28-9.帰宅
……今日はもう絶対EFOに入らない。
絶対に、入らない。何があっても入らない。
もはや逃げるようにログアウトして、布団をかぶってふるふると震える。
絶対にシアさんに好きな人ができたら弄り倒すんだ。今度ニンカさんにデートの話を根堀葉掘り聞くんだ。絶対に。絶対にする。それはそれとして今日はEFOには入らない。
毛布からひょこっと顔を出してスマホを手に取ると、新着メッセージは二件。
一件はニンカさんだ。「ごめんごめん」のスタンプが送られてきているので、とりあえずこちらも「月夜ばかりと思うなよ」スタンプを送っておいた。
もう一件のメッセージには、
『お土産送ろうとしたら、購入費よりも輸送費の方が高かったwwwww』
そりゃそうですよ、石垣島は「一部例外地域」ってやつですもの……。
そして輸送費のほうが高くつく程度のお土産を買おうとしているところに一周回って安堵した。
「離島ですからね……。私へのお土産はなくても大丈夫ですからね」
『まーもう送っちゃった。よかったら受け取って~』
「えっと、足の早いものはありますか?」
『賞味期限は長めだから大丈夫だと思う。明日か明後日くらいに多分つくよ』
「お菓子とかですかね?ありがとうございます」
――――それは、私だから送ってくれたものですか?
聞くことができなくて、枕元のぬいぐるみを抱きしめた。
『休暇も今日まで!明日帰るよ』
「羽は伸ばせましたか?」
『まー……それなり?普通にちゃんと企画して遊びに来たかったけどw』
「ちゃんと休暇をとれば、企画して遊べますよ」
『(口笛を吹くスタンプ)』
「……動画編集って終わったんですか?」
『だいたい終わったw』
『明日ロイドに見せてくるwwwww』
「(ロイドさん、可哀想……)」
『へーきへーき』
『多分笑いながら怒ってくれるよw』
「怒られることは怒られるんですね」
『そこはね~』
これは日中編集作業していたやつですね。そう思ってくすりと笑った。
動画、見せてもらえるだろうか。ちょっと気にはなっている。
「昨日、長電話してしまってすみません」
「今日はゆっくり休んでくださいね」
『いやまあ、俺も悪かったからねえ』
「ご迷惑じゃなかったですか?」
『迷惑だったら普通に切るよw』
『喋ってんの楽しかったよ、ありがとう』
『今日はちゃんと寝るから』
「はい」
「私もちょっと寝不足で……今日は早めに寝ます」
『あー』
『こっちこそごめんなー』
『セリスこそ学校もないんだし、昼寝とかすればよかったんに』
言えない。メッセージを見返していて寝ていないとか、絶対に言えない……。
「お昼寝、なんかできなくて」
『そりゃなおのこと悪かったね』
「いえ、私も楽しかったです。ただ、あの、最後の方かなり眠くて記憶が曖昧で。変なこと言ってませんでしたか?」
『え?』
『あーどうだろ?特になかったと思う』
「ならよかったです」
「明日からはEFOにいらっしゃいますか?」
『行くよー』
「じゃあ、また明日、ですね」
『うん、また明日』
「(またお会いしましょうスタンプ)」
『(オツカレサンシタースタンプ)』
顔が熱い。
ぬいぐるみをむぎゅむぎゅと握り潰して、目を閉じた。
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「休めましたか?」
「まー、こんだけしてもらって休めませんでしたっつったらさすがに嘘だろうよ」
翌日、昼の便で石垣島を離れ、飛行機は無事関西空港へ着いた。
迎えに来たドリアンの運転する車に乗り込んで、ふうと息を吐く。リフレッシュはしたけど、いい加減ゲームしたいな。
「私も少し休ませてもらいました」
ドリアンが運転中にこぼした。
「そうなの?」
「最近ロイドの送迎はびっくり箱ですからね。あなたが動かなかったら多少休めるんですよ」
「……そりゃ悪かった」
「仕事で忙しいのは結構なことですけど、不必要に忙しくするのは良くないですよ。特にこれからは」
「気をつける」
「私とびっくり箱が同時に休めと言った時は素直に休んでください。あなたの体調管理も我々の仕事です」
「わーったよ」
俺の無茶にドリアンを巻き込んだのは、確かに良くなかったな。こいつもわりと無理ができちゃう人間だから。
「向こうでは何してました?」
「んー?久々にシュノーケリングした」
「いいですね。この時期に潜れるのは沖縄ならではですねえ」
ホントに。向こうでは半袖に薄手の上着程度だったのに、本州戻ってきたらコートにマフラーだもんな。体バグりそう。
「あ、現地でカメラマン雇って撮ってもらったから、後で領収書出すわ」
「仕事するなって言ったんですけど聞いてました?」
「趣味趣味」
「趣味なら経費にはならないですねえ」
「趣味を経費にすんのが配信者だろうがよ。配信で使うから」
「はいはい、後でロイドに怒られといてください」
はっはっは。もっと怒られるもの作ってきたからな。怒られるのは確定してる。
なんだかんだ、家についたときには夕方だった。
ドリアンと別れて家に入る。無駄に広い家には今日は誰もいない。両親は、帰ってくるのは最速でも今日の深夜だろう。
とりあえずカバン開けて使うものだけ出しといて。動画は後でもうちょい仕上げないと。
ああそうだ、プライベートスマホ置いてっちゃったんだよな。つっても家の連絡とか滅多に来ないんだけども――――
「……あんたが連絡してくんのかよ」
父さんから鬼のような着信履歴が残っていた。
※「月夜ばかりと思うなよ」スタンプ
サザンクロス公式スタンプ第二弾
第一弾はおはようからおやすみまでの無難なスタンプで、第二弾はリスナーから募集した欲しい文言で作成されているネタ系スタンプ




