9-3.予選　Cグループの窓の向こう

　予選Cグループが始まると、私達Dグループ宛に「待機所が開放されました」というメッセージが届いた。

「10分前までは任意らしいですけど、移動しちゃいます？」

「そうですね、移動しちゃいましょう」

「広場とインスタントルームどっちにします？」

　待機場所は他プレイヤーと交流できる広場と、ペア専用のインスタントルームが用意されている。

「インスタントルームで」

「まあ、知ってました」

　ノータイムで答えるこの人(セリス)は、本当にMMORPGをやる気はあるのだろうか。

　いやまあ私も今回はインスタントルームがいいか。大会って初めてだし人が多いとやっぱり緊張はする。

　一瞬の浮遊感の後、待機インスタントルームに到着した。

　EFOのメインチャンネルが表示されている大きなディスプレイと、椅子が2つ、テーブルが1つ。

　それだけの無機質な空間に、熱狂のような音と解説が響く。

『第6ブロック、ロックンロオオオル選手のバレットが炸裂していく！』

『こまたなさんのガードうまいな～』

『敵が来ないなら固定砲台は強いからな』

「あ、チャンネル変えられますよ、何かみたい試合あります？」

「んー特にCグループに応援選手とかはいないので、メインでいいかな？」

「はーい」

　大きい画面だとワイプされている部分までよく見える。

　多種多様なスキルが乱れ飛び、剣戟が振るわれる。

「……平和だ」

　全員が真剣なバトルロワイヤルで、どこも平和な要素はないのだが、つい思っていたことが口から溢れた。

「突然旋風のようにプレイヤーを轢き殺す戦車がないというのは、まあ確かに平和ですね……」

　セリスも微妙な顔で同意してくれた。

　Aグループ第３ブロックは本当にひどい有り様だったからなぁ……。

　決着がついた直後に誰もおめでとうと言っていなかったのは一周回って笑ってしまった。

「掲示板、山羊車をどう弱体化すればアレが防げるのかですっごい議論になってますよ」

「車椅子のプレイヤーを考えると、試合前の山羊車の利用は制限できないですよねぇ」

「それをすると多分別方向から怒られが発生しますね」

「あれをどっちが考えたのかは不明ですけど、よくまあ練習しましたよね……」

「そしてきっと、アレ(・・)がうまくいったら私達もそう言われますよ」

「…………練習はできなかったからセーフということになりませんかねぇ」

「ならないでしょうねえ」

　セリスが言い出したとんでもない作戦を思い出して、ちょっと遠い目をする。

　よくもまああんな極悪な作戦を思いついたものだ。そして今回の予選仕様上、それが決まれば100%勝てるというのが、またとんでもない。

『第２ブロック決着です！』

『グッドゲーム！』

『YuraYuraさん、ボルトーマスさん、おめでとう！』

『おめでとうございます』

「奇術師が勝ってるところは、奇術の時間が通ったところ、って感じですね」

「ですねー。そして奇術師対策だけ(・・)でセージを選んだ人はやっぱ落ちるのが早い」

「まあそれはそうですよね。練度もちょっと低めっぽい感じありますし」

「ふふん、奇術師は最高の職なのでさぞや怖いでしょうけれども！」

「まあ……実際怖いですよね、突然プラス200%みたいなバフが来るのは」

　100人規模戦闘での奇術の時間のバフ効果は+200%。半分の50人になっても100%。ビショップの全力バフ並である。

　それをリセットできるのはセージの覚醒効果のみで、今回の予選参加数はセージが明らかに多い。

　……のだけど、そんな理由でセージを選んだ人はもちろん勝ち進めてなくて、結果的に予選通過はブラックマジシャンのほうが多いようだ。

『第１ブロック動きました！ノール選手が走る！』

『お、正面から行くのか』

『いや、細剣士の……アビス選手が裏に回っている』

『間に合うかー？これ』

『真夏日選手がチャージしているスキルにもよるが……ファイアバレットだな、じゃあ間に合わない』

「スキル発動よりも前に溜めてるスキル分かるのってすごいですよね」

「いやほんとに。見分け方動画見たことありますけど、動画で見ても全然わからなかったですね……」

『トンガラトン選手、真夏日選手ペアの勝利です！』

『おめでと～！午後はよろしくね！』

『グッドゲーム！』

『おめでとうございます』

「さーて、これで全部ですかね」

「まあ予選は時間詰めないそうなので、普通に予定通り11:15スタートですね」

「少し時間あるので、離席しますね」

「はい、11時くらいで戻ってくださいね」

「分かってますよ～」

　さて、リアル身支度してきますか。