あなたのなまえ
「さ、サザンクロスの勧誘を、蹴ったあああああ!?!?」
「シアさん声大きい!」
「す、すみません」
「あと、断ったわけではなくて、保留にしてもらってる状態です。答えを出す頃には状況が変わって、加入を断られるかもしれませんが」
「いやー、それはないんじゃないかなー」
「良ければ一緒に遊びませんか」なんて気軽に誘った先で、こんな爆弾発言されるとはつゆ程も思わず、大絶叫が森林に響いてしまった。いや響いたように聞こえるのはパーティを組んでいる私と彼女だけだが、それはそれとしてとんでもないことだ。
シーフさんは困った顔で曖昧に微笑っていて、状況が読めない。
「え、えーと、シーフさん、ギルド一切入りたくない感じですか?」
「知らない人のギルドには入れないですねぇ。人間関係出来上がってる場所にゼロから入るとか考えたくもないです」
「あーそれは分かります。仲の良い人達の間に入っていくのって勇気いりますよね」
ですです、と彼女が頷く。
「じゃあサザンクロスは、なぜ……?」
それなら一層サザンクロスは最適解だ。リーダーさんとロイドさん両方と知己、ニンカさんともそれなりに仲が良いと聞いている。
「自信がないから、ですかねぇ」
「えぇ…………?」
何いってんの、この人?
「ニンカさんにもそういう顔されました」
「そりゃされるでしょうよ。今個人勢ではトップ実績だって言う自覚あります?」
「トップではないでしょ」
「いやトップでしょ」
ギルド未所属では間違いなくトップだよ?サザンクロスあたりにアンケをとってもらってもいい。
「そのトップの実績は、私のものじゃないので」
「……どういう?」
リーダーさんに呼び出されてボス戦に参加した。
スキルはこのスタイルのための苦肉の策で、毒アサはスキルポイントのやりくりが難しくスキルは適宜追加状態。最近増えている避けアサシンのスキル構成を見てもっといい構成があると再認識した。
今回の稲の発見も、リーダーさんに連れて行かれたから発見できただけで、自分個人では新規エリア突入は一ヶ月は後だった。そこまで過ぎればさすがに誰かが発見していたはずだ。
「私自身は何も行動を起こしていないんですよ。状況に流されて、流された先がよかっただけです」
「最初にリーダーさんに発見してもらった事自体が、シーフさんの実力だと思いますけどねえ」
「そこは運100%って認識ですね」
運も実力の内だと思うけど、シーフさんはそれじゃ納得しないんだろう。
「でですね」
「はい」
「とりあえず、ちょっと自信をつけたいなと思いまして」
「はい」
「とりあえず、匿名希望をやめようかと…」
「ほう?」
「シアさん、セリスって呼んでもらえませんか」
彼女はそう言ってふわっと微笑んだ。
「っ!もちろんです!セリスさん!」
「はい、これからも仲良くしてね、シアさん」
なんだか一歩仲良くなれたようで、すごく嬉しい。
「あ、じゃあ公式発表の名前とかも出すんですか?」
「いやあ〜そこはまだ……そこということで……」
「先はまだまだ長そうですねぇ」
――――リーダーさんにはもう少し、待ってもらうことになりそうだ。




