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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
廿六章 Tranquility

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26-1.社長モード ON

リーダー視点

 こちらで指定した時間は16時。

 その時間の少し前に、応接室風に整えたルーム3には俺、ロイ、ドリアン、びっくり箱の4人が揃った。

 四人並んでんのちょっと威圧的じゃねーかなと思ったんだけど、まあこのくらいの人数差はどの道慣れてもらわないといけないから仕方ない。


「お返事頂けるの、思ったより早かったですね」

「そうね、まあ早いに越したことはないんだけど」


 早くから準備できるならやって欲しいこともいくつかある。

 ……まあ、まだ断られる可能性がいくらか残っているんだけれども。



 時間の数分前にゲストキーの利用申請画面が出た。承認するとログインベルが鳴って、セリスが入室してくる。


 ゲームとは異なるリアルアバター。相変わらずの美少女だけれど、やっぱり簡易アバターだなと思う。髪はもう少しつややかな黒髪だし、瞳の色はもう少し深い茶だ。無料アバターに言うことではないけれども。


「いらっしゃい、セリス」

「お邪魔します。お時間いただいてありがとうございます」

「うん、とりあえず座って」


 正面のソファを勧めると彼女はゆっくりと腰掛けて、ふわりと笑った。


「えーと、紹介はいらないかな?」

「あ、はい。ギルドオフ会でお会いしていますから」

「まあ、今日は基本置物やから気にせんどいてや」

「置物…」

「ちょっと置物にしては威圧感ない?」

「はあ?こないイケメン捕まえて威圧感はないやろ?」


 いや確かにお前はシゴデキの風格のあるイケメンではあるが、威圧感はあるよ。


「あ……えっと……」

「セリスが困ってるからやめろ~」

「今のは笑うとこやで~」

「やめろっての……あー、えーと、ごめん進めよう。……返事もらえるって思ってるけど、あってるかな?」

「あっえっと、はい。そうです。あの、事務所一期生のお話で」

「うん」


「所属を前提に、細かい条件についてお話をさせていただきたいです」


 セリスの言葉にちらりと隣を見ると、ロイドがすっと書類を表示した。


「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しい。まずはこの書類を渡すね」


 所属についての詳細を記載した書類を渡す。これは全員に渡している契約書の雛形だ。ここに個々人の希望を反映していくことになる。


「まず、セリスの方で何か条件みたいなものはある?」

「私の方からというか、父の希望になるのですが、大学は卒業して欲しいと」

「あー、うん、そりゃそうだ」


 そこはね。せっかくいい大学行くんだから、こちらとしても卒業して欲しい。


「なので、えーと、学業の都合で一ヶ月まともに活動できないといったことが想定されるので、配信ノルマや、月の動画投稿数の下限数などについては設定されると困ります」

「うん、そこは事務所全体の方針として設定するつもりはないから、大丈夫。他にはあるかな?」

「えーと…以前おっしゃっていたアバターを利用するかどうかという話なのですが」

「うん」

「基本的にVR配信を行いたいです。EFOの普段のアバター…えーと、デフォルトセリスの見た目で、他ゲームでも寄せたキャラメイクを使用したいと思っています。その上で、生身については、必要であれば出す方針で行きたいです」


 ……彼女は多分、自分の容姿にあまり興味がない。

 悪いとは思っていないだろうけれど、自分の顔がさほど良いとも思っていない。

 だけど、第五回大会も現地参加。配信アバターも作らない。グライドやニンカと同じく必要であれば顔を出す方針。理由は聞いておくべきだな。


「アバター利用をしない理由を聞いてもいいかな?初期費用を気にしているなら、そこは一旦気にしないで回答が欲しい」

「……私は、リーダーさんやロイドさんや、ニンカさんたちと楽しく遊ぶために配信者に、同じ場所に立ちたいんです」

「……うん」

「ゲームの大会や、オフコラボのようなもので、私だけがその場にいられないのでは、意味がありません。みんなと一緒に、同じ場所にいたい。EFOの大会も、リーダーさんも、ロイドさんも、ニンカさんも…多分グライドさんも、トラキチさんも無卿さんもいらっしゃる。顔を出さないと決めてしまったら、その中に私だけが入っていけない。それは…嫌なんです。身バレの可能性が上がっても、それによるトラブルが増えたとしても、私は一緒に行きたいと思った場所に、一緒に行ける自分でいたい。積極的に出すつもりはありませんが、隠してはいない、のラインで活動したいと思っています」


 目は合わせてこない。手は少し震えている。だけど視線は泳がずまっすぐではあって、時々手を握り込んで話す。時々言葉を探すように詰まるけど、喋り方には迷いがない。――――言っていることは本当で、でも怖いとも思っている。

 止めるべき内容ではないか。それよりはメンタルのサポートを気にかけるべきだな。


「ご両親にはその件は伝えてあるかな?」

「伝えてあります」

「ならOK。基本VRで、リアル配信ではアバター利用はなしで調整する。他には言っておきたいことはある?」

「えっと、とりあえず今のところは…」


 うーん、ほぼ条件ないな。ならこっちの雛形を一旦そのまま本契約にできるか。


「OK、思いついたらいつでも言ってくれ。じゃあ、こっちの書類の読みあわせをしていくよ。ロイド、よろしく」


ロイドに投げると、隣の親友は頷いて書類を広げた。


「渡している書類を上から順に読み合わせていきますので、質問があればいつでも言ってください。――――」





「――――以上になります。ここに会社の代表者、この場合はリーダーのサインと、こっちに君のサインが入るとこの契約が有効になる」

「はい」

「ということで」

「はい、えーとサインはどうすれば」

「ここからが所属についてのレッスンワンなんだけど」

「――え?え、あ、はい?」

「この手の書類はその場でサインしてはいけません」

「…………え?」


 やると思ったよ。絶対この場でサインなんてさせねえからな。


「VRルームをログアウトした状態でリーガルグラスのチェックを入れる。可能であれば持ち帰って実際に弁護士に見せる。どんな契約でも徹底してくれ。君の独断だけでのサインはしないこと、相手のVRルーム内で表示されるAIリーガルチェックを信用しないこと。そしてとても大事なことなんだけど――――その場でのサインを迫るような相手とは絶対に契約するな」

「……え?」

「世の中には相手を騙すことに長けている相手は腐る程いるから。本当に掃いて捨てるほどいるから。今すぐこの場でサインしろって言われたら、もうその時点で席を立っていい。どんな大口の契約でも、この話はなかったことにって言っていい。どうせそんな契約まともじゃない」


 はい、ということで送信。


「今君のアドレス宛に書類を一式送ったから、きちんと一度弁護士に見てもらってくれ。弁護士についてはお父様に相談してみて。どうしようもなければこっちから紹介もできるけど…俺達と契約するための書類を、俺達からの紹介の弁護士にチェックしてもらうのはおすすめしない。今回だけは自力で頼む」

「え、あ……はい」

「あと……ああ、これは契約とは直接はあんまり関係ないんだけど、4月1日付けで会社の役員が増えることになった」

「え、あ、そうなんですか?」

「うん、今まで俺とロイドだけ、二人で連名の代表社員だったんだけどね。四月からは正式に俺が社長、ロイドが副社長、三人目の出資社員がその下に入る。三月の大会が終わった後にでも一度顔合わせ機会を作るから、その時はよろしく」

「あ、はい。分かりました」

「多分知ってると思うんだけど…会社の住所も正式に変更になる。3月に事務所ごと東京に移設するから、必要であれば顔合わせなんかは事務所でやるってことも増えると思う。後で新しい住所も送っておくから、一応場所を確認しておいて」

「分かりました」


 他なにかあったっけ?とロイドを見れば、親友はゆっくりと頷いた。うん、これで全部か。


「書類内容の確認が終わったら、いつでも連絡して。正式なサインはその後に」

「はい、あの、ありがとうございます。父に、もう一度相談します」


 セリスは結局最後まで緊張した顔のまま、深く深く頭を下げて、ログアウトした。


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― 新着の感想 ―
一般高校生にはまあ分からないよなあ……としか言えんけど、話題性意外性の塊みたいな天然物だから刷り込まないとね_(:3」∠)_w ようやく一歩進んで、スカポンタンよりよっぽど覚悟決めてるセリスについて、…
セリスちゃんは「リーダーさん」スタートで「同じ場所に」って言ってくれてるんだから、リーダーも「一緒に遊べるのがうれしい」くらい言って欲しかったなぁ…。
『掃いて捨てる』じゃなくて『吐いて捨てる』なのか……誤字なのかどっちなのか分からんじゃった。多分誤字だと思うけど 頑張れセリス、いろんな意味で!
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