27-5.小鳥の番
「お久しぶりね、ロイ君」
「ご無沙汰しております」
ランチの時間に指定されたレストランに入れば、奥様はいつもどおりの笑顔でこちらを向いた。
「お時間をいただいて申し訳ありません」
「別に構わないわ。この間は家にいらしていたのね」
「夕食をいただきました。マキさんに大変美味しかったとお伝えいただければ」
「伝えておくわ。家の連絡が取れていなくて、お恥ずかしいところをお見せしてしまったわね」
奥様はそう言って困ったように微笑んだ。料理が沢山あったのは本当に連絡不備だったようだ。奥様が家の采配を誤るのは珍しい。よほど忙しいのだろうな。
「新年はご一緒させていただきますので、よろしくお願いいたします」
「聞いているわ。錦戸の方にもいらっしゃるのでしょう?」
「そのつもりです」
「ふふ。お父様がとても楽しみにしているから、飲まされないようにだけ気をつけて頂戴。九州の古い家だから、未だに御客人には酒を注ぐのが礼儀だと思っているのよ。飲めない人だと伝えてはいるのだけれど」
「気を付けます」
大旦那様がお酒が好きなのは知っているので、本当に気をつけないとまずいな。
運ばれてくる食事を口にしつつ、近況を報告する。
「そちらも随分忙しく動いているわね」
「そうですね、かなり……」
「……あの子もとうとう家を出るのね」
「……」
これについては言葉が出ない。完全に家から出てしまったら、理人は実家には寄り付かなくなるだろう。それで本当にいいのかどうか、僕には答えが出ない。
「いいのよ、子どもはいつか巣立つものだから。今だって、同じ家に住んでいるけれど月にそう何度も顔を合わせないのだし。貴方が付いているのなら大して心配もしていないわ」
「恐縮です。あの……」
「何かあったのかしら?」
ゆっくり飲み物を飲む。一つ呼吸を整えて。
「小鳥が、番を見つけたようでして」
流れるように続いていた食事がすっと止まる。
「――――そう」
「ご存知かと思いますが、少々羽色の違う若い番です」
「ええ、知っているわ。違う違うと言っていたけれど」
「本人が無自覚でしたので」
「困った子だこと」
奥様が呆れた声を出す。これについては本当に、あそこまで無自覚だと困るとは思ったので、曖昧に頷く。
「親鳥については保護できそうです。もしかすると、明成さんから連絡が行くかもしれません」
「そう、彼を巻き込んでいるのね」
「あちらの引き継ぎもありますから一年二年という規模の話になりますので、すぐということにはなりませんが」
「そうね、分かったわ」
「ただどうも、小鳥が少々色々考えすぎているようでして。仕事も、少しばかり無理に詰めている節があります」
デートにでも誘えと伝えても動かない。休むようにと伝えても休みを作らない。休息についてはそろそろ体調を気にする段に入っている。
彼の心の内を全てを分かっているとは言えないけれど、それでも考えすぎの感触は拭えない。
「何かお手伝いすることはあるかしら?」
「ええ。是非、奥様に手伝っていただきたいことが」
奥様の問にそう返せば、彼女は意外そうな、驚いた顔をしてみせた。
閑話挟んで28章の予定です!
28章はまだプロットしかないので多分ちょっと間が空きます!




