サザンクロスの大晦日
「それじゃ、おっつかれさまでしたーーー!!!」
「「「「「「「「「「おつかれさまでしたー!」」」」」」」」」」
大晦日の夕方。
昼から始めた鬼ごっこは盛況で幕を閉じ、ようやく最後の景品交換が終わって、ギルドハウスに撤収してきた。
「いやー今年は時間通りに終わりましたねー」
「流石にもう運営には怒られたくないのでね!頑張った!」
「で、ビリは誰?」
「俺っすね」
「グライドはもう仕方ないと言うか、ビリになってもらうためだけに参加してもらったから……」
「タッチでクリアだと、どうしてもそうなるよねー。ロイヤルガードは足遅いし」
「倒せ、だったら最後の関門だったんだけどねー」
「それ誰もクリアできないやつな」
がやがやと会話をする。半年ほど前のアニメコラボのときの専用衣装をいくつか組み合わせた鬼役衣装を複数人が着ており、エフェクトがギルドハウスの大広間をキラキラと行き来する。
「リーダー、ポーションどーする?」
「あー、倉庫に入れといて。またこういうイベントのときに使いまわそう」
「さんせー!も~ギルドマーク作りたくない!」
「いやほんっとごめんね、頑張ってくれてありがとう」
そうして片付けも概ね終わり、――まあ錬金倉庫や各種素材の惨状からは目を背けるとして――最後に残ったアイテムを取り出した。
「まさかこれが余るとはな……」
「全種コンプ、5人もいたのに、誰も選ばなかったねぇ」
引き換えアイテム7種コンプ専用アイテム、「未開示情報で作成した盾」だ。
ゲーム内新仕様を発見し、それで作成した最先端盾。情報は大会後開示予定なのでフルコンプすれば大会で唯一この盾が使えます、という大目玉商品だったのだけど。
実際配信コメントでは今日来れてなかったおるやですぺなのメンバーから絶叫が響いていたんだけど。
「敵意の塊、そんなに欲しがるほどのもんだったかな……?面倒なアイテムではあるけど、さほど作成難しいわけじゃないし……」
なぜか4枚以上を入手した人たちが軒並み敵意の塊を欲しがって、景品用に用意していたものが売り切れて緊急にギルド倉庫からも取り出した。後で作り足しておいてもらわないと……いや、最近ちょっと頑張ってもらいすぎてるから、一旦自分で作るか。素材が無駄になりやすいってだけで別に自分でも作れるしな。
「いやあれは、なんというか、ニンカとグライドが悪いだろう」
「それなぁ」
「タイミングが悪かったと言うか、良すぎたというか……」
「なんかすんません」
「あ、あたし悪くないし……」
ニンカとグライドが顔を赤らめて目をそらす。
ああうん、そうね。明らかにソレが理由だもんね……。
「クリスマスデート配信のやつが欲しい、っていう気持ちは、まあ分かるからにゃ~」
「デート配信してないし!」
「え、あれデート配信のつもりじゃなかったの?」
「どう見てもいちゃいちゃ配信だったけど?」
「違うったら違うったらちがーーーう!だいたいアイテムスタックしちゃうから、いつ作ったやつかなんて分かんないじゃん!!」
「それはそれよ」
「ってかあれはなんで配信してたの?」
「グライドが錬金見たことないって言うから……」
「アーカイブ残らないなら、まあ良いかと思って……」
「がっつり残ってんだよな~」
「ホントだよ!!いつも非公開じゃん!なんでアレだけ公開なの!?」
「あんないいネタを非公開なんてするわけ無いでしょう」
「ドリアンの人でなし!!!」
やいのやいのと騒ぐメンバーに順に声をかけていく。
この終わったあとにみんなでワイワイと話す時間が欲しくて、年末イベントやってんだよな。
「リーダー」
「おう、ロイドおつかれ!」
「ああ、お前も進行に鬼役とお疲れ」
「いやー意外と捕まるね。流石に」
「アレで逃げ切れるのはねむ蝉の特殊技能だからな」
一時期より明らかに柔らかくなった表情で親友が言う。
「今日はそろそろ落ちる」
「ああ、俺ももうちょいしたら落ちるよ。明日結構早いしな」
「そうだな、流石に公式生放送は遅刻するなよ」
「しねーよ」
「……じゃあ、良いお年を」
「そうだな。良いお年を。来年もよろしく」
ロイドが小さく手を振ってログアウトした。
向こうの席では公式の年末配信を集団視聴しているのか、何か歓声があがっている。
今年も良い一年だった。
来年は何をしているだろうか。
「リーダー!公式配信一緒に見ましょ~!」
「え~俺明日早いんだけどな~」
そんなことを言いながら集団に合流する。
願わくは来年も、こうやってみんなで騒げますように。
間章ここまで、次回から9章になります!
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