25-3.現実《新ボス》
「とりあえず僕の所感から話していい?」
大会の特設サイトを閉じ、セカンドアタックの際に撮っておいた録画を会議室の画面に出して、ぽんすけさんが言った。
「おう」
「どうぞ、総大将」
「――――ロイドとねむ蝉とトラ抜きで勝つのは、無理!」
「「「でーすーよーねー」」」
ですよねえ……。
今リーダーさんロイドさんはもちろんのこと、ねむ蝉さんも育休中で時々ふらっと現れるけれど基本的にいない。
あと何故かトラキチさんもログインしていない。ハムさん曰く、リアル多忙とのことだ。トラキチさんが何日も配信をしていないのは本当に珍しい。
「リーダーいないのは何とかなるけど、後衛メイン火力二枚抜けてんのは無理だよ……」
「それなあ」
「運営とうとうやりやがったって感じだよな」
「はい、じゃー泣き言ここまでってことで、現実的に何が要る?」
アタックチーム本気の泣き言を、無卿さんが肩をすくめて流した。
いやあ、無理だと思いますが、試すならという話でしたら、
「最低でも、ストックのイヤリング7つ。これは各前衛に7つずつという意味です」
全アクセサリーをストックにする以外、方法はないですよ。
11月8日の定期アップデートで新しいボスが追加された。新ボスの名前は、腐食龍コロデュス。
ボルグ遺跡の近くの旧オアシスと呼ばれる小さな湖に突如現れた、腐敗を撒き散らすドラゴンだ。
ドラゴンゾンビといった風貌で、名前が腐龍ではなく腐食龍だった時点でもう全員の意見は「嫌な予感しかしない」で一致していた。
先発ひと当てで、腕からごっそりと「何か」が抜ける感覚がした。
ステータス変化はなし。装備も変化はないけれど、何か形のないものが吸われている感覚が強く腕に張り付く。
もしかするとレベルドレインなのかもしれないけれど、1レベルくらいなら下がるのも許容範囲と思いつつ数度打ち合って、どうにもドラゴンゾンビにダメージが入っているように見えず、ファーストアタックは一旦撤退となった。
そして録画を見つつステータスや装備を確認している時に、それは発覚した。
武器耐久が、ごっそりと削れている。
ボスチャレンジ前は多少素材が無駄になろうとも絶対に修繕を行っているので、断言できる。絶対にこんなに低くくなることはありえない。
『腐食龍な……』
『腐食龍だね……』
『腐食龍、ですね……』
ドドンガさん、ぽんすけさん、私の前衛三人で、遠い目をした。
セカンドアタックはもう検証と割り切って色々としたところ、分かった事は三つ。
一つ、腐食龍に触れたハンド装備は耐久値がおそらく300程度減る。減る量が一定ではない気がするので要検証。
二つ、腐食龍は残数値10以下の耐久を吸うことができない。
三つ、…………腐食龍は、耐久値を吸うごとにHPを回復している。
耐久値は一合またはスキル一回で1削れる仕様なので、残耐久値10の武器で行けば腐食龍は回復しないが、十回スキルを使ったら武器が大破することになる。
そして最悪なことに腐食龍が耐久を吸うのはハンド装備。つまり、盾も対象だ。
攻略法は間違いなく前衛が壁をやりつつの後衛火力で倒す方法だということは分かる。
分かるんですが、今後衛火力担当が軒並みいなくてですね……。
避けタンクでも後衛が完全に火力を持つパターンだと、挑発攻撃が必須になる。
武器耐久10の装備で挑発するとなると絶対に予備装備が必要だ。敵が明らかに高耐久型ボスであることもあいまって、装備一つで立ち向かうことは不可能だ。
装備欄を開いた状態で避けタンクができるほどの避け技量は、私にはない。
やろうと思えば避けタンクができそうなトラキチさんは、現在不在。
やるならストックのイヤリングに予備装備を入れて持っていくことになる。それも複数。正直七つで足りるのかということも良くわからない。
そして、腐食龍がそれなりの頻度で足元にどろっとしたなにかを伸ばすので、後衛の前にそのどろっとしたやつを切り倒す護衛が必要なんですけど、それが本体につながってる扱いらしく……。護衛にも同じように装備ストックが必要なんですよね……。
『誰だよこのボス考えたやつ!!!!!』
ぽんすけさんが全力で叫んでいた。
「ストック7つが前衛3人で21個かー」
私の言葉を受けて、無卿さんがぐるぐると頭を回した。
「ちなみに三人は何個持ってる?」
「三つです」
「僕は一つだけ」
「俺も一つ」
先日の非公式PvP大会の試走で3パターン作ったので私だけ多いですけど、そもそもストックって日頃使うものではないので、皆さんあまり数を持っていないんですよね。
まぁ、持っていても今回はあまり意味が無いのですが。
「ってことは不足は16個。サポメンの集めりゃなんとかなるな」
「いえ……エンチャント全部し直さないと厳しいかと……他のアクセサリーなしなので、全調整ですから」
無卿さんが一瞬遠い目をした後、すぅ……と大きく息を吸い込んだ。




