28-4.温泉地帯
セリス視点
ギルドチャットルーム 告知事項
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ロイド:リーダーは四、五日旅行のため不通になります。急ぎの要件はロイド・ドリアン・びっくり箱に渡してください。
ご協力お願いします。
動画で最後ドッキリのような形でリーダーさんが連れ去られ、夜のうちにこの通達がギルド内に流れた。
うん、はい。先日から何度もロイドさんが休めとおっしゃっているの、見てますからね。とうとう強制連行されましたか。
ギルドチャットでは「過剰労働罪で逮捕」とか色々書かれていて、大喜利の様相を呈している。
私も今朝休んでくださいとメッセージを送った。返信は多分来ないのだけど、それでもいいだろうと思っている。
「ほどよくリーダーさんもいないし、今のうちにがんばりましょっかー」
「そうですね。もうちょっとなので、お願いします」
『EFOで一番有名な奇術師』シアさんは、笑って頷いた。
私の方は藍色の髪に黄色の瞳。アサシンレベル195。
完全にメインキャラと見た目を揃えた、サブキャラだ。どうしてもビルドを変えたかったので新しく作っている。
「懐かしいですねえ、前回もこうやってレベル上げしてて」
「そうですね。前回はここから本当にレベル上がらなかったですよねえ」
「いやーまったくもって。二週間くらい196レベルを彷徨ったときはレベルキャップここなんじゃないかって思ったね」
おしゃべりをしつつ腐食龍に通常攻撃を叩き込む。
今のスキル構成がクリティカル寄りなので、すごい速度で相手のHPが削れていく。
二人がかりでもニンカさんに届かないというのがまあ、なんとも彼女の特異性をよく表している。
「っと、よし」
「レベル上がりました」
「お〜おめです〜」
腐食龍コロデュスはスキルが実質使用禁止なので、通常攻撃で倒すことになる。そうすると通常攻撃の上がり幅が誤差になる190レベルくらいから討伐可能で、しかもボス属性なので獲得経験値が多い。
討伐方法が分かった今、非常に優秀なレベリング場として機能していた。
色々考えると1月中にレベルをカンストしたい。頑張らないと。
何周か戦って、197レベルまで上がったところで休憩となった。
前回大会の時にここがあったら200レベルカンストまで行けましたかねえ。いやまあ、197と200は200レベル制限スキルを取らないなら大した違いはないのですけども。
「……セリスって」
「ん、はい?」
なんとなくコロデュス後の休憩場所として機能している、ボルグ遺跡近くの温泉エリアに腰掛ける。
いやぁ、コロデュス、倒し終わると体を流したい気持ちになるんですよね……。VRなので実際に汚れているわけではないんですけれど、気分として。
温かいお湯の中でちゃぷちゃぷしていると、シアさんが微妙な声を出した。
「いや、こう、ドッキリを実践しないと死んじゃう病とか患ってたりはしないですよね?」
「なんですかそれ……ないですよ」
「いやなんか、たまに心配になって」
「どんな心配をしてるんですか……」
戦術のために練習に付き合ってほしいとお願いしたぽんすけさんも、しばらく頭を抱えたあと一日くれと言ってその日はログアウトしてしまったんですよね。
でも翌日には場合によっては行けると思うとおっしゃってくれたし、大丈夫のはずだ。
ただひたすらに、この構成が、このスキルが「あり得ない」だけだ。
いいじゃないですか、あり得ない組み合わせをしたって。シアさんこそ恐るべき炎のゆらめきなんていう産廃スキルマックスまで育てて活躍させてたし人のこと言えないと思うんですけど。
ばしゃっ
「ひゃっ」
急にお湯をかけられて、犯人のシアさんはちょっとむう、っとした顔をしている。
「ファイアはネタじゃないんですよ」
「まだ何も言ってませんが」
「顔に出てますぅ」
「どんな顔ですか」
「じゃあ何考えてたんです?」
「黙秘権を行使します」
「それ答えで、しょっ!」
「ひゃっ、もう!お行儀が悪いですよ!」
「装備着たまま入ってる時点でお行儀もなにもないでしょ」
「……それはそうですね?」
「そうそう、わっぷっ」
「じゃあ、お返しということで」
「やったな~?」
「わっ!?もう、最初にやったのシアさんで、しょっ!?」
「それはそれ!」
「どれですか、もうっ」
お湯の中で動きすぎた時に「のぼせ」という状態異常が出ることを、今日初めて知った。
「――――あれ、メッセ?」
そろそろ夜もいい時間だからとログアウトすると、スマホのメッセージアプリに新着通知が付いていた。パパかな?
今日帰りが遅いって言っていたはずだけど、泊まりになったかな。たまにそういう事あるんだよね。そう思いつつスマホを開けば新着のマークが付いていたのは思っていたのとは異なる場所で。
ぺたりと床に伏せるゆるい柴犬のスタンプが送られてきていた。




