6-4.推し配信者と今はなきギルド
「結局、トラもリーダーもほとんど何も言わないまんま、ギルドトラ小屋解散しちゃったんだよな……」
画面の先ではトラとリーダーが人間びっくりショーのような動きで敵を蹴散らしている。
時間が経って少し人が増えてきたせいか、あまり長距離モンスタートレインせずにちょいちょい殲滅しているようだ。
二度目のボスまで到着。ボス戦フィールドが展開されて、トラお決まりの初級奥義三連打が決まる。
槍・剣・拳と装備画面から即座に武器を切り替え、あらかじめチャージしておいた奥義を次々に繰り出すこの奥義連打、視界の1/3が設定画面で埋まるというとんでもないデメリットを持っており、とてもではないが常人は真似できない。
以前完全一人称視点で配信をしていたが、奥義三連打からの即時剣盾に持ち替えて、設定画面のせいで見えてない視界外からの攻撃をジャストガード、とかいう意味わからんプレイングをかましてチート扱いされていた。
リーダーの槍奥義も入って、一回目よりボスHPの減りがいい。
『っしゃいくぞっらぁ!』
トラの威勢のいい声が響き渡り、奥義三連打後にしては珍しく槍装備でぶつかっていく。
そしてボスのHPが半分くらいになったところで、雷を纏った竜巻のようなものが視界を埋めて、全滅した。
『はい、全滅しました』
『ボス奥義、移動式の旋風だな。雷属性付きの』
『後で録画も確認必須だけど、3、4本あったか?』
『俺様視点視界内に3本、音的に視界外に1本だな』
『お前のその野生の勘みたいな見切りマジ意味わかんねぇよな』
配信はリーダー視点だが、そもそもこちとら視界に竜巻が映ったと思ったら全滅していてそれが複数本あったなんてことすらわからないのに、トラは視界外にあるやつも分かるとかいうのだから更にワケがわからない。
本当に同じ物を見ているんだろうか。
『予備動作少なかったな。HPゲージ依存っぽいから後衛入りでやる時はHP管理させたほうが良さそうだ』
『ま、その辺はロイド任せだな』
『そのうちキレられっぞ』
『割とよくキレられてる』
「リーダーとロイドもいいペアだよなー。バランスが良い。無茶ぶりのリーダーと副官のロイドって感じ」
『今日はここまでだな』
『そろそろ一時間か。じゃー終了で。夜に雑談枠取るからスペチャ読み上げはそっちでねー』
『今日中に俺様視点上げっから、全員再生しろよ』
『じゃ、オツカレサンシタ~』
===== 配信は終了しました =====
夜上げ動画も楽しみだ。
「トラ・リーダーペアやっぱ好き~夜動画超楽しみ!っと」
つぶやいたーに投稿すると、速攻でトラ小屋仲間から反応が来た。
『夜動画ってどこで告知あった?』
未告知ゲリラサザンクロスチャンネルコラボ、リアタイ逃したらしい。かわいそう。
「サザンクロスチャンネルでゲリラコラボやってた」
『は!?リーダーと!?コラボ!?!?うっそやろ見る!!!!』
「今丁度終わったとこだゾ」
『神は死んだ』
「いつもの新ボス一当て企画だった」
『なんで教えてくれなかったのっ……友達だって信じてたのにっ……』
「見入ってて投稿忘れちった(ノ≧ڡ≦)」
『死ね』
シンプルに暴言来たな?まあ気持ちは分かる。逆だったら俺も言う。
リーダーとの正式なコラボ配信。まさかあの時には実現するなんて思いもしなかったよなぁ。
不倒の双対ボスの謎の共闘クリアアナウンスから数日、つぶやいたーの動きもなくて、動画投稿も配信も突然パタと止まった。
久々に投稿があったと思ったら『配信枠取りました。今後の活動についてです』とだけ書かれていて。
マジ心臓が止まるかと思った。だってこれ引退の流れじゃん。
本気で引退会見を覚悟して襟を正し座ったパソコンの先には、珍しくゲーム画面じゃなくリアル顔出しで配信を開始したトラが、明らかに憑き物が落ちたような顔で映っていた。
『EFOのギルドなんだけどな。解散することにした』
冒頭一番の喋りだしは、ソレだった。
『あー?あー、ゲームはやめねえよ。配信もやめねえ。ただ、ギルド運営は、向いてねえわ。ちょいギルド自体を存続させんのもどうかなってラインだから、すぱっと解散させる』
『今後だが、とあるギルドから勧誘があって、まあ多分入ることになる。基本的には今まで通り自由だけど、大規模なギルド戦とかは参加する感じだな』
『正式なことはギルド加入決定してからもっかいどっかで話す』
『こないだの不倒ボス?あー、成り行き。クソ野郎の方で動画出てねえのか?消えてる?マジか。あー、パーティ単位転送じゃなくてボス部屋に入る時に受付時間があるタイプだった。ほとんど同時にボス部屋入ったから、結果的に共闘になっただけだな』
『ギミックボスだった。あの配信アーカイブは再投稿はしねえから。まあサザンクロスが適当に倒して上げるだろ、そっち見ろ』
ここ数ヶ月のヒリついた空気や言葉遣いが消えて、ぶっきらぼうで口はあまり良くないが、落ち着いた声音が響く。
何かあったんだろう。
何があったのかは知らないけれど、きっと悪くないことだ。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、気がついたら手が勝手にコメントを書いた。
「おかえり、トラ」
ずっと待ってたよ。帰ってきてくれるって信じてたよ。
そのコメントを皮切りに、似たようなコメントが続く。
『は?あ、いや、あー、お前らバカか?』
バカだよ。あんな状態でもずっと待ってた、バカばっかりだよ。
『だあ!もーうるせえ!あー、一度しか言わねえかんな!…………心配かけた。ただいま』
リーダー視点配信のアーカイブが上がる。
開幕グダからのフィールド疾走をもう一度眺めて。
「本当に、おかえり、トラ」
今更泣きそうな気持ちになりながら、ごまかすようにヘッドギアを付けた。
「さて、俺もEFO、やりますか!」
――――トラと同じゲームするの、楽しいからな!




