25-7.一方その頃

　

「あ～～～～～今期はもう駄目だ！やめやめ！」

　隣でPCを操作していた親友(りひと)が、がちゃりとヘッドマウントディスプレイを外して天井を仰いだ。

「まあ無理だろう」

「それはなー。そうなんだけどさ」

　平日日中に時間の取れない状態で株で勝つのは、基本的に不可能だと思う。今は引っ越し準備に大型案件に通常の配信業務にととにかく忙しいから、あまり手を掛けていられない。

　まあ彼は株のことをコインを増やして遊ぶタイプのゲームだと思っているようなので、「ゲームで負けが混んでる」くらいの認識なんだろう。……とんでもない金額が動いているけれど。

「まーしゃーない。切り替えてこ。さっきドリアン来てた？」

「ああ、年末企画の件、グライドとニンカはOKだそうだ。このあとぽんすけたちに確認をとると……日程、本当にいいのか？」

「いいってか、それしかないだろ」

「そう、だが……」

　今年は12月の第一週二週が公式大会の予選なので、早めに年末企画の詳細を決めて、準備が必要なところはおさえ始めないといけない。

　年末企画案自体はあっさりと決まったのだけど、日程のほうが難航した。

　年末年始の予定が詰まりすぎて、通常通り12月31日にイベントを実施することがほとんど不可能だったのだ。

　リーダーが提案した日程に、五度ほど確認を入れ、今六度目の確認をした。

「内容的にも完全事前登録であんまり人数呼べないしさ。百人くらいまでだろ？」

「まあ、そうなる」

「ってことは他とちょっと被ってるくらいがいいっしょ。ほら、ぴったり」

「……」

「まあ、無理そうだったらその時考えよ」

「……承知した。君がいいなら構わない」

「あいよ」

　本当にいいのだろうか。そう思いつつも、代案があるかと聞かれると難しいのもまた事実だった。

「あああと……明日、なななさんが来るらしい」

「まじか」

「トラキチも残留だそうだ」

「あー……研究所の人も来るの？」

「来る」

「ってことはびっくり箱も参加か」

「そうだな」

　西生寺VxRリゾート、まだオープン前のここに居を移してからそろそろ2週間。

　VR設備周りの動作検証はほぼ終わって、ようやく色々なことから開放されるかという段階だったのだけど、もうひと仕事が確定した。

　流石にこれで終わりだと信じたいところだ。

「ななさんは来ないかと思ってたけどなー。来んのか」

「まあ、彼女は大会もリモート参加だからな。ここに普通の宿泊客として来るのは大分先になるだろうから、来れるなら来てみたかったんじゃないか？」

「トラがいる間は来ねえと思ってた」

　理人が苦笑しながら肩をすくめる。

　まあ、なななさんのトラキチ嫌いは有名だからな。

「このホテルのほうが天秤が重たかったということだな」

「そうな。ま。本人が来たがったんなら言うことはねーわ」

　理人がテーブルに置きっぱなしの資料をひらりと持ち上げて、じっと見つめた。

「……ロイは聞いてた？」

「いや、聞いていない」

「そっか――――まあ、ちょっとタイミング悪かったからな……」

「そうだな、彼女なら多分相談しようとはしたと思う」

「だよなー」

　ここ半月ほどギルドの方にはほとんど顔を出せていない。

　ここでの現在のプレイ内容は全てモニタリングされているので、うっかり会社のあれそれや他のメンバーの個人情報などが出ないようこちら側が控えている状態だ。

　まあ、事前に知っていたからといって何か変わるわけでもないのだけれど。

「いい加減帰りてえなあ」

　ギルド自体はぽんすけや無卿がうまく回してくれているようだ。

　新ボスに苦戦しているという連絡に早く帰ってこいと添えられていたけれど、先程アルマジロ先生が初クリアについての投稿をしていたので、先を越されたらしい。

　……まあ、仕方ない。メインメンバーが何人も不在でも一番が取れるほど、EFOの層は薄くない。

　なんとかなっているとは言え、確かに少し疲れては来た。

　うっかり雑談に発展しないよう声をかける人も絞っていて、そのあたりの気遣いもこれだけ長期になると面倒の方が増えている。

「住んだら住んだで、帰りたいとは言うんだな」

「それはそれ、これはこれ」

　いつぞや住みたいと言っていた理人にそう投げかければ、彼は少しだけ、疲れた笑顔を向けた。