21-10.らしくないやらかし
「…………」
「…………」
ボルグ封止殿に破壊の限りを尽くし、配信を終えてプライベートルームに移動した。
理人はルームの机に突っ伏して動かない。
「……マジで超やらかした」
「まぁ、例のギター以来だな」
「何ポイント?」
「僕相手なら1ポイントだが、今回は3ポイントくらいじゃないか?」
まあ、彼はあまり気にしないだろうけれど。ドドンガどんだったら問答無用で5ポイントだった。
「ついぽんっと口が出ちゃった……」
「らしくないやらかしではあったな」
「だよねぇ……」
自分でもらしくないことをしたのは分かっているのだろう。本当にテーブルから動かない。
「そんなに悩むなら、さっさと謝ってこい」
「今日はもう落ちてるっぽい」
「なるほど」
それでここで凹んでいるわけか。
「やー……らかした……って、言った直後に思ったんだよ」
「そうか」
「でもあそこで謝罪はできんかったの」
「そうだな」
連戦作業中だったし、その目立ち方は彼は嫌がるだろう。下手に謝罪場面に変わってしまうとセリスの集中の問題でもあまり良くなかった。
爆弾でどんどん破壊していくほうが絵もよかったしな。
「全部終わって、振り返ったときにはもう落ちてたの……」
「まあ、彼は普通に仕事もしているしな」
「そうな……この話リアルに持ち込むのは嫌がるかな……」
「嫌がりそうだ。それに、君が気にしているほどは相手は気にしていないと思う」
「そうなんだよ……そうなの、俺が気にしちゃってるだけといえば、そうなの」
『友達とのメール読み返した時に謝罪場面があるの、ちょっと嫌』と昔言っていた記憶がある。メールやメッセージでの謝罪はよほどのものでない限りは控えたほうがいいだろう。
「明日謝る……俺のいないタイミングで見かけたら呼んでたって伝えてくれる?」
「分かった。伝えておく」
僕相手だって、こんなことはやらかさないくせに。
そう思いつつようやく顔を上げた彼を見れば、『捨てられそうな子犬』の顔をしていた。
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リーダーのその顔が一番苦手だ。
破壊活動の翌日。ロイドから「リーダーが話したがっている」と聞いて時間を取ったら、会議室で待っていた彼は今にも捨てられそうな子犬の顔をしていた。
この人のこの顔が一番ずるいんだよ。多少のことは許さないとなーという気持ちにさせられちゃうんだから。
ってかそんなに怒ってないのよ。僕はさ、あんまりそのへん気にしないタチだから。
「あの…ぽんすけ、昨日、ごめん」
「一応聞くんだけど、何に謝ってる?」
「ぽんすけが解説してたのに、割り込んじゃって」
「んー、まあ、良くはなかったよね」
「そうなんだよ…ぽろっと言っちゃって、ただタイミング的にすぐに謝れなくて。それもごめん」
「まああの場で謝罪されると困る。配信中にやらんでくれたのはむしろ助かる」
僕そのへんで目立ちたくないからね。リスナーだって見たくないだろうし。
「僕の話に割り込んだってのは、気にしなくていいよ。僕は気にしてない。ただ、言った内容は良くなかったね。スキル距離の意識はセリスちゃんのキャパ超えちゃってたから、昨日のあそこじゃなかった」
「うん……ほんとごめん」
「僕は怒ってないから、いいよ。ちゃんと自分で悪かったって気付けてるんなら言うことないし。セリスちゃんにも謝っときなね」
「はい……」
……それにしても。
昨日の割り込みには結構本気で驚いたんだけど。ENVYに聞いたらまあそうだろって言ってたしそういうことだと思ったんだけども……この凹み方は本気で分かってないんかね?
「――――リーダーはさ」
「うん」
「なんで昨日割り込んできたの?」
「……なんで?」
「そう、なんで?いつもそういう割り込みしないじゃん?割り込む前にちゃんと声かけたり、休憩まで待ったり、普段はするでしょ?」
「いや、うん。最近はかなり気をつけてる、けど……………………なん、で?」
リーダーは本気で考え始めてしまった。
あー、この頭小学生がよ。
「じゃあ、宿題ね。なんで割り込んじゃったのか考えてきて」
「えっちょ、え?宿題!?」
「うん、半年くらいで答え出せよ?」
「半年って長くない!?」
本気で半年くらいかかるんじゃねー?とは思ってるんだけど。ってかまじで半年で気付けよ?
自覚しないとコントロールできねーんだからな。こういうこと連発は勘弁してくれ。
本気でわかっていなさそうに「なんで?」と首をかしげてしまった頭小学生に、少しばかりの不安が首をもたげた。




