23-9.ワークスペースにて 下
セリス→リーダー
「今度、サザンクロスで正式に配信事務所を立ち上げる。君に、オープニングメンバー、いわゆる一期生になって欲しい」
……………………。
「はいしんじむしょ」
「まーえーと、ゼロプロとか、Nライブとかの仲間」
「あ、はい、ええと、雰囲気は分かります」
事務所所属についての打診はいくつも来ていて、一度ロイドさんに詳細を聞いたことがある。
一般的には社員ではなくタレント所属契約になるそうだ。
チャンネルを開設して、開業届を出して個人事業主になる。そこから事務所と所属契約をして、事務所側はマネジメントやグッズ展開、イベントなどを取り仕切る代わりに管理マージンを取る。
20~30%くらいを事務所に収める形になるそうだ。大きく活動をするなら所属したほうが一般的にはやりやすいとかなんとか。
サザンクロスの配信事務所を立ち上げて?所属?私が?
「私のチャンネルを立ち上げて、タレント所属するということですか?」
「そう。まだ構想段階だけど、来年4月を目処に設立する。一旦説明していい?」
「あ、はい」
「――――という感じ」
「……はい」
今まで聞いたどの事務所よりも自由だ。
これは、任せているマネジメント代行を、本当にタレントとして所属させて代行の文字を取りたい、ということですね。そのうち話題が落ち着いて減るだろうと思っていた共演依頼、何故かなかなか無くなってくれないんですよね……。
収入は、私の人気……人気?なら、ほぼ間違いなく増える。好きな企画を自分で立てることもできる。あー……まあ、サザンクロスチャンネルでやるものではないなと思って配信を控えているものは確かにありますね。それも、私の個人チャンネルならできると。その上でチャンネル管理は所属事務所側、つまりサザンクロス事務所の方にある程度お願いできる。
本格的に活動するのなら、所属のメリットは大きいですよね。
リーダーさん達のことは信頼しているから、信頼関係の構築をイチから手探りで、みたいなことにならないのも個人的にはすごく大きい。
「デメリットは、まあ……その、本格的にタレントとして活動が増えると、高い確率でプライバシーが侵害される。1万程度の登録者数でも、一人二人くらいはやばいやつは出る。執念じみた張り付きで、思ってもいないところから家がバレたり。そうだな……配信中に映り込んだ落雷の光で家のおおよその位置がバレた、みたいなのは割とある」
「落雷……」
ああ、今落雷位置って気象庁のサイトでピンポイントに見れますものね。
「いわゆるアンチって呼ばれる人もどうしても出る。楽しんでくれてるファンの後ろ側に、多種多様な誹謗中傷罵詈雑言が溢れる。法的な対応はこっちに任せてもらっていいけど、ストレスはかかると思う」
「それはまあ、そうでしょうね」
今でもまあまあありますけれど。
「あと……恋愛は、自由にはできないと思って欲しい」
……。
「勘違いしないで欲しいんだけど、事務所の方針として恋愛禁止なんて時代錯誤なことを言うつもりはない。自由にしていい。だけど知られれば、君だけでなく相手にも中傷が向く。実際にひどい誹謗中傷をするようなやつって片手で数え切れるくらいなんだけど、そのほんの一人の頭がおかしければ、君だけでなく、相手を傷つける結果になることもある。出歩いたり、デートをしたりというのの自由度はどうしても下がる。一般の……あまりそういったことへの覚悟や耐性のない人と付き合うと、相手がその中傷に耐えられないことも多い」
…………。
「楽しいことばかりじゃなくて、辛いこともすごく多い。その上で……それでも俺は、セリスと一緒に事務所を立ち上げたい。他にももちろん何人か声をかけてるんだけど、その何人かの中に、君にもいて欲しい」
………………。
「君だったらどんな企画を立てるかなって思うとワクワクするし、正式に一緒にコラボをしたら楽しいだろうって思ってる。EFO以外のゲームも一緒にやりたいし、おでかけ配信だってきっと楽しい」
……………………。
「返事は……アバターを準備したいなら2月中。顔を出してもいいと思っているのなら3月中頃まで待てる。半年切ってるからゆっくりと言うにはあまり時間がないけど、よく考えて……できれば、良い返事が欲しい」
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『流石に両親と相談させてください』
そう言って、セリスはワークスペースからログアウトして行った。
ズルズルとソファに沈み込む。
緊張したあああああぁぁぁぁ……。初めての商談よりよっぽど緊張した。
変なこと言ってない?大丈夫?やべえぜんっぜん自信ない。
セリス最後の方めちゃめちゃ口数落ちてたなあ……。
好きになってしまった相手に地獄への道を勧めるって、本当にきつい。
その上で間違いなく、心から来て欲しいと思っている。彼女と一緒に活動を続けられたら、きっと楽しい。
――――ああ。ロイが一緒に配信者になりたいと言ったときも、そう言えばこんな気持だった。
楽しいことばっかりじゃない。辛いことは重なるときはとにかく重なって、吐くほどしんどいときもある。それでも配信ではいかにも心底楽しいですという顔をし続けないといけない。
専業なんて馬鹿なこと言わないで、まともな職に就いて、たまに手伝うだけでいい。そのくらいが辛くない。
だけどきっと、ロイが一緒にやってくれるならすごく楽しいんだろうって。その気持も捨てられなくて。
ぐちゃぐちゃの気持ちを弾き出すように、ぱんっ、と強く頬を張った。
23章ここまでになります!
24章はすみません少々お待ち下さい!
明日はどんな投稿でもして良い日だと思っているので、単にノリで書いちゃったやつを投稿します(※明日のやつは消えません、普段通り18時です)




