21-1.ランサーのぼやき
ぽんすけ視点
謎解きなんざクソ喰らえだ。
理数的なパズルはできる。開示されているルールの中で公式を使い、補助線を引いたりなんだりすることで論理的に解けるパズルなら、多少時間がかかるけど解けるし、解けなかったとしてもそれは僕の方の問題だ。
発想系の謎解きって、つまり隠してあるルールを探せって事だろ。
ルール隠すなよ。全部開示しろ。
けれどゲームの世界では僕のような人間はどちらかと言うと少数で、しばしば謎解き要素が強いゲームが稀代の名作と持て囃された。
僕は真っ直ぐに、アクションの世界に入った。逃げたと言ってもいい。
僕にとってアクションゲームは、組み合わせ数の有限な不完全情報ゲームだった。
公式が提示するスキルから最適だと思う組み合わせを選んで、最適だと思う行動を取る。相手の行動から相手が持っているスキルを推測して、手持ちの手札で対応する。
思いもよらない組み合わせで完封されたとしても、存在自体は全て開示されているのだから、それはその組み合わせに思い至らなかった僕の問題だ。
ストーリー上に多少存在する謎解き要素は、攻略サイトが我先にと情報を上げていて、いつもそれを見て攻略した。
だから、アクション要素の強いゲーム群に「あいつ」が入ってきた時の絶望感は、筆舌に尽くし難い。
分かってはいるんだ。
頭では分かっている。
大多数のプレイヤーが求めているものは「そっち」で、「そっち」の方が集金率が良くて、ーーーーなんなら、「そっち」の方が開発が楽なんだって事も、社会人になって分かってしまった。
想定されるゲーム進行度に応じて、事前に攻撃力のグラフを作る。
あとは「トッププレイヤーの最大攻撃力がなんとなくこれに沿うように」、AIが勝手にいい感じにスキルを成長させる。
そうすれば進行度が同じくらいの、同程度の寄り道度のプレイヤーが集まれば、何となく同じくらいの攻撃力同士のぶつかりになる。
時々色々な要素をスキップして想定進行度をぶっちぎり、ぶっ壊れた攻撃力のプレイヤーが現れても、「不正はありませんでした」だ。実際、そういうプレイヤーは不正はしていない。
ただただ、運が良くて謎解きに強いだけだ。
1人でのプレイに限界を感じて入ったギルドでは、プレイヤースキルだけで言うならギルド内で一番だという自負があった。
まぁ、凖廃目指してる程度のさして大きくもないギルドだったから、自慢にもならないんだけど。
だけど誰かが上げたスキルの取得方法を試しても、後発では劣化スキルしか手に入らなくて。
新規クエストを見つけても「前情報なし一発トゥルーエンド」を引かなければ、結局強いスキルは手に入らなくて。
相手の手札が全く分からない状態でのPvPはあっという間に知らないスキルに飲まれて負けて。
なんなら手札のわかっている相手との勝負ですら、こちらの方が多少プレイヤースキルが高くたって、攻撃倍率の桁が違ったら話にもならなかった。
影で「コモンさん」と呼ばれているのを聞いた時、心のどこかがふつりと切れた。
期待していたようなプレイヤー交流はなかったのもあり、そのままゲームをアンインストールした。
昔やっていた格ゲーの、VR移植版が出るらしい。
色んな人と交流するのが好きだったけど、今のMMOやるくらいなら、格ゲーでも交流具合は変わんないか。VR版なら専コン壊れないから遊び放題かー。それもいいかもな。
そうしてしばらくMMOから離れていた時に、よく一緒に遊んでいた仲間が動画を見せてきた。
エリシオンファンタジーオンライン?ああ、MMORPG?最近のは全然情報拾ってない。へー、PvP大会の、これが決勝戦?
金髪碧眼の剣士の優男と、金髪金目の拳装備の大男。剣士の盾が結構でかいな。パラディン系か?
最初の数撃の後、大男の装備が突然槍に変わった。
武器のスイッチスキル?
でもさっきからスキル名ちゃんと言ってるけど、今何も言わなかったよな?それにスキル名、何か変だな?
どことなく感じた違和感が言葉になったのは、五分ほど見た後だった。
スキル名が「普通」だ。
成長型スキルの最初か二番目程度に使われるような、短く意味の分かりやすいスキル名。しかも使用するスキルがあまり多くないような気がする。大会の決勝戦で?
しばらく見ているとリズムが分かるようになる。
そろそろ拳に変わる。多分2撃入れて剣に持ち替える。優男側は拳はガードするけど、剣撃は撃ち合うことが多い。
優男の足がすっと開く。
「『五月雨斬り』」
自分の声と優男の声が重なって、試合は終了した。
「俺さー」
動画を見せてくれたENVYが言った。
「このゲームやってみようかと思って」
「MMOは、後発じゃほぼ追いつけないよ」
ENVYの好きなやつは多分サポート型だけど、それすらプレイ時間の壁を超えるのは、よほどの運と発想に恵まれない限りほぼ不可能だ。
「んー、調べたんだけどさ、EFOはスキル成長ないんだって」
「は?」
「完全スキルツリー制で、レベル上げたらみんな横並びスキルとステータスになるって」
「……本気で言ってる?」
今日日そんな死ぬほどバランス調整のめんどくさい形式を取ってることなんてあるか?
「らしいよ。だからゲーム自体結構のんびりしてるっぽい。ただ俺VR戦闘は強くないからさ」
「……まぁ、そうな」
「否定しろよ〜。事実だけどさぁ~。あー、だからさ、一緒にやらん?」
「んー……」
「合わんかったらやめてまたここに戻ってくりゃ良いしさ」
「それもそうか、やるかー」
正直気乗りはしていなかったけど、この歳になると貴重なゲーム仲間だし、多少付き合ってやろう、くらいのつもりだった。
――――――
―――
…
「ぽんすけー、今暇?」
談話室でうつらうつらしていると、ENVYが声をかけてきた。
「みてのとーり。どうした?」
「素材がな、足りなくてな」
「勘弁しろ〜」
「暇ならいいだろ!今日は一時間で終わりにするから〜!夢幻の鉄鋼が欲しいんだよ〜」
「あーもう、わーったよ!迷路の道案内お前がしろよ!?」
「助かるー!道案内は任せろー!」
あーもう、と頭を搔く。
夢幻の鉄鋼ってことは、双子の悪夢。迷路マップに二人一組のゴーレム系の敵か。連携攻撃使うからちょっと敵の行動パターンは多いけど、まあ何とかなる。
しゃーねえなぁほんとに。
「行くか〜」
思いがけず随分と長くいるこのゲームに、今日も一歩踏み出した。
※VR版なら専コン壊れない
VR空間内でリアル物理演算で専用コントローラーを完全再現することで、「一生ヘタらない専用コントローラー」が実現する。
古い筐体格ゲーや音ゲー、廃盤になった旧式コントローラーゲームなどのVR移植が人気。
【読まなくてもいい解説】
ep.6でチラッと触れているのですが、作中現代ではMMOは異世界型、一人(または少人数)プレイゲームはストーリー型が主流です。
これは一番大きな要因は開発コストで、プレイヤーが強くなり続けることが望ましいMMORPGにおいて、「バランスを取る」「新規要素を開発し続ける」ということが非常に管理コストが高くちょっとしたことで崩壊しやすいことに起因します。
今話記載の通り、先に進行バランスを決めてあとはよしなに成長してもらう方が圧倒的に管理が楽で集金率が良いため、作中現代のMMOゲームにおいては主流となっています。
EFOがこのまま流行り続ければ後追いが増えるかもしれませんが、現時点においては完全スキルツリー(しかも一定期間ごとにプレイヤーを強くする要素を追加する)などという死ぬほど面倒くさい旧来型システムを採用しているのは、大規模タイトルではEFOだけです。
ぽんすけは「全てのオンラインゲームがスキル成長型に置き換わっていく」転換期を経験したプレイヤーです。




