閑話 ゲーリックコーヒー
おるくん視点
「そんで、カフェはさー」
「うっす」
ねころと飲み明かした翌日の自宅。リアルでは久々に会ったカフェことカフェオレ大好きは、緊張した顔で頷いた。
ちょーっと真面目な話をするので今は酒は抜き。マグカップにコーヒーを入れて差し出したけれど、ガッチガチに固まった目の前の男はとりあえず手はつけないようだ。
「事務所入って配信者になって、何したいの?」
本当は加入の話が出てすぐにしなきゃいけなかったはずなんだけど、信じられないくらい予定が合わなくて聞き取り自体はリーダーとねころに任せていた。
二人が二人とも口を揃えて「問題はない。けど直接本人の口から聞け」と言うもので、完全休の二日目を意識して空けた。こーんな直前までマジで予定合わないとは思わなかったんだよ、悪いねえ。
「あの……ちょっとアレなことを言うんすけど」
「うん」
「俺、プロゲーマー目指したいんすよね」
「……ほう」
「お恥ずかしながらプロゲーマーというものを知ったのがほんの2年前なんすよ。俺、ずっと懸賞大会とかないゲームやってたのもありますし、ほら、お金絡むと色々親の承諾とか必要だと思うんで、遠い話だと思ってたっていうか」
「あー、お前の年齢だとそうよね。そもそもレトロゲー中心に遊んでたって言ってたか?」
カフェは今20歳。オルタナティブに所属したのが大学上がりたての18歳。懸賞大会は少額なら雑所得扱いになるしトラブルもほぼないんだけど、そういうの調べることすら普通に生きてたらやらんもんな。
そもそもゲーム自体ストーリー型の買い切りゲームやレトロゲーのリメイクを中心に遊んでいて、大規模タイトルはEFOともう一つくらいしか遊んでなかったって前に言ってた気がする。
「そうなんです。存在自体はもちろん知ってたんですけど、オルタナティブに拾ってもらって、おるさんとねころさんがプロゲーマー目指すようなサークルの出身だって聞いて、それで初めてちゃんと認識したと言うか……」
「まあそんなもんよね」
「去年ほら、RoRの大会、一緒に出たじゃないっすか」
「うん」
「懸賞のある大会に初めて本気で挑んで、最終リーグには残れなかったですけど」
「そだねえ」
「本気で目指してみたいなって、思ったんすよね」
「なるほど?」
「だけど俺はもう二十歳超えてて、普通にいったらこっから就活して来年は就職で、今から普通に仕事しながら上位目指すのは結構厳しい」
「はーん」
まあ、今18くらいまでにどっかの育成チームに入るか、それか強いサークルとかに入るのが普通だからねえ。カフェの大学はeスポーツ系のサークルはないんだったか、趣味サークルだったか、どっちって言ってたかな……ちょっと覚えてねえわ。
そのルートじゃないとほんとに「死ぬほどやり込んでたゲームでたまたま懸賞大会が始まった」みたいなのばっかりだ。
20過ぎから無所属で、更に仕事をしながらプロゲーマーを目指すってなると難しいのは確かに事実だあね。
「なんで、いったん配信者として、『ゲームの勉強をするのも仕事』にできる状態にしたいんす。配信自体が軌道に乗ればプロと知り合う機会も増えますし。なんで、もし本当にプロチームから声がかかったら、抜けると思います」
「なるほどねえ」
カフェはがっちがちに固まっている。まあ、辞める前提で所属しますとは確かに言いにくいよなー。
下手に誤魔化さずにちゃんと言ってくれたところは個人的には評価が高い。そんで多分、リーダーもねころも同じことを思ったんだろう。
「りょーかい。うちは離脱規約緩めだからそんな心配すんな」
「……っす」
「全体的にセリスさんがゲーム自体の初心者、お前がちゃんと攻略研究する枠になるな。俺もリーダー達も戦術研究とかはあんまりやらんから、そういう意味では隙間が埋まるいい枠だと思うよ」
「はい」
「そんな緊張すんなって。別に抜けることが悪いと思ってねえよ。プロは魔境だから、せいぜい頑張って目指せ?」
「本当に、まだまだなんすけどね。大会も残れませんでしたし……」
「今回の大会はなー。前衛の部は特に厳しかったからなー」
EFOは遠距離武器に銃がない。魔法はかなり操作のクセが強く、弓は本気で扱おうとすると難易度が高い。きちんと使い込めば今回の大会ルールでは弓なんかは圧倒的な強さを発揮するんだけど、始めて数カ月では難しい。銃があればなあ、魔境からとんでもないスナイパーがわらわらやってくるんだけども。
それに対して前衛は他のゲームと同様の難易度だ。スキル成長がない分ゆるいまである。
そうするとどうしてもEFOを始めたばかりのプロの出場は前衛に寄る。ランサーを主体とするカフェには厳しい戦場だった。
「舐めていたわけではないんですけど、研究は足りませんでした。もっと頑張ります」
「ま、聞いてくれりゃ俺もねころもそれなりに答えられるから、いつでも聞けな」
「はい。あの、ついでなんで聞きたいんすけど」
「おう?どーぞ?」
そう言ってカフェはさっきとは少し違うちょっぴり困った顔を浮かべた。
「所属に際して、恋人やパートナーとかって必須っすか……?」
「それは俺に対する宣戦布告ということでよろしいか?」
俺は絶賛独り身だが?
「おるさんにはねころさんがいるじゃないっすか!」
「ねころをその枠に入れんな!はったおすぞ!!!」
はーやめやめ。酒入れよ。飲まなきゃやってらんねえよくそったれ。
棚からウィスキーを取り出して、コーヒーのマグカップにそのままだばっと注いだ。
カフェオレ大好き
おるくんを知らなかった頃に、道端で襲われる茶番劇を撮影していたオルタナティブメンバーを見てガチで焦って止めに入り、暴漢役メンバーをやっつけ……はもちろんできなかったのですが、爆笑したおるくんに気に入られてそのままメンバー入りした。
またしばらく空く予定です。
多分ちらちら何かしら更新しますので、お暇なときに覗きに来てください。




