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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
六章 トップファイターと今はなきギルド

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6-5.あの日の配信の向こう側1

「はい、じゃーやってくよ新ボス討伐。初見だけど可能だったらクリアしようぜってことで」

「っしゃおらやってくぞ!」


 配信挨拶中、やや後方で怒声に似た声が入った。


「……あー」

「あ"あ"?っち、クソ野郎が。おら行くぞ、遅れんじゃねえぞ!!!」


 わざとこちらの配信カメラに入るように通路を突っ切るトラキチ。

 以前に増して鋭い眼光と刺々しい空気、そして反比例するように周囲からは萎縮した雰囲気が漏れている。


「……えーと、どこまで話したっけ、ん?ああ気にしないでね。失礼なやつだよねー。えーと、そうそう、初見だけど出来ればクリアしようぜってことで、編成はソードマン俺、ブラックマジシャンのロイド、レンジャーのねむねむ蝉、ビショップのニャオニャオ姉さんです。かなりガチめ編成〜。じゃ、やってくよー」


 新規エリア双子の悪夢。エリア探索は昨日それなりにやったので、今日はボスチャレンジだ。

 トラキチの入って行った入口を見る。


 ――なんで、ああなっちゃったんだろうな。


「……リーダー、行けるか?」

「ん?行けるよー、じゃ、出発!」


 ロイドは何でも気付くなぁ。ってか危ない、今は配信だった。



 道中はさすが高難易度ダンジョンと言ったところだが、ガチ編成のサザンクロス(おれたち)にとっては、まぁ程々?

 毎度必ず敵が2体で連携完璧なのちょっとしんどいけどね。タンク2人編成の方が安定するかもしれない。

 タンクなー、タンク足りないよなー。

 ソードマンは純タンクって訳では無いしなぁ。


 はいボス前。

 気持ちと各種ポイントの回復をしますよ。


「マッピングの最短経路を通っても30分か……結構かかるな」

「移動にこれだけかかると周回には向かないかなー。まぁボスドロ次第か」

「回復終わったにゃー」

「こっちも大丈夫っす」


「っしゃあ!行くぞボス部屋!!!!」


 あー……あーー…………

 背後からトラキチが追いつく。

 完全にかち合った。最短経路じゃなくても35分くらいなのか、見落としてるだけで最短経路他にもあるのかもなぁ。

 ってかトラキチ、お前突入時6人パーティじゃなかったか?今3人だけど。


「っち、おら行くぞ!!!」


 トゲトゲしい声とともにトラキチがボス部屋に入っていく。


「ん、俺らも行きますか」


 オープンフィールド型ダンジョンでもボス部屋はインスタントフィールドになるので、特に気にせずこちらもボス部屋に突入した。



「は?」

「あ"あ"?」


 入った先にはトラキチパーティが居て、そしてボス部屋は閉じられた。


「レイド扱い……?公式情報は新規上級ボスだったはずだが……」

「初めてだけど、もしかすると共闘可能ボス?」

「そういう情報は先によこせよ運営〜〜」


「クソが。右のを速攻で落とす。アイツらに遅れんじゃねえぞ」


「何を勝手に……まぁ、しゃーない。左貰いましょっか」


 事故ったなー。まぁ初見だからそういうこともあるか。

 いきましょうか、不倒の双対殿。


 俺たちはメイスを構えた巨人に向き直った。





 おかしい。

 さっきから、ダメージが殆ど通らない。

 いや、なんかダメージ予約みたいな物が入って、キャンセルされてる……?


「ギミックの正体が分からないな……」

「だね、ちょっといくつかいつもと違うことやって行こうか」


 五月雨切り、烈火、通常攻撃。うーん、イマイチ

 そうこうしている間にも敵の攻撃でジリジリとこちらのHPが削れていく。


「ウォーターショット」


 ロイドが初期魔法を使う。


「っ!通った!」


 原因は分からないがダメージが通る。

 そして最高ダメージを取ったロイドに、最大ヘイトが向いた。

 巨大な礫が後衛に直撃し、


「プロテクション!!!」


 ニャオニャオの防御魔法の声が響き、


「ニャオ姉!?」


 DEADマーカーと共にニャオニャオが消えていく。

 死体が残らない。そもそも今回は出来ればクリア編成だから風切羽も持ってきている。なのに発動させなかったということは、死亡即時排出?ゾンビアタック禁止か?

 そういうことは先に言いやがれ運営!


「ニャオ姉落ちた!」

「復活禁止かもしれん、死ぬなよロイド!」

「無茶を言う……!」


 最大ヘイトのロイドがかけ出す。


「ピアースショット!」


 ねむ蝉の低火力技が通る。

 ヘイトが移動して、ねむ蝉に敵の攻撃が着弾し、蒸発した。

 低火力単発が通ってる?

 いや、烈火も通常攻撃も入らなかった、それだけが条件じゃないはずだ。


「ウォーターショット!」


 ロイドの攻撃で、1本目のHPが割れた。

 さほど高いダメージははいっていないはずだ。ギミック型でHP自体は低いタイプらしい。


 挙動変更による全体なぎ払い攻撃が襲う。ジャストガードには成功したが、ロイドは落ちた。


「クソ野郎が……」


 振り向けばトラキチパーティもあいつ一人。

 向こうもまだ倒せていないのか……ああ、なるほど、不倒の双対(・・)ってそういうこと。


 全く同じだけ残った2本のHPゲージ。

 どうやら今まで削れていた分は、完全な偶然だったらしい。


 トラキチの動きに合わせて攻撃を入れる。

 それでも通らないダメージも多いが、明らかに攻撃が入るようになった。

 トラキチがこちらをちらりと見て、盛大な舌打ちをする。一度跳ねる様に距離を取ってから、武器を剣に変更した。


 おそらくギミックの正体は同時ダメージ。それも、ほとんど同じダメージをほぼ同時に入れた分しかダメージが入らないと見ていいだろう。

 ソードマンとファイターじゃ、剣武器の火力はソードマンのほうが高い。

 トラキチに合わせて少し下のスキルを使っていく必要がある。あの暴走機関車と一緒にか。頭の痛いことだ。


 それでも結構な速さで2本目のHPもブレイクした。

 スキル回しの腕は流石だよ、クソが。


 HP三本目、色的には最後のHPだろうが、ここにきてまたダメージが入らなくなった。

 ダメージの受付時間は先攻撃からおそらく0.5秒くらい。ここまでダメージが入らないということは、下手をすると本当に同値ダメージしか受け付けない、とかか?

 いやそれ、打ち合わせなしには……



 敵の奥義が飛んでくる。ジャストガードで弾き、即座にHPポーションを使用する。


 今見えた。確かに、見えた。多分アレだ。


「クソトラ」

「なんだクソ野郎」

「ギミックは同時同値ダメージだ」

「んなこた分かってんだよ舐めてんのかてめえ」

「奥義中、脇腹に一箇所だけ亀裂が見えた」

「ああ?」

カンストさせる(・・・・・・・)。いけるか?」

「――誰に物を言ってやがる。てめえこそスカすんじゃねえぞ」


 トラキチが武器を槍に持ち替える。ここで一番難しい槍を選択するところが、確かにお前だと思わせる。


「そっちこそ誰に言ってやがる」


 だからこそ、信用できる。


「俺は唯一」


 お前は唯一


「お前を初見で見切ったファイターだぞ」


 俺が勝てないと諦めたファイターだ。



 どちらともなく距離を取る。

 攻撃はどうせダメージ入らないので行わず、ただ避けることにだけ専念する。

 ほどなくして、敵が奥義挙動に入った。


「「アタックブースト。ウェポンエンチャント《雷》」」


 タイミングは相手が腕を上げるその一瞬。


「秘剣」

「奥義」



「光雷一閃」

「霹靂通貫」




 二つの雷が、二体の敵を貫いた。




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