閑話 三回目の奢り
ねころ視点
「なんっっっっっっっっっであいつらはくっついてねえんだよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
ライブが終わり、打ち上げが終わり、感想配信が終わり、「さすがに二日くらい休みます!」と宣言して予定として組み込まれていた完全休一日目。
おるのゼロプロとの契約は3月31日まで。一般開示は2月末になるが、仲のいいライバーにはちらちらと教えていて、ライブの終了後にライブメンバー全体に共有したらしい。確定だから社内だったら自由に話していいと伝えたお陰でメッセンジャーのDMがすごいことになり、律儀なことに目の前のこいつは全てに返信を行っている。
昼頃合流した時にもゼロプロの他のメンバーに声をかけられて何かしら話していた。今日の予定は流しても構わなかったんだけど、いつの間にか10年近い付き合いになるこの男は、忙しい程度の理由ではこういう場を反故には絶対にしてこない。
そんなこんなで現在位置は「最近のおすすめ」という半個室の料理屋。オレンジの間接照明がほどよいいい店だ。酒のメニューの下の方ある何故か値段の書かれていない酒まで含めて、いい店だ。
こういうときに安い店を選ばないところがおるのおるたる所以である。
ということで冒頭の叫びに戻るわけだ。もちろんメニュー表の値段の書かれていない酒を傾けながらの発言である。
「はっはっはー、ゴチになりまーす」
「12月は予選以外はあんまり予定詰めてなかったじゃん!なんならクリスマス一緒に遊んでたじゃん!なんでくっつかねえんだよアイツラはよおおおおおお!!!!!」
12月末までにくっつくかという賭けは、今回も俺の勝ちである。
今はロイドとドリアンを味方につけて状況を共有してもらっているので確定情報だ。うーん、この日本酒美味いな。香りはとても甘いのに飲み口は軽くて爽やかで、するすると喉を落ちていく。店主さんが「この季節ですが冷がおすすめです」と言っていた理由がよく分かる。
「なんなん、くっつかないことに美学でも感じてるんかあいつら。くっつかない理由がないだろ」
「んー。くっつかない理由はないかもしんないっすけども」
「だろ!?」
「でもくっつく理由もないんじゃないすか?」
「くっつく理由なんて好きだからだけで十分だろうが!!!」
「お互いがお互いのことを好きかどうかを認識できてないんすよ。えーと、何ていうの?両片思い?」
少女漫画とかでよくあるシチュエーションだよね。リアルでやるなって感じだけど。
「そういうのは高校で卒業しとけよ!!!」
「片方はまだ高校生なんでー」
「男の方はとっくに卒業してんだろ!」
「いやー、彼専門学校だからいわゆる高校は行ってないですね~」
「そういう!詭弁が!!聞きたいんじゃ!!!ないの!!!!」
はっはっは、愉快愉快。おー、おまかせって言ったら出てきたこれ美味いな。なんだろう、なんなんだろうこれ。魚だということしかわからないがやたらめったら美味い。
「副社長殿のリーク情報によるとですね」
「……おう」
「今回の強制旅行で一晩中お電話するところまでは行ったらしいよ」
「それは流石に告ったんだよな?」
「ハハッ」
そういうレベルで進んでたら流石に本人から連絡が来ると思うんだよね~。来ないってことはそういうことなんだよ。
あ、店員さんこのお酒おかわり。
「まー、本人的には頑張ったんじゃない?」
「そこ頑張るなら後一押し行っとけよクソイケメン野郎がよ~~~」
おるはなにかぶちぶちと言い続けているけれど、俺がリーダーの立場だったら、今は告白できないからなあ。
サザンクロスのシステム担当として色々作り始めたから分かるけど、今超忙しいもん。リーダーは付き合い始めた直後の恋人と全然会えないの絶対気にするタイプっしょ。物理的な距離が近ければなんとかなるだろうけど、現状あの二人は西日本と東日本。会おうとすると移動だけで4時間とか5時間とかかかる。
引っ越しの前後は流石に休むだろうし、事業が完全に動き出す前には流石に言うだろうし、ってことは彼が告白するとしたら東京に引っ越してくる直前くらい。つまり、大会後あたりが狙い目だと思うんだよね。
ということは、
「次の賭けどうしますー?3月末くらい?」
「3末……くっつかない。もうここまで来たらくっつかねーだろあいつら」
「お、じゃあ、俺くっつく方に賭けましょっか」
ベットするのは、ここだと思うんだ。
「ほーん?そっち賭けるんだ?」
おるが胡乱な目でこちらを見る。
「まあ、前も言ったけど、賭けが成立したほうが楽しいから」
「けっ。次はお前に奢らしちゃる」
「そっすねえ、3月末でくっついてなかったら俺の奢りっすね」
「今までの分取り返すからな!覚悟しとけよ!」
「流石にお手柔らかに頼んますよ?俺はそっちほどは金ないかんな?」
「けっ!けっ!!!!」
うーん、擦れてる。ここは4月までにくっついてもらわないとやばいものを奢らされそうだ。
やけ酒じみた飲み会はその後ラストオーダーまできっちり続いた。




