5-8.ギルドリーダーとトップタンク
リーダー→グライド
ギルドのメイン盾とメイン火力不在での新ボスは、控えめに言ってグダグダだった。
「うーんダメっすねえ」
「編成変えたほうがいいな」
「やっぱグライド復帰するまで待った方がいいんじゃね?」
「それはそれだろ」
何度目かの全滅で死に戻ったタウンでワイワイとリザルトの確認をする。
ダメージ突が良さそうだとランサーにしていたけれど、タンクのほうが良いならソードマンに戻すべきだろうか。
そう思いつついつも通りギルドメンバーの状態を確認して、手が固まった。
行くべきか、やめておくべきなのか。
「何気にしてんだ?」
「おー、ソードマンタンクにしたほうが良いかもなと思ってた」
暴走機関車がふっと顔を上げてこちらを見たので、適当にそれっぽいことを返す。
「別に気にしなきゃ良いだろ」
「……そういう訳にもいかないだろ」
なんでお前こういう時はそういうの分かるんだよ、自分のギルドでやっとけよ。
「知らね、俺気になんねえし」
「ゲームを楽しむって優先順位高いだろ?」
「こっちのが断然楽しいだろ」
「俺はダメなんだよ、こういうの。ってか多分そこまで割り切ってんのはお前くらいだ」
小さくため息を吐いて。
仕方ない。これが出来るのはギルドリーダーだけだから。
「悪いロイド、野暮用、抜ける!」
「ああ、承知した」
ロイドに声をかけ、パーティを抜けた。後はいい感じにやっておいてくれるはずだ。
「ここ、クリアしちまっていいんだろ?」
「できるもんならな」
「はあ?お前俺様のこと誰だと思ってんだ?」
「暴走機関車」
「おう、今日こそ白黒つけようじゃねえか」
「はいはい、ペアならいつでも受けるぞ。じゃ、ここ任せるわ」
「っしゃ、お前ら、次でクリアすっぞ!」
ロイドとトラキチに後を任せて、グレンポートへ転移する。
後ろで悲鳴に近い声が聞こえた気がしたが、一旦気にしないことにした。
各一次職には、それぞれ対応した修練場がある。
グレンポートにはアコライトの修練場があり、案の定、探し人はそこにいた。
「グライドさん、このスキルって!」
「こっちのスキル育ててるんですけど、組み合わせのオススメありますか?」
「ビショップの方も分かるってホントですか!?」
複数の低レベルプレイヤーに囲まれて、やいのやいのとスキル談義を広げている。
「そのスキルは取り回しが難しいぞ、かなり練習がいる。そっちのはここのダンジョンのボス相手にできるようになれば他でも困らないだろうが、慣れるまでは多分かなり死にまくる」
「うっへえ」
「歓談中悪いね。グライド借りても良い?」
「っ!」
彼は驚きの中に恐怖の混じった顔で振り返る。
「ちょい相談があるんで、時間くれよ」
「……ああ、分かった。悪い、今日はここまでな」
後ろからリーダーさんだ!という声が聞こえる。面倒事も多いが、名乗らなくても話が通るのはありがたいと言えばありがたい。
プレイヤー:グライドにパーティ申請を送りました。
パーティ申請が受理されました。パーティリーダーは あなた です。
ウィスパーモードが選択されました。
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「なんで場所分かったんだ?」
適当に移動しながら声をかける。リーダーはいつもどおり飄々と話した。
「んー?ギルドリーダー権限。ログイン状況非公開でも、居場所が分かる機能があるんよ。まああんま好きじゃないんだけどね。一人になりたくて居場所非公開にしたのに速攻バレるとか、気分良くないじゃん?なんで初めて使った」
「知らない権限だな、そんなのあるのか」
「ギルドランク最高にならないと使えないよ。ウチで知ってんのは多分ロイドと暴走機関車だけだねー。Wikiを上から下まで全部読んでるなら知ってる人がいるかも、程度?」
ギルドランクを最高にするにはギルドメンバーだけで上級レイドボスを倒す必要がある。到達ギルドなんてそんなにいないんだろう。
トラキチは元々上位ギルドのギルドリーダーだった。今はウチの所属だが、そのへんの詳しい事情はあまり聞いていない。
「で?ニンカと喧嘩でもしたか?」
街をフラフラと歩き、どこをどう曲がったのか全くプレイヤーのいない路地裏で、リーダーが言った。
「あー………いや……」
「ニンカには全然反応返してないんだって?俺のとこにはしばらく忙しいって連絡くれたよな?」
「その……」
「ウチはエンジョイ方向だからさ、ノルマもないし。気乗りしないとか攻略疲れたとかで前線に行かないっていうのも、しばらくログインしないっていうのも、別に構わんよ」
リーダーが優しい声音で話す。この人の喋りは、普段はとても安心できて、そして時々とても心臓が痛くなる。
「ログインしないことや、攻略に行けないことで周りを困らせてるっていうのは気にしなくて良い。俺もロイドも穴埋めは割とできるし、普段はああだけどトラキチもなんだかんだ協力はしてくれる。復帰したら一緒に行きたいボスがいるけど、いつまでだって復帰を待つさ。好きな時に戻ってくれば良い」
ゆっくりと、口調を荒らげない、だけど芯の強い声がする。
「だけど、心配させてるのは別だ。忙しいとか、気乗りしないだけとか、ちゃんとメッセージを返せ。少なくとも、パートナーには。というか、俺に連絡しなくてもいいから相方には連絡しろ」
少なくとも、パートナーには。相方には。
「パートナーって、何すかね」
「お?哲学の話?」
「いや、えっと、なんていうか」
なんて言ったら良いんだろうか。
「――いつだっけ、半年アプデが終わったあたり?一回野良で一緒に組んだじゃん?」
「え、あ、はい」
「その時グライド、フレンド枠一杯でって言っただろ?」
「多分、言ったはず」
フレンド登録を願ってきた相手全員にそう言っていたから、多分言っている。
「お前、あの時フレンドガラガラだったろ」
「…………なん、で」
「あの後野良で組む時に、こないだ組んだタンクがすごかったみたいな話をすると、みんなグライドと組んだことがあったんだよ。すごいやつだよなって。で、もう一回呼んでみるかって話になると、誰もフレンド登録をしてなかった。別の野良でも、その次の野良でも。このゲームのフレンド上限知ってるか?1000人だよ?上位野良に潜ってるプレイヤーに1000人フレンドが居るのに、同じくらいのランク50人に話を聞いて一人もフレンドがいないんだよ?ああこれはフレンド登録断る方便なんだな、ってことくらいはバカでも分かるよ」
拳を握り込む。
今まで皆、気づいていて突っ込まないでいてくれたんだな。
「いつ見かけても別のプレイヤーと居るし。グライドはクリスタルシティオンライン出身だって言ってたろ?」
「まあ、そうっす」
「あそこの上位ギルド系、かなりギスいじゃん」
「……………………ええ、まあ」
「固定組むのが怖くなっちゃったのかなーって、思ってた」
「まあ、えっと、そう、です」
「だよな。まあ分かる。そしたら一周年超えたくらいで、いつも同じ女の子と一緒にいるとこ見るようになって。固定怖いの克服したのかと思ってギルド勧誘したらニンカと一緒ならって言ってたろ」
「言いました」
はっきりと覚えている。
ニンカをいらん扱いするなら、一生そんなギルド入らない。実際そう伝えたらどこのギルドもやんわり離れていった。ニンカについての暴言を吐いてきたところではギルドごとブロックリストに入れたこともあった。
「それが、相方ってやつだろ。一緒なら苦手なことにも挑戦できる。どこに行くにも一緒に行きたいってお互いが思ってる。そういうのがさ」
「俺が思ってるってのと、ニンカがそう思っているかどうかは、別じゃないすか」
「んー……」
「ニンカは今まで、俺以外と組めないから組んでました。でも、今は違う。今後は誰とでも組めるようになる。その状態でも、ニンカが俺と組みたいかは、別じゃないすか」
しばしの沈黙。
何事かウィンドウを操作していたリーダーが、手招きをする。
「ちょい大きい音出すのはあれなんで、こっちこい」
ウィスパーモードで何いってんだ?と思いつつ隣に付く。
共有されたウィンドウには泣き顔のニンカが映っていて。
場所は、見覚えがある。ボートタウンの木の上か?
『あのっ!真面目に聞くんですが、グライドさんってどんな方ですか?』
聞き馴染のない女性の声がする。もしかして助っ人さんだろうか。
『…………優しい人』
『それは、まあ、ニンカさんを見てれば分かりますが』
『ちょっと大雑把で、細かいこと気にしなくて、兄貴気取りで、自信があって、誰とでも気さくに話せる、そういうロールプレイをしている、本当は怖がりな、優しい人』




