閑話 解説席の打ち上げ
4日ほど更新しますー
リーダー視点
『第五回公式大会、予選Day4、最終結果の発表です!』
『前衛の部、優勝……あ、ENの方ですね。改めまして――Frontline Section. Winner, Mr.A_Garde, a member of "OperationGreat". Congratulations on your winning.』
『I look forward to seeing you at the main tournament!』
『A_Gardeさんおめでとうございます、Congratulation!』
『続いて後衛の部、――ジンさん、ギルドトロイライト所属。おめでとうございます』
『おめでとうございます!本戦でお会いしましょう』
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「12月予選、お疲れ様」
「お疲れ様~」
「お疲れ様です」
12月予選4回が終了し、トシさんがこっちまで顔を出してくれた。
今日はうちに来てもらった。予定外に両親が二人揃ってどっかに飛んでいってしまって、それがお手伝いさんに伝わっていなかったらしく冷蔵庫の中に料理が山になっていた。
年末で忙しく飛び回ってほぼ家にいない両親が珍しく在宅予定だったから、お手伝いさんが大分張り切っちゃったみたいだ。明らかに一人じゃ食いきれないので、俺とロイとトシさんで消費してしまおうという腹だ。
あと自宅だと俺の酒が取り出し放題なので飲みやすい。ロイの部屋にも多少置いてるけど、やっぱこう、クラフトビールとか取り出せるといいよね、ということで最近おすすめのやつで乾杯。
「……うま」
お手伝いさんが作り置いてくれたものをレンジで温めたやつを一口食べて、トシさんが言った。
「そりゃよかった、お手伝いさんに伝えとくよ」
「相変わらずマキさんの煮物は絶品だな」
「ロイはほんとそれ好きな」
「いいだろう」
「うん、いいけど」
実は俺にはちょっと甘いんだよこれ。どーぞ、全部食べて。
「リーダーの家は初めて入ったけど、意外と中は洋風なんだね」
トシさんが物珍しそうに家をきょろきょろと見回す。それ初めて来た人に毎回言われんだよな。
「母屋はそうだね。日常的に暮らすにはこっちのほうが住みやすいし。離の方が市の指定文化財だから、そっちは明治時代に再建はしてるけど中まで昔のままだよ」
「そっかー、家が指定文化財かー」
「離だけな。ただの古い茶室だけど、見たいなら今度案内するよ」
「ほー、お茶室ってことは入口が狭いの?」
「いや、うちのは躙口はないね、普通に障子窓。小間じゃなくて四畳半だし」
「ごめん振っといてなんなんだけど茶室の違いが分からない」
だよね。実は俺もあんまり詳しくない。お茶は母さんと姉さんしかやってないし、突然招かれてもギリ大丈夫かなくらいしか分からん。
「さて――――どうだった?解説の洗礼は」
「やばかった……」
さすがにトシさんにはバレバレか。いやほんとに初日は死ぬかと思ったよ。
「二日目からは比較的平気そうだったかな?」
「まー、初日に比べれば、かな。時間減ったし」
「初日はギルドで倒れていたからな」
「言うなよ……」
ロイの軽口にじろりと睨む。トシさんの前では倒れなかったんだからさあ。
「あっはは、まあ、吐かなかったなら上出来だよ。ロイドは……平気そうか」
「まあ、僕はいつも通りなので」
「ロイドは最初その視界に慣れるまでどれくらいかかった?」
「半年くらいでしょうか…当時はリーダーにVR機器を貸してもらっている状態だったので、あまり頻度が高くなかったので」
「あれなー……」
VRマシンを俺がロイに「買ってあげる」ことは全然できたんだよ。8桁近い値段がつこうと俺の個人資産から見れば別に問題じゃなかった。
ただねえ、その金額のものをあげちゃうと、贈与税がね……。購入費の30%とか40%とかかかるんだけど、当時大学生だったロイにその税金を支払う財力はなかった。贈与税を回避する方法がないかでめちゃめちゃ悩んだんだよなあ。俺が貸すって形だと、それ実質あげてるでしょって税金取られる可能性があるんだからほんとにやってらんねえ。一生貸してるだけだっての。
ロイがプレイしたときだけVRゲームの挙動がおかしいと気づいてメーカーに問い合わせて、結果的に研究機関からVRマシンを貸与してもらうことで全てを回避した時は本当に感動したもんだよ。今でも無償で全てのプレイデータを送っているのは、その時の恩返しでもある。
「あげちゃうと税金が凄いからね。VR機の貸与って聞いた時はそれ結局贈与税取られるんじゃないかって心配したけど」
「配信事業に関係ない企業から借りれたのが強かったね。詳細は知らんけど結構貢献してるらしいよ、時間加速関連で」
「この間はなんとかトラキチのデータを貰えないかと色々交渉していましたね」
「欲しいだろうねえ。五感系の過剰適応は発見自体が難しいから」
びっくり箱のデータも取れるように色々工夫が始まった。ただ、あいつのデータ自体はほぼ同じものが取れる人が別の協力者にいるらしくて、しばらくプレイデータ送ったらもういいかもってことになっている。
さーてビールを飲んだら次は……今日の皿なら日本酒か焼酎あたりか。
トシさんは日本酒?お祖父様が送ってきた米焼酎もあるよ。おすすめはお湯割り。はいはい、お湯割りね。
「ジン君、予選突破おめでと」
厚手のグラスに焼酎のお湯割りを作ってそう言えば、トシさんは少し微妙な顔をしてグラスを受け取った。
「ありがとう。ジンの参加、本当に良かった?」
「セリスが気にしてないからいいよ。あれトシさんの指示なんでしょ?」
「まあ、うん、そうだね。上からの指示を忠実にやってみろって言ったのは私」
あれが上からの指示だったの……ふつーにロイドでもキレるラインだったけどなあ。
「今だから聞くけど、そんなに切羽詰まってたの?」
「あの担当に変わってからメンバー側のストレスが大きくてね、そういう意味では詰まってた。どのみち私の首が飛ぶなら癌を弾き出してから飛ぶべきだ。だからあれは私の判断。ジンはあの歳でかなり割り切れるし、育成から上がってきたばっかりで大きい実績も露出もほぼない状態だったから。セリスさんを巻き込んでしまったのは本当にすまない」
「次はちゃんと相談してよ、俺の精神衛生のために」
「返す言葉もない。大会が終わったら、普通に楽しい企画をしよう」
「おう、約束」
かつんとグラスを合わせる。トシさんの楽しい企画は本当に無茶苦茶ですごい楽しいんだよな。
「そっちはグライド残念だったね。1月予選は辞退だっけ?」
「そう聞いてる」
「タンクで勝つのはなかなか難しいルールでしたし……迷路構造のマップ走破は、彼はかなり苦手ですから」
ロイが何本目かのジュースを開けた。まってそれほんとに何本目?結構甘いやつ並べたんだけど。水とかいる?
「大会ルールはねえ。今回は魅せる事を目的にした大会だから、そこは仕方ない。高速アタッカー同士がぶつかった方が映えるから」
ゲーム内で盛り上がることを目的とする大会と、ゲーム外の人が見ても楽しめるようにするための大会ははっきりと傾向が変わるからな。タンク、ゲームやってるとあれほど難しい職もないんだけど、知らない人視点だと見栄えは地味だからな……。
「そうなんだよなー。サザンクロスのチケットあげるって言ったんだけどね、断られちゃって」
「あー…………まあ、男の子の意地ってやつじゃないの?」
「そうかもしれません」
気のせいかもしれないけれど、一瞬ロイとトシさんが目配せをしたように見えた。
「なn「そう言えば」」
俺の発言とトシさんの発言が被る。
「っと、どうぞどうぞ」
「すまん大したことじゃないんだけど。セリスさん現地なんだねって」
「あー……」
「誓って、本人の希望です。お祭りに自分だけ現地参加できないことをかなり気にしていまして」
「なるほどね。サザンクロスは参加者多いもんねえ」
「そうねー、まあこれでも一応トップギルドなもんでして」
「トップギルドっていうか、もはやセミプロだよね。ねむ蝉君の参加はどうなりそうなの?」
「リモートになりそうです。未就学児の随伴NGというのは、大会規約ですので」
本人が未成年だったり介助員が必須だったりと特別な理由があれば、随伴員の申請ができる。ニンカがお母さんの随伴を希望して承認されていたはずだ。
ただねえ、乳児についてはどうしようもない。事前の大会規約だからねむ蝉も分かってるはずだ。
「残念、彼もできればスカウトしたいんだけど」
「あいつは無理でしょ」
「彼は細君から長期に離れる可能性のある職には絶対につきませんよ」
「くっそー愛妻家めー!爆発しろ!」
ねむ蝉はニャオ姉の体調のためなら離れることも許容するけど、大会の海外遠征とか絶対行かないよ。そこは諦めて。
トシさんに笑いながら酒を注げば、彼はわざとらしく嘆きながら口をつけた。




