閑話 愛妻家の大会準備
ねむねむ蝉視点
「おっつー」
数日ぶりにEFOにログインしてギルドに入れば、談話室に居た無卿とぽこぽこがこちらを向いた。
「おーねむ蝉じゃん!おつおつー」
「今日はニャオ姉は?」
「愛娘の四ヶ月健診~」
「あれ、一緒に行かなくていいん?」
「お義母さんが孫とデートしたいって言うから譲ってきた。健診センターが付き添い人数制限あるんだよね」
例のトンデモ義妹が居る限り義実家には絶対に行かないけど、義両親とは仲が悪いわけじゃないのよ。孫と遊びたいならいくらでも遊びに来ていいし、健診の様子が見たいって言うなら行ってきてくれてもいい。あのトンデモ義妹さえ連れてこないでくれるならお義母さんのことはそれなりに信頼している。あのトンデモ義妹さえ関わらないなら。
「ニャオ姉は体調どう?」
「んー、体調は良さそうよ。ただやっぱりまだ夜間授乳があるからねえ。日中いつも眠いらしくて、ゲームより今は寝たいって言って、自由時間は大抵寝てる」
「しゃーないな」
「夜間授乳なくなる頃にはポツポツ顔出せると思うから、ちょっと待ってて」
「いくらでも待ってるよ~」
ぽこぽこがにこにこと言う。うん、伝えとく。
「そういや予選通過、おめっと」
「ありがとー」
「当日来いよ~みんな居たのに」
「無茶言うなよ死ぬほど疲れてたんだからさ~」
予選当日はほんと死ぬほど疲れてて、娘の顔すら見ないで寝落ちちゃったんだよ……。愛娘におやすみを言えなかったとか本当に一生の不覚。毎日表情が違うんだよ。マジ天使。最近は特に人間の顔を認識するようになって、抱っこしてるとちゃんとこっち見て笑うんだよ。
これが最近のベストショットでな?かわいいだろ?あ、これねーカメラ内蔵メガネでオレ視点を撮影したやつでね。自動でネットワークストレージに上げといてくれるのよ。そう、買った。抱っこしてるときに会心の笑顔を向けてくれることが多いから一瞬も逃したくなくて。充電の切り替え用に二つ買った。値段?知らんけど大した額じゃなかったと思う。記憶がない。いやこれはニャオ姉も怒ってなかったよ、ほんとに。ほんとだって。
「本戦どうすんの?」
「リモート」
「即答かよ」
「愛娘を連れていけないなら俺は行かん。愛するニャオ姉と娘と三日も離れるとか無理」
「それでよく予選出たね……」
「ニャオ姉が気にしちゃったからねー。ほんとに通るとは思ってなかったけど、まあ通ったからにはベストは尽くすよ。オレのベストのためにニャオ姉が必要だから、ニャオ姉連れていけないならリモートになるってだけ」
子どもがいるから大会を諦めた、というのがね、ニャオ姉的には嫌だったらしい。間を取って予選を一日だけ出る、通らなかったらそれでおしまい、ということに決まった。
ジン君と、あとジョイマンさんあたりとはポイント的にも技量的にも割と接戦だったと思う。
予選通ったからにはもちろん本戦には出るけど、現地には行かない。愛妻と愛娘置いて三泊四日高級ホテルの旅?まあ、好きな人はいるだろうけどね。オレは御免だ。
「せっかくホテルなのに子ども連れていけないのねー」
「大会なら仕方ないよ」
ぽこぽこが残念そうに言うけれど、未就学児の同伴禁止はなぁ。作ってる側からするとどーしようもないよねえって感じ。赤ちゃんの泣き声ってダイヴ貫通する瞬間があるんだよ。小学生くらいの馬鹿騒ぎはちゃんとキャンセルできるのに、赤ん坊の泣き声って本当にだめなの。
オレがそれで負けるのは許容できるけど、周囲にそのリスクを許容しろとは言えない。VRマシンの置いてあるエリアに子どもを近づける気はもちろんないけど、万が一ってこともあるし。
「あーそうだ、無卿」
「ほいほい?」
あっぶね、来た用事忘れるとこだった。
「このあたりの装備あるか確認してもらってもいい?」
「あいよ……あー、この敏捷特化はもしかしたらないかも。なかったら作っとくわ」
「頼むわ」
「まだ敏捷上げんの?」
「んー、まあ使うかも、くらい?レンジャーとか奇術師あたりと機動力合戦になるともしかしたら必要かもなーって」
「なるほどねえ、マコトさん想定?」
「そう~マコトさんと、ジン君かなー。後半予選で奇術師が増えるかもしれんけど」
「ちゃんとマジで勝ちにいくのね」
「そりゃあね」
出るからには真面目に勝ちに行きますよ。
――――本気のロイドと戦えるかもしれない、数少ない機会だしね。




