねばやっていられない。
おるくん@第四回大会予選落ちました 20分前
やっぱ納得いかねえええええええええええええええ
おるくん@第四回大会予選落ちました 15分前
ブレイダーとかに瞬殺されるとかの方がまだ納得できるんだけど!!!!
初手交通事故ってなんだよ!?せめて剣でやれよ!!!!!盾で殺すな!!!!!!




