6-2.とあるリスナーの述懐1
『えーと声入ってるー?画面出てるー?OK?大丈夫?はい、じゃあ配信やっていきましょっかー。おはようございますカッコキョウベン、サザンクロスのリーダーです、今日もよろしくぅ~』
メンテが明けたが、珍しく彼の配信が始まらなかった。
いつもとメンテ明け時間が違うから、何か予定がつかなかったのかもしれない。やや残念に思いながら、オススメに出てきた配信を開いた。
サザンクロスチャンネル。EFO配信で実力・人気双方でトップを独走する、ギルドサザンクロスのリーダーによる2周年アプデ配信だった。
「久々にリアタイするなぁ」
トップ人気だしもちろん有名どころの動画はそれなりに見ているが、いつも彼の配信を優先するので、あまりリアタイで見ることはない。
いつもより抜けた気持ちでコーヒー片手にノートパソコンの前に座る。そろそろこたつを出すべきか、なんてことを考えていたら、
『っしゃ、やってくぞ!』
「へあ!?あっづ!?うわっやば、ティッシュ!」
突然聞こえてきた声に持っていたコーヒーをぶちまけた。
『えー、二周年記念企画のアンケ取ったらですね、なぜか最大得票が"トラキチペア配信"で、えー、誠に、ま・こ・と・に・不本意ながら、この暴走機関車と一緒にやっていきます…』
「マジ!?そんな告知なかったけど!?!?」
『みんなほんとに見たい?ほんっっっっっとうにコイツとの配信見たい?』
「見たいに決まってうわ痛ってえぶつけた!?」
なるべく急いで片付けて戻ろうとしてローテーブルの天板に足を殴打した。いやっまって、進行待って……ここまで来て見逃したら泣くに泣けない。
『俺様視点は後で動画上げっから、全員再生しろ』
「後上げ了解~っと。うっわー楽しみ!」
この二人、目的がかち合ってしまってうっかり同時配信になる以外、基本的にコラボらしいコラボをしたことがない。
かち合い配信は超絶人気なので、動画人気だけ見るならコラボをするべきなんだろうけれど、腐ってもライバルということだろう。今回は本当の本当に珍しい配信だ。
『はいはい。まだなーんも情報見てない完全初見ラン。ああ、死にまくるの前提なんで風切羽は使いません。じゃー走ってくよ』
『おら付いてこいクソ野郎』
『お前今槍じゃねーか後ろ走れよこの暴走機関車!!』
あー、いいなぁこのコンビ。
ずっと彼を追いかけていた。比較的最古参組といって良い視聴者だという自覚がある。
だけど、今の彼が一番輝いている。あの頃は、本当に見ている方も辛かったから。
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…
『あーでな、明日からの配信なんだが、もうこのゲームやめるわ』
「えっ!?やめんの!?ここまで育てたのに!?」
ファーストクロニクルオンラインの配信中、最上位ボスの一角を倒し終わった後に彼はそう言い出した。
『明日公開されるエリシオンファンタジーオンラインってやつがあるんだが。ああそう、VRMMOだ。そっちをやってみて、あんまりにアレでなければそのまま移住しようと思ってる』
エリシオンファンタジーオンライン。一応名前だけは聞いている。それなりの大きさのメーカーが打ち出すVRMMORPG、最近のMMOにしては珍しく、ストーリー型という噂だったはずだ。
『なんていうか、アレだ。別にNPCとの交流で特殊ジョブへの道が拓けるとか、そういうの否定するわけじゃねえが。それ以外では基本最強にはなれねーってのが性に合わん。自己研鑽だけも最強への道がある、NPC交流したほうが近道、くらいならいくらでも研鑽すっけど、そうじゃねーじゃん、このゲーム』
ファーストクロニクルは、確かにそういうゲームだ。
高度AIによる即時判定を使用してスキルやジョブがユニークに進化していくスタイルのゲームは、昨今のMMOには良く見られる型だ。
その中でも特にこのゲームは、上位スキルの進化判定にNPCの思考を流用していて、つまりNPCに「こいつすごいな」と思わせることでスキルが進化していくという仕組みを取っている。
ゲームアオリ文的には「世界が貴方を認めるほど、貴方は最強になれる」だったはずだ。
NPCといかに上手く関わっていくかというのが強くなるための肝で、良くも悪くもNPC交流が必須だった。
彼には、トラには、確かに肌に合わなかったのだろう。
『つーわけで、ちょっとNPC交流とか飽きてきたから、今度は交流皆無でやっていけるストーリー型やるわ。EFOはそっち系らしいんで、とりあえずやるから。EFOダメそうだったらしばらくは一人プレイ系やっからオススメ書いとけ』
いつかはこうなるだろうと思っていたことが、今日起こった。
まあ移住するならついていくだけだ。トラと同じゲームをするの、楽しいからな。
俺は楽観的に、エリシオンファンタジーオンラインというゲームの情報を調べ始めた。




