28-8.寝不足の理由
「セリス、調子悪いですか?」
今日も今日とて腐食龍をランニングすること3周目。
3回連続でダメージランキングのトップをシアさんに譲ったあたりで、とうとう彼女に心配をかけてしまった。
「あー……すみません、実はちょっとだけ寝不足で……」
「ありゃ。昨日の急用ってやつですか?何時くらいまでかかったんです?」
「あー……日付超えて、1時くらい、ですかね……」
1時くらいまで通話していたので、実は今もまあまあ眠いんですよね。
「セリスにしては大分遅いですね。何してたんです?」
「えー……あー…………えー……と……」
完全に言い淀んでしまった。
急な予定変更で迷惑をかけ、さらに今日明らかに経験値時給を落として迷惑をかけている状況なので、答えないのも不誠実なのですけれど……。えーと、えー…………
「言えないならまあいいんですけども」
「あ、いえ、えっと、通話をしていて」
「へー。ニンカさんとかですか?」
「…………いえ、あの」
「?」
まあ、はい、そうですよね。深夜まで私が通話をしてそうな相手と言ったら、そうなりますよね。
「リーダーさんです……」
「それでは、緊急尋問を開始します。被告人は前へ」
「シアさん?」
「ごめんアネシア、これどういう状況?」
移動しますと言われて速攻でシアさんのギルドへ連れ去られ。シアさんのルームに座ると、さほど時間を置かず隣にニンカさんが転送されてきた。
え?は?尋問?
「聞いてくれますかニンカさん」
「ほいほい?」
「セリスが昨日の夜、リーダーさんと通話していたそうです」
「ほ〜〜〜〜〜?」
「待って、シアさん待って、あの、え?なんで?」
「いやいや、何ではこっちのセリフですよ!何があったんです!?」
「それは是非聞かにゃ〜だねえ〜」
聞かなくていいですが?
「あ、あのですね」
「うん」
「リーダーさん、今休養旅行中じゃないですか」
「そだね」
「ですね」
「メッセージのやり取りで、まあ、場所の話までは聞いていて」
「……へえ」
「それを、こう、うっかり無卿さん達に話しちゃったんです」
「ほー?」
「で、まあ、あの、後からもしかして言っちゃいけないやつだったのではないのかと思って、昨日の夜は謝罪するために時間を空けまして。シアさんとの予定をキャンセルしたのはそのせいです」
「それ大丈夫だったやつですか?」
「大丈夫でした。一応プライベートだからSNSには書かないでとは言われましたけど」
「まあ、社外秘だったらそもそもセリスにも話しちゃだめだかんな」
「はい。リーダーさんにも言われました」
今すでにサザンクロス新規事務所と契約をした状態なので、自分の立場がちょっと会社寄りなので、そのあたりの扱いが難しかったんですよ……。シアさんにもまだ言えませんが……。
「で、流れで通話をしないかと言われて、夜通話をしまして」
「へええええええ」
「ほうほう、それでそれで?」
「あの……旅行先にはデバイス系をスマホしか持ち込めなかったので、現地で購入したらしく……」
「「は?」」
「ヘッドセット買ったから通話テストさせてくれ、という話で……」
「はあ?」
「ヘッドセットなんて買って何やってんの?」
「…………仕事です」
二人が微妙な表情で顔を見合わせた。
わかります、わかりますよその気持ち。
「ごめん、聞き間違いかもしんないんだけど、仕事っつった?」
「はい。動画の編集をするためにヘッドセットとディスプレイデバイスが欲しくて、買ってきたそうです」
「バカなの?」
「多分……」
ロイドさんの強制休暇を出し抜くためにやっているっぽいので、おそらくただのバカです。
「それでそれで?」
「仕事をしちゃだめです、どうしたら仕事の手が止まりますか、と聞きまして」
「うん」
「駄弁ってたら手は止まる、というので、ずっと喋ってました」
「ほー……」
「それ何時間くらい喋ってたんですか?」
「えーと、4時間弱くらいですかね……」
あれ、合ってるよな?21時スタートで、そろそろ1時って頃に流石にもう寝ますこれ以上作業はしないからってことで通話終えたので……うん、4時間。4時間か……何喋ってたんだろうな4時間……。本当に最後の方私が眠くて記憶がない。
というか深夜1時って流石に拘束しすぎましたよね……。もっと早く寝ていただかないといけなかったのに、お時間を使わせてしまった。
「何喋ってたの?」
「えーと、まあ、とりとめのないことを?旅行どうですかとか、普段旅行って行くんですかとか」
「ほうほう」
「正直後半とか結構眠い中喋っていたので、あまり記憶が……」
「わーかるー。でも寝落ちるまで喋るの結構楽しいよね」
「……まあ、あの、はい。楽しかった、です…………」
絶対に今顔が真っ赤なのがわかる。顔が上げられない。
「らぶらぶじゃないですか〜」
「そういうんじゃ、ないですよ……」
向こうはそういうつもりじゃなかったと思うし、こちらは積極的に仕事の妨害していたわけだし、なんならちょっと喋り過ぎて睡眠の妨害までしていたわけだし……。
「んー」
「なんですか?」
ニンカさんが唸りだした。
「んーーーー…………」
「……ほんとになんですか?」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「だからなんですかって……」
そんな百面相しながら唸らなくてもいいじゃないですか。
「……あのさセリス」
「はい」
「あたしんとこ、リーダーから返事きてない」
「…………はい?」
「『どこいくのー?おみやげよろしくー』ってメッセ送って、返事来てない」
「え?そうなんですか?」
あ、あれ。みなさんに返事しているわけじゃないんだ……?
「セリスさ、ギルド入る前もリーダーとメッセージラリーしてたって言ってたじゃん?」
「え?ああ、はい」
「なにそれ私聞いてないですよセリス」
「いや、言うような話じゃないですよ……。動画の感想とかですし」
「そうそれ。リーダー、動画の感想に反応なんて絶対返さないよ。あの人の人気でそんなことしたらメッセパンクするに決まってんじゃん」
「……えーと、あれ、そう、かも?」
「デバイスのセットアップだって、別に通話の必要ないじゃん。普通にビデオ撮影とかで録音してみりゃいいだけだし」
「……えーと……」
「あとリーダー、通話迷惑だったら普通にぶった切るよ」
「……」
「だからこう……それ、あんたと通話したかったんじゃないの?」
…………は、はい?




