閑話 ギルドの権限
「そう言えば、リーダー」
「おう?」
ギルドで攻略の相談を終え、親友に声をかける。
彼は開いていたマップから顔を上げてこちらを見た。
「ボンレスハムにギルド権限を渡してもいいだろうか?」
「ロイドが必要だと思うならいいよ」
「分かった、渡しておく。共用スペース関連については、ニャオニャオとほぼ同等で渡しておきたい」
「あー……」
ニャオニャオについては元々のサザンクロスメンバーの個人ルームへのアクセス権まで渡していたが、ボンレスハムにそこは渡せない。
それはそれとして女性プレイヤーに多少権限は渡しておきたい。彼女なら、トラキチが関わらなければニンカやセリスの良き相談者になってくれるだろう。会議室のロック権限くらいは持っていないといざという時に不便だと思う。
「まあ、ニャオ姉がいない間一人減るしな」
「それもある。僕達のいない間に必要であれば修正を行ってくれるプレイヤーは、多少はいたほうがいい」
「そうな。頼んだ」
「ああ。話しておく」
今はちょうどいないか。流石に不在時に渡すわけにはいかないので、次回だな。
「権限っていや」
「ああ」
「セリスにペット権限あげたの?」
「ん?ああ、ペットルーム内での配置権限だけだが」
彼女は少し押しに弱いところがあるので、ギルメンの悪ふざけに断りきれずに巻き込まれることも考えるとあまり強い権限を渡せない。
ペットの配置くらいならトラブルにはならないだろう。
「なるほどねぇ」
リーダーが何かを思い出したかのようにくつくつと笑った。
「どうかしたか?」
「いや……この間無卿に呼ばれて、なにかと思ったらペットルームでセリスが猫に埋まってて」
猫に埋まったのか。まあ……やるんだろうなとは思っていたので、それ以上の感想はないのだけれど。
「こっちに全然気付かないで戯れてて、笑いこらえるのに苦労した」
「誕生日にペットをけしかけられて、大層幸せそうにしていたらしいからな」
あれほど動物が好きそうなのに、なにか飼っているのかと聞いたらかなり拒絶の強い声音で「いません」とだけ返されてしまった。
彼女自身も少し気まずそうだったので、それ以降は何も聞かなかった。
「スクショ撮ったんだけど、見る?」
「――――まあ、見る」
大量の猫の隙間から、実に幸せそうな笑顔のセリスが2割くらい見えていた。
「…………」
一瞬罰ゲームあり企画に使えるなと思ってしまった。
「負けたら恥ずかしいオフショット公開、とかに使えそうよな」
「彼女にその手の企画をやらせるのはどうなんだ?」
「やっぱだめ?」
「最低でも18歳になったことが非公開のうちはNGだな」
「まーそっかー」
リーダーは少し残念そうにスクショを仕舞った。
「誕プレって難しいなー」
「彼女はあまりものを欲しがらないからな」
ニンカなんかはあまり遠慮なくこれが欲しいと言うので悩むこともないのだけれど。
……なんなら少し遠慮しろと思うようなリクエストも言うのだけど。
「そうそう。イヤリング発掘した時はこれだ!って思ったんだけどねえ」
「実際良かったと思う。着用するかはともかく、確かに彼女だけ持っていなかったからな」
トラ小屋メンバーもイベント装備は一通りコンプリートしているはずだから、クロウエアアクセサリーも持っているのだろうし、持っていないのはおそらくセリスだけだ。
「ホワイトデーに思いついてりゃあんなに悩まなかったのにな……」
「ああ、それなら普段使いしていたかもな」
「だよねー。びみょーにスカしちゃってんだよな」
リーダーにしては珍しくセンスの良いプレゼントだと思ったのだけど、タイミングは良くなかったようだ。
「諦めてプレゼントは全てドリアンに任せたらどうだ?」
「いやなんていうか……頼り切りは駄目だろ……」
課金パックを渡すよりはいくらかマシだと思うのだけれど。この調子だとセリスの胃のほうが心配になる。
「ほどほどにな」
「……………………………善処する」
彼は奇しくもセリスと全く同じセリフを言って、目を逸らした。




