25-9.サザンクロスのいるサザンクロス
リーダー視点
「ギルドよ〜!俺は帰ってきた〜!!!!」
サザンクロス会社メンバー4人。ほぼ三週間ぶりにギルドの談話室に降り立てば、談話室は一瞬静まってからみんなが爆笑した。
「おかえりさん。大変だったね」
「いやほんとに。ありえん長くなったわ……」
「全部終わったの〜?」
「終わったー。もーこれでおしまい!」
「面倒をかけた。ここからは通常に戻る……と言っても、12月は予選解説があるのでそこからまた変則になるんだけどな」
「まーそっちは予定完全に分かってっからね」
みんながわいわいと集まってくる。さーて、懐かしのギルド業務だ。
ドリアンは溜まりに溜まったメッセージを眺めて、無言で会議室に入っていった。頑張ってくれ、まじで。
「とりあえず不在中の報告聞きたいから、無卿とぽんすけとドドンガ…は今いないか。とりあえず二人今時間いい?」
「いいよ」
「OK」
「無卿!無卿が先やねんな!」
びっくり箱がそわそわしながら無卿の正面に座った。あーもう、はいはい。
「そんでそんで、新素材どないや?」
「侵食耐性がつくってとこまではおるのチャンネルのやつで見たんだけど、その後は知らないんだよね」
「んっとねー、えーとこれが侵食耐性付きの武器、防具、アクセサリー。対腐食龍ではってただしがつくけど、武器に直接つけると八割くらいの耐性になる。防具だと五割、アクセサリーだと三割じゃないかってのが今んとこの結論」
「検証は誰が?」
「セリスちゃんが武器チェンで装備ころころ変えながら色々やってくれたよー。今度労っといて」
「ん、分かった」
セリスか……。学校の試験勉強とかで、ちょうど一昨日あたりからいないらしい。
まったく入っていないわけではなく、ふらっと現れて、ウィーククエストを消化して少し喋ったら30分くらいでログアウトしているようだ。勉強の休憩時間ということなんだろう。
タイミングが合えば会えんのかな……こんだけすれ違ってるとそれも望み薄ではあるんだけども。
「腐食……じゃなかった、侵食耐性は武器とアクセ、それか防具に二つつけるのが良さそうか?」
「単にコロデュスだけなら防具二つがいまんとこおすすめ。だけど今後攻撃の強いタイプとか状態異常持ちとかが来た時に備えて、アクセは作っとくのがいいんじゃねーかな」
そうな、武器はその時強い武器につけることになるだろうから。
侵食耐性なんて意味深な名称であることを考えるに、今後魔法以外も「喰う」敵が増えるのだろう。
「腐食龍に吸われる武器と吸われない武器はまだ検証段階だけど、基本的に魔法使ってくる敵からドロップする系の武器は全部吸われる。ヘッド部分を通常鉱石で作った劣化アルディアナは吸われなかったから、判定はヘッドっぽい。どんな武器でもエンチャントしたら全滅。スキルは全然検証できてない、そっちは数が多いから検証ギルドから情報出るの待ったほうがいいかなーって感じ」
「素材自体は足りてる?」
「テンション上がったニンカが鬼周回してるからめっちゃある」
「あー……最近ニンカのアサシン出番少なかったからな……」
まあ、楽しく周回してるんならいいや。グライドもニンカ相手なら付き合うんだろうし。
生産系はとりあえず急ぎ知っといたほうがいいのはそれくらいか。
細かい仕様確認はまあ、この後びっくり箱が好きなだけ遊ぶだろう。
「色々ありがとな。ギルドも結構まとめてもらっちゃったみたいで」
「お礼はプラチナチケットでいいのよ?」
「あー……」
いやまあ、グライドでなけりゃ次は無卿なんだけどさ。
「まあ、出演料だのなんのって言われるよりは健全か」
「そうだな」
俺の言葉にロイドも頷いた。
3週間のギルドまとめお疲れ様ってことで渡すのなら、いいか。出演料として渡すのはチケット売却にあたる気がしてちょっと嫌だったからな。
報告が終わるとびっくり箱はそそくさと席を立って錬金室に向かった。まあ、うん。行ってらっしゃい。
「攻略や周回チーム側はあんま言う事ないんだけどね。メール送ってたのは見てる?」
「見ている。メールで助かった」
「んー、あれでしょ、ゲームメッセージ開けなかったやつでしょ?」
ロイドと二人、返事はしないで肩を竦める。
EFOのプレイは全てモニターされていたのでメッセージを開けなかったのは正解だ。メールは持ち込んだPCやスマホの方で確認できたから、本当に助かった。
「ENVYがサンドールの素材がちょっと数が怪しいって言ってたから、今度攻略時間を取りたいかな」
「上級レイドか……ん、了解」
「あれだけ乱獲しても足りなくなるんだな……」
「前回一生分剥いだと思ったんだけどなー」
「びっくり箱の検証配信で60個使ったからね」
あれな……検証そのものもやばかったけど、倉庫の復旧のほうも実はまだ完了してねえんだよな……。
「ってことで、引き継ぎはこんなもんかな」
「あんがと。あんまり大きいことなくてよかったわ」
「うん。ところでリーダー」
「おう?」
「ちょっとサシで話したいんだけどいい?」
「おう、いいよ?」
ってことでロイドと別れて小会議室の方へ移動。
なんかちょっと怒ってる雰囲気があるか?
「どうした?」
「どうしたじゃないんだけど?」
え、なに、本気でこんなに怒られる内容が分からん。
「なんで年末企画の日付アレなの?」
「いや……そこしか空きがなかったからだけど……」
「そこが空いてんならやるべきは年末企画じゃなくてデートだろ!?」
…………ああ、なるほど。
「まだ告知打ってないなら今からでも中止したら?」
「いや、やるよ」
「……」
「俺はこの生き方を選んだからさ。ここは譲れないし、譲らせない。誕生日には誕生日配信をするし、年末には配信をするし、クリスマスもバレンタインもホワイトデーも、俺はカメラの前に立つよ」
「馬鹿?」
「うん」
仕方ないんだ。そうしたいって思ってしまったから。今も、そうしたいって思っているから。
「そうでなきゃ、10年後の俺が笑えないからさ」
ぽんすけが眉根を寄せる。
「だいたい、デート誘ったとしてさ。自分とデートだから年末ファンサがなくなったって知ったら、あの子はそっちのほうが気にするよ」
これだけは自信を持って言える。あの子は絶対に一生気にするだろ。
「…………すかぽんたんめ」
「ふは。ぽんすけにそれ言われたのは初めてだな」
「事実だろかっこつけしいめ。せめてペアをリーダーセリスにしなよ。なんで僕がセリスちゃんとペアなんだよ」
「それはまだだめ」
「まだ?」
「まだ。」
ぽんすけはしばらく俺の顔を見て、それから息を吐いた。
顔が熱い気がする。
自覚してから思うんだけどもしかしてみんなずっとこんな感じだった?なんかこう、視線が生ぬるいんだけど。
「ん~~……まあ、わかった。クリスマスプレゼントくらいは用意しときなよ?」
「分かってるよ。あ、ぽんすけは?なんか欲しいもんとかある?」
「なんで僕に聞くんだよ……」
「なんでって、クリスマスイブに一緒に遊ぶのはお前もだろ」
「いらんよヤローからクリスマスプレゼントなんて。新手の嫌がらせか?」
「いやクリスマスプレゼントに性別あんま関係ねーだろ」
そう言って二人で笑う。
大人になったらいらんって気持ちは分かるけどね。バレンタインじゃねーんだから男から男友達に渡したって構わんだろ。
「……しばらくは普通にギルドにいるんだよね?」
「ん?うん、その予定」
「彼女が来たら連絡いる?」
「…………」
瞬間的に頼みそうになった言葉を直前で飲み込む。
行動の監視みたいなことはしたくない。けどこのままだと全然会えない疑惑があるのもまた事実で……。
「リーダーのそういうところは好ましいね」
「あー……すまん」
ぽんすけは返事はしないで、ただ肩を竦めた。




