閑話 毎年恒例のワークスペース
おもち視点
集合したワークスペースにぐったりと溶け込むおっさん4人。
手元のウィンドウには毎月ロイドから送られてきている振り込み証明メール、そして開業を行っていない副業扱いの人向けの確定申告方法のまとめ。
「三年目なのに毎年全くわからなくなる……なんでこれだけ記憶飛ぶんだろう……」
「ここの税額ってどこの数字いれんだっけ?」
「医療費控除とかさあ!個人番号と医療費全部紐づいてんだろうがよおおおおお」
「ちょっと多めに持ってってもいいから全部勝手にやってくれ……」
毎年恒例、確定申告分かんなくなっちゃった集団INサザンクロスである。
ロイドの空いている日に集まって確定申告の書類作成を教えてもらう会だ。周囲に収入が知られたくない場合は自分で税務署に聞きに行くようにという約束のもと、いやまあ年収知られたって別にどうでもいいよと思っているおっさん連中が集まっている。
ロイドは税理士の資格は持っていないので、国税庁のこれを使うとか、この欄はこの数字からこう計算して入れるとか、そういうのを教えてくれるだけなんだけど、それがないと本当になんにも分からない。なんで金を払うためにこんなに苦労しなければならないのか。ちゃんとやらないと追徴課税じゃねえんだよ。せめて勝手に持ってってくれよホントにさあ……。
「すまない、遅くなった」
しばらくして入室音が鳴って、待ちに待っていた人が入ってきた。
「ロイドー!!!!!」
「助けて!ここの書き方が分からないの!!!!」
「順番に見る。画面を共有してくれ」
救世主は順に画面を覗き込んで、入れるべき数字を指示していく。
ほうほう、え、その控除はどこに表が、あ、そっち。あ、その記憶うっすらある。あ、……あ、これでOK?このままe-Taxに放り投げていい?ありがとうございます神様仏様ロイド様。
安心してデータを自分向けに送信する。はあ、疲れた。終わった終わった。後は帰って個人番号カード読み取って税務署に送るだけだ。
「今年は4人かー」
「毎年減ってんだよな……」
「個人番号で前年の記録が見れるので、二年目からは自力でできる人間が多いからな」
「ぐふっ」
ロイドにド正論ど真ん中を突き刺されて精神にダメージを負う。
そう、一昨年入ったぽんすけもENVYも、去年はいたグライドも、ニンカもいないのだ……。ニンカなんかは絶対にここの常連になると思っていたのに、今年からチャンネルを立ち上げついでに個人事業主として開業もしたので、ここの枠ではなくなって本格的に税理士に相談することになったらしい。
初年の人間がきれいさっぱりいなくなり、今日この場に残っているのは常連だけ。
「ごめいわくを……おかけしております……」
「まあ構わない。白色申告はさほど難しいこともないしな。手続き自体は僕にはできないので、自力できちんとやってくれ」
「わーってます~」
書類さえできれてればね、手続きはオンラインでぽちぽちだから大丈夫よ。
「セリスちゃんは初年だけど大丈夫かねえ」
「ああ、そっか、去年の1月からだもんな」
彼女に限って書類を溜めることはないと思うけど、確かに心配だ。
「セリスならすでに終わったそうだ」
「…………え?」
ほんのり初年を思い出して心配していたら、ロイドがしれっと言い放った。
……あ、そう、なの……。もう、終わった……終わったんだ。へえ。…………へ。
「必要だったら確認しようかと聞いた時には、すでに提出を終えた後だった」
「そ、そっか……」
片や30代おっさん4人。一番年数が少ないので俺の3年目、一番長いのだと6年目にもなるが、誰1人自力で出来ずロイドに泣きついている。
片や最年少新成人、確定申告も初めての少女。全て自力で完了済み。
そっか……そっか……初年で自力で全部やっちゃえるんだ…………
「絶望的なまでの頭の違いを感じる……」
「大丈夫、俺達は仲間だよ」
「そうそう」
「一生ここで一緒に確定申告しような」
「…………多少は、自力でやる努力をしてくれ」
肩を組んで傷を舐め合う俺達に、ロイドが呆れた声で突っ込んだ。
調べ物をしていたら瞬間的に何もかも嫌になって手慰みに書きました。何が嫌になったかは察してください。
こうやって「はー終わった終わった」つってなんにも手順を残さないからまた来年苦労するんだよな……。




