23-5.好み
おるの開けたワインを貰ってぐいっと一飲み。
普段しない飲み方に、おるが少し首をかしげた。
「あー……ちょっと聞いときたいことがあって」
「どった?」
「おるは……配信者の恋愛どう思ってる?」
「……………………それ、気になってる人に恋人がいて失恋中って発言で超炎上した俺に言ぅう?」
ああ、燃えてたね。――――これまた何故か名前も出してない女性側が。
「まあ、そうなんだけども」
「別に好きにすりゃいいじゃん。アイドル売りじゃないってか、よしんばアイドルだったとしても恋愛していいんだよ。人が幸せになるのを止める権利は誰にもねえっしょ」
おるはそう言って俺のグラスにワインを足した。
「とうとうくっついたん?」
「とうとうって何だよ……」
「とうとうはとうとうじゃん。セリスちゃんでしょ?」
……ちょっと待ってほしいんだけど。
「俺そんなに分かりやすい?」
「まあ?」
「うそでしょ……」
「リーダー」
「なにさロイドその顔は」
「こと恋愛において、僕が気づくのは相当だ」
「「ぶっふwwwww」」
ずべっとソファから落ちて、テーブルにゴツンと頭を乗せる。
おるとねころが大爆笑をしている声が響いた。
「いや……あのごめんちょっと待って欲しいんだけどさ。俺、セリスのこと好きになるって思ってなかったんだよ」
「………………………は?」
「なんでよ」
いや、は、じゃなくてさ。
「普通に、こう……好みとずれてるしなって思ってた」
「どのあたりが?」
「んー……ステータスが?」
本気でわからんとばかりに首をかしげられる。
いやまあ、恋人とかいたことないからあれなんだけども。
「いいなって思った人ってのはまあ、何人かいるんだよ。ヘレナさんだけじゃなくて」
「そうなのか」
「ヘレナさん?」
「僕のアイティ、あー……母だ」
「お母さんアイティ?って呼んでるの?」
「友達のお母さん名前で呼ぶ?」
おるとねころが同時につっこむけど、いやもうそこはいいだろ……
「母は日本語があまり堪能ではなくて、お母さんと呼ばれた時に一瞬自分のことだと分からないんだ。アイティは母の母語でお母さんという意味だ」
「ああなるほど」
俺がアイティって呼ぶのはなんか違うから、結局ずっとヘレナさんだったんだよ。それ以上の意味は無いんだよ。本当に。おるはその目で俺を見るのをやめろ。
「……いいなって思う人が基本的に年上だったから、俺年上が好きなんだと思ってたんだよね」
「そうなのか?」
「んー、好きなキャラクターが年下なのはもうどうしようもないだろ。俺より年上の主要女性キャラが出てくることはほぼねえんだよ」
「あー……まあ、そうか」
「生身の相手だといいなって思うのみんな年上だったから。セリスはどうせ違うだろう、くらいには思ってた」
「ちなみにいいなって思った人って誰っす?俺の知ってる人います?」
完全にからかうモードに入ったねころが笑いながら言う。
「超言いたくねぇ…………」
「言っちまえ言っちまえ。ほれほれ酒が足らんか」
「酒の問題かー?これ」
まあ酒は飲むけど。
「で、誰?その人何でダメだったん?」
「……ゼロプロの山崎マネとか……」
「山崎さん……ああ、御菓子のマネさんか」
「Nライブの、なななさんのマネさん分かる?」
「わかるわかる」
「あとは……無卿のとこのミックスエンジニアさんとか……」
「リーダー……」
「……理人」
分かったらしいおるとロイドが胡乱な目でこちらを見た。
「言わんで。分かってるから言わんで」
「その人たちはダメだろう」
「分かってるから!」
「全員既婚者なのはなんか狙ってる?」
「狙ってねえよ!だから毎回すぐ諦めてんだよ!!」
俺も自分でどーかなって思ってんだよ!!
「なーるほどねえ。ちなみに橋本さん分かる?ゼロプロスタッフの」
ねころはくつくつと笑いながら言った。
橋本さん、橋本さん……ああ。
「多分何回か御一緒してるな。食べ物系の企画の時によくいる人じゃない?」
「あってる、食品衛生管理担当だからね。あの人は?」
「……いや、正直あんまり」
「ああ、既婚なら誰でもいいんじゃないんだ」
「あたりめえだろ……」
「なるほどねえ。リーダーはほんとにとことん、女が苦手ね」
「……どういう意味」
どういう意味だそれ?
「自分に興味を持ってる女性が苦手なんだ。既婚者がいいっていうよりは、ギラギラしてる人がダメなんだね」
ギラギラしてる女性……まぁ、苦手な人種トップ3には入りそう。
「山崎さんとか旦那さんと仲良いからね。普通に、リーダーに興味ないんじゃない?」
「……あー。」
「なるほど、それでセリスはいいのか」
「セリスちゃんってリーダーに興味ないん?」
「興味がないと言うか……最初に誘った時は、そもそもメッセージの送り主がサザンクロスだとは分かっていなかった」
「だね。本物?って聞かれちゃったし。ランダムメッセージで適当に送ったんじゃないかとか、女性プレイヤー目当てなんじゃないかと思って逃げる用のアイテムをショートカットに入れてたとか言ってた」
「それでよく来たな」
本当に。丁度ゲーム内金欠の時期だったと言っていたから、少し時期がズレていたら来なかっただろうね。
「彼女はリーダーが西生寺理人だとも知らなかったな」
「そうなんだ?」
「そもそも西生寺グループ自体知らなかったっぽい」
普通の高校生にとってはそんなもんだろうな。西側では有名な企業だけど、どちらかと言うと企業としてよりは土着のつながりの強い旧家としての側面が強い家だし。
なるほどねえ、とおるが言う。
「リーダーは、配信者のリーダーじゃなくても一緒に遊んでくれて、西生寺の金回りを知らなくても懐いてくれる子が良かったわけだ」
「このレベルで規模が大きくなってしまうと、どちらもかなり難しいな」
会う人は大抵「配信者のリーダー」か「西生寺の嫡男の理人」のどちらかを、なんなら大抵の場合両方知っていて、そういう振る舞いを求めてくる。
どちらも知らない人と出会うことは、もうここ5年くらいはほぼないな。
「だからって既婚女性ばっかり見ます?」
「ねえもういいだろその話……」
「まー山崎さんとかホントに誰にでもフラットに接するから、リーダー的には新鮮だったんじゃないの?」
「リーダーもガチ女運ないやつ?今度一緒に飲む?」
「ねころも酷かったもんなぁ……」
ケラケラと二人が笑う。ねころの女運の話なんて聞いたことない気がするけど、なんかあるのか?
「で、セリスちゃんとはくっついたの?」
「いや……まだそういうレベルじゃないというか、この話が進まないとなんも」
「「なんでだよ」」
なんでもだよ。
※1月に1-1を大幅に改定しています。




