24-12.弱体化《ナーフ》
「大会概要出ましたねえ」
「出ましたねえ」
公式配信は明けて月曜日。今日はシアさんのギルドのルームにお邪魔した。
以前見たときよりも色々とものが増えていて、3つ置かれたソファの一つに彼は誰の獣像が鎮座している。
お部屋の真ん中に飾ってくれているのが、とても嬉しい。
「シードの連絡来ました?」
「はい、来ましたよ」
公式配信の直後、シード枠での参加可否を尋ねる連絡がゲーム内とゲームに登録しているメールアドレスの両方に届いた。
いつも前回大会の四位までがシード枠で、今回もそうらしい。
「セリスは参加するんですか?」
「えーと、はい。そのつもりです。シアさんはどうしますか?」
「うーん……ちょっとむずかしそうなんですよねえ」
シアさんはそう言って困ったように笑った。
「難しい、ですか」
「ええ、まあ……3月頭だと、色々準備が……」
「あー……卒業式ですか」
シアさんは文化祭が無事終わり少しひと心地着いたと言っていたけれど、そっか、3月は卒業式か……あれ、うちの学校の卒業式っていつだったっけ。
「卒業式もなんですけど、来年度向けの新入生歓迎会の方も忙しいんですよね。部活勧誘関係の準備の時期なんで」
「へー……」
部活に所属したことがないので、そのあたりは良くわからないですね。3月から勧誘準備とかするんですか。
「入試とかで学校自体が使えない日も多いんで、学校が使える日は結構予定が詰まっちゃってて……」
「お疲れ様です……」
「後はまあ、うーん、もう私が出ても勝てない気がするんですよね」
「やっぱりそう、ですか」
「まあ。難しいですよ」
三周年アップデート情報で、一部のスキルの調整が来た。
一番大きな修正は遊び人系で……神出鬼没のクールタイムが五秒から五分に変更になるというとても大きな弱体化が入った。
「私は神出鬼没ありきのプレイングなので、2,3ヶ月で新スタイルを作るのは多分難しいですねぇ。シード枠の選手が弱いのはだめだと思うんで」
「そう……ですか」
「私の分も楽しんできてくださいね。あ、現地行くんです?」
「それはまだ悩んでいて……」
現地はカメラが回るので、リアルの顔を出さないといけないんですよね。
「ああ、そっか現地はリア顔かあ……それはちょっと勇気がいりますねえ」
「そうなんですよね……」
やっぱりリモート参戦ですかねえ。
「うーん…リーダーさんと同じホテルにお泊りなんて、是非後で詳細聞きたかったんですけどねー」
「大会ですよ、何言ってるんですか……」
「えー、でもオフになった夜に一緒にちょっと抜け出してとか、楽しそうじゃないです?」
「…………」
夜に一緒にちょっとお散歩をするのは、まあ、楽しかったのですけれども……。
「ギルドの方は他誰か参加するんですか?あ、これ聞いていいのかな」
「トラキチさんは現地参加、ハムさんはリモート参加希望で返事を出したそうです」
「へえ、ハムさんリモートなんだ」
「顔出しはしていない、とのことでして」
「意外。ファイターさんが居たらどこにでもついてくんだと思ってた」
「ですよね」
トラキチさんが参加するんだからもちろん付いていくんだとばかり思っていたので、私もそれを聞いたときは驚いた。
「あとはサザンクロスのサポーターとして一人連れて行っていいとのことで、今チケット争奪戦が起こってます」
「なにそれウケる」
リーダーさんはグライドさんを誘っていたのだけど、グライドさんは「自力で行くんでいりません」と言って固辞していた。
今回のルールはタンカーは勝ちにくいので、メインタンクが行きたいと言ったらみんな当たり前にグライドさんに譲ったのだろうけれど、彼がいらないと言ったので他のサポートメンバーが行きたい行きたいとチケットを奪い合っている。
ちなみにニンカさんは同時開催されるお遊び企画『二〇秒チャレンジ』という、二〇秒でのダメージスコアランキング企画での招待選手で行くらしい。
常設のスコアランキングは六〇秒で、これはアサシンが圧勝なのだけど、二〇秒の特殊ルールだとアサシンとブレイダーとウォーハンマーが大分いい勝負をするらしく、こちらの予選会場も賑わっている。
「ってことは、サザンクロスだけで八人くらい現地入りするんですね」
「そう、ですね。そうなると思います」
そっか、八人……ちょっとした集まりの規模ですね。
プレイヤーだけで三~四〇人くらい現地にいるはずだけど、そう思うと多いですね……。
――――リモートだと、自分はそこに入れないのか。
ふとそう思ってしまった思考が、冷たい氷のようにお腹の底に沈んだ。
※神出鬼没のナーフは、同時に踏み倒しのクールタイムが10分→5分に短縮になるという強化が来ており、実際には5分に2回使用できます。
アイテムでMP回復が可能な通常のPvEではさほど問題にはならず、むしろ全てのスキルが5分で2回使える超強化になっています。
ただ踏み倒しはコストが最大MPの50パーセントなので、PvPでは使用できません。
EFO内ではランダムマップPvPだと遊び人系の神出鬼没がとてつもなく強いという問題が出ており、PvPでの使用を抑制する為だけに来た弱体化です。




