21-8.ランサーとソードマン
「ぽんすけー、今時間ある?」
リーダーがこちらにひらひらと手を振った。
「2時間位ならあるよ、今日はそのへんで落ちる」
「PvPの相手してくんない?」
「いいよー、ルールは?」
「1on1バッチリ80%、時間制限10分。プラスルールで、アクセを一つ以上必ず過去イベ報酬にする」
「ほーん……なんかやんの?」
「んー、今度リスナー参加企画でこのルールでPvPやろうかなーって思ってて、まあ、試走?俺はアクセフル報酬品にするから」
「了解。想定レベルは?」
「170から10刻みくらいで頼む」
「はいはい、ちょっとまってね~」
170からね。えーと……敏捷系はそのままで、攻撃補正切って、防御補正下げて。攻撃スキルもこの辺はオフにして……こんなもんか。アクセ縛りがあるからっと…
「はいよ、とりあえず170ランサーね」
「サンクス」
フィールドが展開される。
装備は170ではまあまあなあたり。
槍を構える。カウントダウン。3,2,1
「クイックダッシュ」
想定レベルを変えながら都合8戦ほど回して、戦闘を終了した。
「うーん、レベル制限は180だな」
「そうなー、170はアクセ削っちゃうとちょっときついね、多分スキルポイント足りない。フィツィロクリアをラインにしたら?180くらいっしょ?」
「だな。ありがと、助かった」
「いえいえ~」
リーダーから投げ渡された白紙の奥義書でスキルを戻す。
覚えてるとは言え、スキルセットの保存はさせてほしいねえ。戻すのちょっと面倒。
「ぽんすけはさ」
「んー?」
「大会とかはでねーの?」
「出ないねえ」
リーダーもそれえ?大会は拘束時間長くて、おっさんにはもう結構しんどいのよ。途中に休憩があっても集中保たないの。リーダーも40間近になれば分かるって。……わかってくれるかな?現役でやってる未来が一瞬見えたわ。
僕はPvPはこういうのとか、たまに企画でやるくらいで十分。
「……」
「なーに?」
「いや……ぽんすけも強いのにな」
「僕はただのおっさんよ?」
「ただのおっさんは170レベルプレイヤーの行動トレースなんてできねーのよ」
「下の方はトレースしやすいよ」
「しやすいとできるできないは別だろうがよ。お前も別の意味でぶっ壊れよな」
リーダーが何を気にしているのかは知っている。
感想とかだとぽんすけはぱっとしないって言われてるからな。
まー持ち上げてくれんのは嬉しいけど、初めて試合った時に僕のこと完封してきたやつに言われてもね。
「……ずっとさ」
「んー?」
「彼女の半分でもいいから謎解きができれば、前のゲーム続けてたかなって考えてて」
「うん」
「多分、続けてたと思うんだよね」
「まあ……ぽんすけはそうだろうね」
それなりに高いプレイングスキル。配信や魅せを考えない泥臭いプレイは、それはそれで異世界型との相性はいい。
トッププレイヤーにはなれなくても、その下には食いついて行けたんじゃないだろうか。
「そしたらきっと、会社終わって生活もそぞろにゲームに入って、廃課金してボスに挑んで、強くなるために新しいクエストを血眼になって探してさ」
「うん」
「自分が強くいるためにクエストの内容は秘密にして、他のプレイヤーのクエストも必死に探して」
「そうな」
「多人数同時参加型ゲームで、気付いたら一人で遊んでたんかね」
リーダーは答えない。
飲み込まれるほどの熱量、何かすればするだけ新しいものが手に入るという興奮、日々強くなれるという希望に似た焦燥。
そういうものに掻き立てられて、ずっと走り続けて。それはそれできっと楽しいだろう。でもその隣に誰かがいる未来は思い浮かばない。
「僕、今結構楽しいのよ」
「そう?」
「うん。みんなちょっとした、どうでもいいことも遊びに誘ってくれるし。疲れたらちゃんと休んでいいって言われるし」
「それは人として休んでくれ」
「異世界型だとガチのとこじゃ休ませてくんないじゃん」
「あー……」
一部の素材採取の鬼どもは除くけど、そこもちゃんと相手の様子は見てるしな。
「レイドじゃ最強格ってわけじゃない僕の言う事もみんなちゃんと聞いてくれるし」
「お前の指揮が一番安定すんだろ」
「自負してるよ。でも周りがそれを分かってくれるかは別。ここは分かってくれててすごいなーって思ってる」
やっぱゲームだからさ、わかりやすく強い人の言う事のほうがみんな聞きがちなんだよね。
僕はギルド内PvPやるとそれほどすごく順位高いわけじゃないけど、みんなが「団体戦ならぽんすけだろ」って言ってくれているの、地味にすごく嬉しかったりする。
「ゴミみたいな指揮官に一度でも当たれば、ぽんすけのありがたさが身にしみるだろ」
「エンジョイ勢はあんま、それこそゴミみたいな指揮とかにも合ったことないんだろうしねえ」
「……そうだな」
「格下トレースなんてどうしようもない特技も使ってくれるし」
「なんならぽんすけの特技の中で一番助かってるまである」
「指揮官の方が助かっててほしかったなw」
「そりゃすまんw」
そうか、こっちの方が助かってるか。まあ、いいけども。
リーダー達が僕の努力の方向と結果を分かっててくれるから、僕はなんていうか、もうそれでよくなっちゃったんだよな。
「それにね。自分たちが目立って強くなることよりも、ゲーム寿命や他のプレイヤーの楽しさを考えるリーダー達が好きだよ」
「そんな聖人君子じゃねーよ」
「どうだか。――――だから、まあ、リーダーがいつか何もかも嫌になってギルドを非公開にする日が来ても、僕はここにいるよ」
「そんな日が来ないことの方を祈っといてくれ」
「それは祈ってるけどねw」
でもまあ、そうさな。
「――――いつか」
「おう?」
「いつか、リーダーの行動を全部読みきって完封はしてみたいね」
「はは、なにそれ超楽しみ」
「くっそ余裕だな」
PvPは組み合わせの有限な不完全情報ゲームだ。
リーダーは自前の身のこなしから思いも寄らない組み合わせをぶっこんでくるけども、その組み合わせだって、きっと無限ではない。
「いつか土つけてやるから、首洗って待ってろ」
もうちょっと続きます




