5-9.傀儡師は自分の心を操れない
「ロールプレイ」
「そう、そういうロールプレイ。グライドはいつだって、期待に応えられないんじゃないかって、怖がってる」
本当に毎日のように一緒にいれば、ちゃんと言葉にされなくても分かることがある。
CCOのギスギスした空気が嫌になって抜け出したこと。
固定を組んで、また当たり前のタンクになるのが怖かったこと。
それでもMMOが好きなこと。
誰かと遊ぶのが好きなこと。
周りにいつも気遣いをしていること。
でもその気遣いを気遣いだと気づかれるのは苦手なこと。
タンクの神様って呼ばれるのが嫌いなこと。
でもそれを隠していること。
「あたし」
ここ数日ずっと考えていた。
「あたし、転職しちゃ、いけなかったのかも……」
グライドの様子がおかしかったのは、多分あたしのせいなんじゃないかって。
「あたし、グライドとどこまでも行きたかったの。一緒に行けないボスがいるのが嫌だったの。だけど、グライドはそうじゃなかったのかもって」
動けないあたしだから怖くなかった。動けるあたしになったら怖くなった。
もし、そういうことだとしたら。
「あたしが我慢すればグライドが一緒にいてくれるなら、我慢すればよかった」
「でもそれじゃ、ニンカさんが一人で待ってるのは変わらないじゃないですか」
「こんなに避けられるなら、そっちのほうがマシだったよ!」
はらはらと涙がこぼれる。
「一緒に遊びたかったの。最初は誰でも良かったけど、今はグライドが良いの。また軽口叩いて、レアアイテム出ないことにムキになって、大したことない失敗をバカにしあって、大失敗したら大笑いして、成功したら一緒に喜んで、いつでも思い出話ができて、そういうのがよかったの。一緒にいたいの。」
好きなの
最後の言葉は多分音にならなくて、でも彼女は落ち着くまでそっと背中を擦り続けてくれて。
「あ!」
「っ、ごめん、わめきちらして」
「いえ、すみませんちょっとだけ外します。すぐ戻るので、待っててくれますか?」
「あ、うん、ごめんいいよ」
彼女はそう言ってさっとログアウトした。リアルの用事か。
すぐ戻るって言ってたから、動かないほうがいいんだろう。また手持ち無沙汰になってしまって、チャット欄を開く。
ギルドのログイン時刻が動いている。だけどログイン状態はグレーカラー。
チャットの返信はなし。
誰かが塀を登ってくる音がする。
ああそっか、ログインし直すと広場に転送されるから…ってか早かったな。
「ニンカ」
頭に響く低い声。
聞きたくて聞きたくて聞きたくて仕方なかったその声に
「……………………なんで?」
こう言ってしまったのは、仕方ないと思う。
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ログインし直して広場に戻る。
リーダーさんはグレンポートに居ると聞いたので、そっちに飛び直した。
「お、いたいた」
「リーダーさん!」
「悪いね、わがまま聞いてもらって」
「ホントですよ。本気で焦ったんですけど!?」
あ、先にニンカさんにメッセージ送っておくか。
グッドラックスタンプをひとつ。よし。
ゲーム内ビデオ通話というのがある。一応機能としては存在するけれど、ゲーム内なんだから会えば良くない……?ということで通話機能としてはあまり使われていない。
カメラ状態を「自分の視界」にすることができるので、どちらかと言うと身内配信のような形で利用されている。
ニンカさんの居場所を知らないかと聞かれ、今すぐビデオ通話をオンにしてくれと言われたときには何事かと思いましたね。グライドさんと一緒にいるからそっちの会話拾わせてくれって。
相手の許可なしでビデオ通話って、罪悪感が結構あったけど、まあ、今回は仕方ないということで。
「グライドもさ、結構色々悩んでてなー」
「そうなんですね」
「ま、落ち着くとこに落ち着くと思うから」
「あとでニンカさんに怒られたら、一緒に叱られてくださいよ」
「それはもちろん」
リーダーはなんでもないようにサラッと言って。
「さて、暇になっちゃったけど、一緒に遊ぶ?」
「うぇっ!?いや、私とリーダーさんじゃレベル合わないですよ!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。新エリアもう行った?結構楽しいよ」
サラッと届いたパーティ申請に、ためらいがちに「はい」のボタンを押した。




