25-1.サザンクロスのいないサザンクロス

　気持ちがまとまって、パパやママとも話して、……それから寝落ちて。

　そんなこんなで事務所所属の件をリーダーさんに伝えようとした矢先、彼は――正しくはサザンクロスの会社メンバーは全員、ログインしなくなってしまった。

　配信自体は行われている。サブジョブのレベル上げや使い方の解説なんかもしているのだけれど、ぱっとログインして、終わったらぱっとログアウトしてしまう。

　「しばらくこの調子です」というギルドチャットの書き込みすら、ドリアンさんからだった。

「まあ、どっか逃げたんでしょ」

「逃げた、ですか？」

　こちらはこちらでサブジョブのレベル上げに雑魚狩りをしながら、ぽんすけさんが言った。

「んー、逃げたってか、避難？EFOの公式大会はさ、新しい西生寺のVR施設の公開プレオープンイベントなわけ」

「えっと、はい。4月の正規オープンの前に行うイベントってことですよね」

「そう。でもってイベント規模がでかいでしょ」

「ああ、はい、そうですね。前衛後衛16人トーナメントなので、単純に32人ですか？」

「うん。お遊びイベントや賑やかしの参加もいるし、マネージャーとか含めたら倍になるんじゃない？その人数が同時にオンラインゲームをプレイする。大会だし、こけられない」

「そうですね」

「そうすると、絶対にプレのさらにプレをやらなきゃいけないわけ。実際に電力負荷やネットワーク負荷を確認して、場合によっては何かしら直して、直したらまたプレプレが必要なわけ」

「……なるほど？」

　プレのさらにプレ作業……言われてみればそうですね。配信を伴うイベントでいきなり何十人も同時にマシンを起動して電源が落ちたら困りますし。

「この間のVTRは一部イメージ映像だったから、ホテルはまだ完成しきってない。ってことはプレプレは多分これからなんだよ」

「ああ、そうですね」

「プレプレに参加させてくれって人が、押しかけてきちゃったんだろうね」

　…………なる、ほど。

「普通だったら僕らにそんな権限はありませ〜んでよかったんだけどねえ」

「あー…………」

　大会にねじ込んでくれは絶対に無理だけれど、非公開の動作確認なら、西生寺社長令息(リーダーさん)には、多分ねじ込もうと思ったらねじ込めるだけの権力がありますね……。

「リーダーの家は西生寺の御本家だからバレてるし、ロイドの家は会社の登記住所だからバレてるしで、とりあえずふたりとも家にはいれなくなっちゃったんでしょ」

「それはまた……」

　家に押しかけてくるなんてこと、本当にあるんだ。

　お二人とも大丈夫なんでしょうか……。

「まあリーダーは別荘持ってるし、それこそ西生寺のホテルに一旦居を移せばいいだけだから。だけどどこにいるにしても、VRマシンを普段みたいに使い放題は難しいんじゃないかな」

「なるほどです。大変ですね」

「今回ばっかりは同情するわ。そんなふうに突撃してくる人をねじ込めるわけないってわからんもんかね」

「本当に……」

　非公開の動作確認人員に求められるのは、おそらく秘密を守れることだ。そんな場に、マナーが悪いことが分かりきっている人なんてとてもではないが連れていけないだろう。

　まあ、それがわからないから押しかけてきているんでしょうけれど。

　あの公式配信から2週間。リーダーさんに声をかけるぞと意気込んでからすでに10日。11月も5日になり、3周年アップデート内容も順調に仕様の詳細が見えてきている。

　――――本当に、なにもかも、タイミングが合わないなあ。

　音にならないため息を飲み込んで、敵モブにナイフを投げ込んだ。