閑話 シーサーストラップ
3話ほど更新しますー
セリス視点
ころんとした形の、小さなぬいぐるみが二つ。
みんさー織りの布で作られた二つ一揃いの小さなシーサーぬいぐるみストラップは、先日届いたリーダーさんからのお土産だ。
お菓子と一緒に届いたそれをどうするか延々と悩んで、一旦普段使っている鞄につけてみた。
変…では、まあ、ないだろう。こういうストラップを付けている人は街なかでもよく見かけるし、おそらく誰も気にしないと思う。
単純に私がこういったものを付けたことがないので気になってしまうだけだ。
鞄からぶら下がるストラップを無意味につついてころころと転がす。
他の人にお土産は送っているのだろうか。
なんだか聞いてみるのが怖くてまだ誰にも聞けていない。聞けるとしたらニンカさんだけなんだけど、彼女は今大学の試験期間だ。流石に前期ほどやばい状況ではない様子で時々息抜きにログインしているようだけれど、ここ数日ちょっとタイミングが合っていない。メッセージも、試験期間に変な雑談を送るのもどうかなと思ってしまう。
聞いてみて、もし私一人だったら、どうしたらいいんだろうか。
いや、どうしたらもなにも、どうしようもないのだけれども。
リーダーさんのことだから色々なところに送っていらっしゃるだろうし、そんなこと悩んでも詮無いのですけども。
スマホを開くと、先日から開きっぱなしになっているサイトが表示された。
『話題に困った時のテッパン20の質問!』という、キラキラして広告の入り交じる非常に読みにくいこの情報サイトは、リーダーさんと夜中に喋っていた時に最後に見ていたものだ。
「ほんとにこれ、どこまで読んだんだろう……」
確定で記憶があるのは質問6の『部活は何をやっていたか』というものだ。リーダーさんの高校は一般高ではなく専門学校だと聞いているけれど、部活みたいなものってあったのか、と。
サークル自体はあったけど、リーダーさんは所属していなかったと言っていた。
「サークルに時間取られるくらいなら配信したかったんだけど、今にして思えばどっか入っときゃ良かったって思うねー。部活動とかサークル活動とかへの憧れって今更だけどちょっとあるわ」
多分こんな感じのことを言っていて、ああ、それは確かに私も少し思うなぁと相槌を打った。
このあたりから急速に記憶が怪しくなっていく。
多分質問7の『得意科目、不得意科目』は別のサイトにも載っていたので飛ばしたと思う。質問8の『通じなかった方言』は、聞いたと思うのだけど返事の記憶がない。
スクロールする。
この手のサイトをずらっと5つ6つ並べて読んだけれど、どのサイトも全て後半が恋愛系の話題で……。
事前にわかってたし読んでないと思うんだけど、なぜか起きたときページスクロールが質問15のとこだったんですよね……。
リーダーさんも変なことは言っていないとおっしゃっていたし変な質問はしていないと思うんだけど、もしかするとこの質問は「テッパン」に入っているだけあって変な質問ではない可能性もあるわけで、ということはこれを読み上げていたとしてもリーダーさん的には「変なことは言ってない」になるわけで……。
もし読んだんだとしたら、リーダーさんはなんて答えていたんだろうか。
♪メッセージが来たよ
スマホから音が鳴って、慌ててメッセージアプリを開く。
あ……あ、ニンカさんだ。えーと、「リーダーって意外とマメだよね」?
あ、お菓子の写真。私のとこに来たのと同じやつですね。
えーと……
「うちにも来ましたよ。同じやつですね」
『そっかー(ムシャムシャ)』
「多分ですけど、コンシェルジュあたりに頼んで一括で送ってもらっているのではないかと」
『そんなことできんの?』
「ホテル業務とかであるみたいですよ、送り先一覧渡されてこのお土産ここに一個づつ発送してくれ、みたいなの。父がたまに遠い目をしています」
『へー。おとーさんホテルマンなの?』
「えっと、はい。そうです」
『ほへーかっこいい』
「普通の父ですよ」
『セリスのお父さんだかんなー。どれだけホントだか』
「どういう意味ですか……」
『きっとイケオジなんだろうなと』
「…………すみません、身内フィルターがかかるのでお答えできないです。少なくとも私にはちょっとだらしない人に見えています」
『まあそうよねw』
「試験の調子はいかがですか?」
『試験は明日でラストなんだけど、重いレポートが終わってない……』
「それは……頑張ってください……」
『ひえーん。終わったら遊びに行こうな!』
「はい、是非!ボイトレの日程確認しましたけど、一緒ですね」
『ねー!それも楽しみ!』
「私もです」
「試験とレポート、頑張ってください」
『…………はい』
ニンカさんへのお土産は、お菓子ですか。
顔が熱い。
つんつんと突き回したぬいぐるみストラップは、ころころと回って紐を絡まらせていた。




