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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
■廿四章 三周年の告知

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24-1.いちごタルト

 バターを70グラム切り出して、一旦常温で置いておく。


 厚手のポリ袋に買ってきたビスケットをザラザラと入れて、飛び出ないように軽く封をする。

 その袋をキッチンに置いて。麺棒を取り出して。


 ダンッ


 振り下ろした麺棒に、中のビスケットが砕けた。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 菓子作りである。

 これは断じて、菓子作りなのである。


 ダンッ、ダンッ



 ――――恋愛は、自由にはできないと思って欲しい。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 ――――君だけでなく相手にも中傷が向く。実際にひどい誹謗中傷をするようなやつって片手で数え切れるくらいなんだけど、そのほんの一人の頭がおかしければ、君だけでなく、相手を傷つける結果になることもある。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 これは私に起こる事の説明だ。

 私に起こることの説明なのだけど。

 リーダーさんは、私にリアルの友人どころか、知人と呼べる人すらほとんど居ないことはわかっているはずで。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 ――――()だけでなく相手()にも中傷が向く。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 ――――そのほんの一人の頭がおかしければ、()だけでなく、相手()を傷つける結果になることもある。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 ――――覚悟や耐性のない人と付き合うと(が君になければ)相手()がその中傷に耐えられないことも多い(ある)


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 ――――それでも俺は、セリスと一緒に事務所を立ち上げたい。



 ダンッ。



 存在しない副音声が頭をかすめる。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 流石に、絶対にバレていないなんて口が裂けても言えない。ニャオ姉さんやハムさんや、なんならトラキチさんにまで速攻でバレていたし、なんだかんだこう、周りの人が少しこちらに気遣っている空気があるのも分かっている。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 それはそれとして、相手にして貰えるとは、思っていなかった。

 傍にいたいと私が思っていたって、彼にとって私は9も年下なわけで。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ


 どくどくとうるさい心臓の音を誤魔化すように叩きつけていた麺棒の下で、いつの間にかビスケットは粉々になっていた。



 出しておいたバターをレンジで温めて溶かし、ビスケットの袋に入れる。

 よく揉んで、なじませるために少し置く。


 卵を3つ割って卵黄だけ取り出して、卵白は今夜のパパのつまみ用に一旦冷蔵庫に入れる。

 卵黄に砂糖を50gくらい入れて混ぜて、小麦粉を30gくらいいれてさらに混ぜ合わせる。

 牛乳を2カップ温めて、少しずつムラが無くなるように混ぜて。

 鍋に移して加熱し、ちょうどいい硬さになるまで焦げないように混ぜ続ける。


 そしたらタルト型にさっきのビスケットを敷き詰めて、ラップを付けたコップでぐいぐいと押し固める。

 その中に作ったカスタードを入れて、冷やすために冷蔵庫へ。


 …………さて。勢いでタルトの土台はできたけど、上に乗せるものを考えてなかった。このままカスタードタルトでも多分許されるけども。

 今の時期だと……りんご?生だと微妙かな……。コンポートってどうやるんだっけ……白ワインとお砂糖とバターで煮るんだったかな?

 あー……前に作ったときは料理用の白ワインが冷蔵庫にあったんだけど、今見当たらない。

 私の年齢だと買えないし、パパのワインを勝手に開けたら流石に怒られるかな……。

 ぶどうよりはもう少し酸味が強い方がいいかな。


 じゃぶじゃぶとボウルと泡だて器を洗う。

 もう面倒だからいちご買ってこよう。


 買ってきたいちごを切って、円を描くようにならべ……なら……な…………うーん…………


 まあ、いいか。食べるの私とパパとママだし。





「お、これは今日はデザートがあるのかな?」


 夕食時、卵白のチーズ焼きを見たパパが言う。

 うん、あるよ。

 いつも卵黄だけ使ったときにこれを夕飯に一緒に作っているので、これが出たらお菓子を作っていたんだなとすぐに分かってしまう。


 夕飯を食べ終えて、リビングのソファで紅茶を片手にいちごタルトをつつくパパの横に座った。

 タルトにフォークを入れると、台座はぽろっと崩れつつ、カスタードの甘さといちごの甘酸っぱさが口に広がる。うん、味はまあまあだ。


「…………パパは」

「うん?」

「お仕事、楽しい?」


 パパは一瞬虚を突かれた顔をして、それからうーんとすこし悩みだした。


「楽しいと言えば楽しいよ。長く勤めて色々勝手も分かっているし、大きなプロジェクトも任せてもらってやりがいもある。慕ってくれる部下もいる」

「…………そうだよね」


 パパは私の産まれる前から今の所で働いている。

 以前、その……そういうつもりがあるのなら、身の振り方を考えなければ()()()()と言っていた。

 あの時は意味がよくわかっていなかったけれど、それなりに調べた今ならわかる。パパの会社とリーダーさんのご実家は、競合他社というやつだ。

 そりゃあ確かに隠されたら面倒だろう。聞き方は絶対に他にもっとあったと思ってるけど、そこは理解出来た。


「――――紬」


 パパは私の頭を、ぽんっと撫でた。


「パパは大人だから、大抵のことはなんとかするよ。やりたいことがあるのなら、一旦パパのことは考えなくていい」

「…………パパに迷惑をかけることでも?」

「子どもは親に迷惑をかけるものだよ」

「……私も、もう大人なんだけど」

「そうだね、素敵なレディになった」


 子供扱いを受けている気がする……。

 いやまあもう子供ではないけど、大人というわけでもないといえばないのだけど……。

 なんとなく釈然としないまま、だけど続きの言葉が出なくて、タルトから落ちたいちごを口に放り込んだ。



 □■□■□■□■□■□


「さて。」


 愛娘の世界でいちばん美味しいいちごタルトを食べ終えて、仕事部屋に一人。

 目の前には三枚の名刺。


「この場合は誰に連絡をするのが無難なのかね?」


 とりあえず一番ない(・・)だろう名刺を少し遠ざけ、同じ社名の書かれた二枚の名刺を見比べる。

 一旦こっちに探りを入れるか。

 そう思って、メーラーを立ち上げた。


リンゴのコンポートはワインがなくてもバターと砂糖だけで作れるのですが、セリスはぱっとレシピが出てこなかったようです。


フライパンにオリーブオイルを敷いて余った卵白を流し、上にピザチーズをかけて蓋をして蒸し焼きにします。

ごりごり黒こしょうをかけて、お好みで軽く塩を振って食べると美味しいです。

おつまみにどうぞ。


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― 新着の感想 ―
さすセリですね、すかぽんたんの足りない言葉をちゃんと推測できている……! お父様は複雑だろうけど、ちゃんと考えて実行に移そうとしてくれるいいお父様だなあ
まぁ、イラッとしてる時点で伝わってはいるよね。伝わっては。 へたれーw
…まさかの副音声で伝わった!?って笑っちゃダメだけど笑ってしまいました。 セリスは人の機微には疎いのかなぁと思ってたんですが… まぁ、少しのデータから推察する力がつよつよなだけですかね?? 奇跡的に伝…
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