24-9.二者面談
????視点
「ご無沙汰しております」
日曜日の昼下がり。
目の前の金髪碧眼の青年が、私に向かって頭を下げた。
待ち合わせをして案内されたのはマンションの一室で、リビングには配信で見たことあるソファセット。部屋の隅にはカメラや三脚や、高所から撮影するためだと思われる棒が整然と並べられている。本棚にはゲーム関連らしい雑誌が並び、一部表紙が見えているものは目の前の彼や、彼の相方が表紙を飾っていた。
物珍しく部屋を見渡していると、整った顔の美青年も対面のソファに腰掛けた。
「今日はお時間いただきありがとうございます」
「いえ、日中のみで申し訳ありません。今夜は予定が入っておりまして…」
「お忙しいでしょうし、ご無理はなさらず」
配信者という仕事については随分調べた。
土日は基本的に仕事になる職種だ。今日この時間をねじ込んでくれたのも、もしかすると随分無理をさせたのかもしれない。
「改めまして――娘が大変お世話になっております」
「こちらこそ、娘さんには本当にお世話になっています。当方の主戦力です。お世辞ではなく、本当に」
新しく登録したVRゲーム関連のネットニュースサイトには、度々彼らの活躍が載っている。その中に時々娘の名前があるので、本当に活躍しているのだろうことは知っている。だけど当人からそう言ってもらえるのはそれはそれで嬉しいもので、頬がゆるむのを感じた。
「あまり時間がないので、お話を進めてかまいませんか」
「ええ、是非」
「転職にいい時期はいつか、というお話でしたね」
「ええ……何分ここ20年ほどそういった話と無縁に過ごしておりまして。最近の風潮はどんなものかなと」
メールでの突然の問に、なにか濁した返答ではなく、わざわざ会う時間を作ってくれたということは、まあ、なにかあるんだろう。
十年前に、誓ったことがある。
次に仕事か家族かを選ばなければならないのなら、次こそは絶対に家族を――――妻と娘を選ぶと。
二十年のキャリア?課長の椅子?知ったことか。
金だけ出していい暮らしをさせていればいいものではないと、胃の千切れるような思いをしながら学んだのだ。
この胃の千切れるような思いすら、娘のもう取り返せない六年間に比べれば何というものでもない。
ただ残念ながら金なんていらないなどというほど世の中は甘くなく、真っ当な暮らしをするためには職が必要だった。
本当に「転職できればどこでもいい」のなら、多少収入を落とせば入れる場所もあるのだが、今回はそういうわけにもいかない。
「保守的な年嵩の方たちよりはお若い方の意見を聞いてみたいと思いまして」
にこりと笑う。
目の前の青年も、心なしか笑みを深めたように見えた。
聞いてない話ばかりだなぁ。
思ったことを顔に出さないことについては幾分鍛えられているが、手に汗が滲むのは抑えられない。
娘からの相談を待っておくべきだったかとも思うけれど、あの子はあまり相談せずに一人でじっと悩んでしまうことも多いので、こちらで可能であれば内容を多少握っておきたかった。
思っていたより早く娘本人から「相談したいことがある」と連絡が来たので、もう少し待てばよかったかもしれないとも思うけれど、それは結果論なのでどうしようもない。
それはそれとして「娘さんからお聞きしているかと思いますが」から始まったのは全く本当に思ってもみない話で。
事務所の立ち上げ……いっしょにどこかに所属するのではなく、事務所ごと立ち上げるのか。
仕事柄新規事業そのものにはそれなりに関わってきているけれど、何をやるにしてもかなり忙しいことだけは間違いない。――――本当に今日、時間をもらって大丈夫だったのだろうか。
「ああ、ちょうど時間ですね」
「時間?」
「エリシオンファンタジーオンラインの公式配信の予定時刻でして。良ければ一緒にご覧になりませんか」
…………ゲーム自体の情報は見てもあまりわからないのだけれど、わざわざ会うのにこの時間を指定してきたということは、見ておけということか。
「ゲームについては門外漢ですが、それでも良ければ是非」
横に置かれたタブレットから、楽しげな少年のような声が響きだした。




