5-11.トップタンクの絶叫
「くっそご迷惑おかけしました!」
翌夕。大学上がりにログインした先で、ロイドとリーダーに頭を下げた。
「迷惑はかかってないよー。心配はしたかな」
「はい。ご心配おかけしました」
リーダーのこういう言葉選びはさすがだと思う。
「言いたいことは言えたか?」
「言えました」
ロイドはなにかしらしているらしい仮想ウィンドウをいじりながら、声だけでそうか、と言った。
言いたいことは本人に言っておけ。アプデ初日にロイドに言われたことが実行できなくてこんなに迷惑をかけてしまった。
「結婚するんだって?ウチだと二組目?」
「だな」
「え。なんで知って…?」
ウェディング準備を調べたらかなり面倒な素材要求があって、しばらくはそちらにかかりきりになりそうだった。今日はその相談を早めにしようと思っていたんだけど。
――ああ、ニンカが先に言いに来たのか。
「だいぶ話題になってるからねぇ」
「そう、なんすか?あれ、ってかサザンクロスに結婚勢いましたっけ?」
「ねむねむ蝉とニャオニャオがそうだな」
「結婚式の記憶ないんすけど、初期組?」
「?あの二人はこのゲームの前からだよー?」
「?」
「??」
「…………お前もしかして、昨日今日と掲示板見てないのか?」
「え……見てない」
昨日のログアウトからずっと車椅子のサポート動画を見漁っていて、他のことはウェディング手順を少し調べただけだ。
ちょいちょいとロイドが手招きしてウィンドウを共有する。
映っていたのは見慣れた公式BBSで。
【俺も】ボートタウンで愛を叫ぶ 三絶叫目【結婚したい】
ごめんちょっとまってタイトルだけでお腹いっぱい待って待って待ってってば。
「なんっ!?!?!?」
「お前、ウィスパー使わないで会話してただろ」
「………………」
パーティを組んだ記憶すらない。
「ボートタウンの例の木、一夜にして愛の木として観光スポットになってるよー」
「はあ!?!?」
いやなんで場所までバレてん……俺のせいか。
ボートタウンの転送石から、いつもは愛想の良い有名人が脇目も振らず全力疾走。
あの見えにくい木は隠れ場所としてはそれなりに有名なので付いてこれた人がいて。
ウィスパー使わず、それどころかパーティも組まず会話していたから話が筒抜け。
なるほどね。なるほど…………なるほど……ね……。
「あの、まず誤解を解いておきたいのですが、結婚はウェディングシステムの話で……」
「うんうん、リアルでもデートするんだよね?」
「あの!!今その話ちょっと置いておいてもらってもいいいすかね?!?!?」
「あ、グライドじゃーん、おっひさー」
ログインしたニャオニャオさんがぐしゃりと俺の頭を撫でた。
「結婚おめっと、式は呼んでくれる?あ、知りたいことがあったら何でも聞いてね?デートどこ行くの?映画て聞いたけどホント?」
まって、話をややこしくしないで。
「あ、グライドさん!話聞きましたよ〜おめでとうございます!」
ほどよい時間だったのもあり、ログインしてきたメンバーから次々声がかかり、収集がつかなくなってきた。
「とうとうくっつくのかー」
「まあニンカは見たまんまだしな」
「さっさとくっつけクソ砂糖どもって感じだったよね」
「俺も結婚したーい」
「じゃあ一人ぼっちのソロちゃん拾って育てなきゃ」
「光源氏か。えーボス周回はしたいからなー」
「そういうとこだぞ」
「グライドは式いつにすんの?来月にはニンカ誕生日だっけ?」
「あ、式場どこ?行けそうなら行きたい」
「私も行きたーい!」
いやまてまてまてまて、お前ら、本当に、
「人の話を、聞けえエエエ!!!!」
5章ここまでになります!
ちょっと前に活動報告で書きましたが、少し気持ちと書き溜めに余裕を作るため、二日ほどお休みいただきます。
6章は3月1日からの投稿開始です。よろしくお願いします。
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