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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
四章 ふたりの遊び人

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4-7.傀儡師はどこにだってついていく

「ほんとに一日で二次職になっちゃいましたねぇ」


 細剣士と書かれたジョブ名をしみじみと見つめてつぶやいた。

 ニンカさんに「ついてこい、明日には二次職だ」と言われたときには何言ってんだこの人と思ったものだけど。


「まー最近は二次職まではチュートリアルみたいなとこもあるしね。昔は130レベルくらいから上げるのがしんどかったけど、今は人魚とかもあるし」

「こっからが長いですよね」

「150になったら相方(グライド)たちとまたレベリング行くけど、一緒に行く?」

「えっ!?いやっお邪魔しちゃ悪いですよ!」


 めちゃめちゃ行きたいという言葉をぐっと飲み込んだ。

 二人きりのレベリングとかお邪魔するわけには絶対にいかないでしょ!?後で話だけ聞きたい!


「なんか勘違いしてると思うけど、多分ロイドさんかリーダーあたりも一緒だかんね」

「ええ~、ふたりきりで行ってきたらいいじゃないですか、きっと楽しいですよ」

「いんだよ、相方とはいつでも組めるし。ってか150のアタッカーと200のタンクのペアじゃ上級狩りできねーんだよ」

「あ~そっか、グライドさんがアタッカーできないとそうなるんですね」


 いつでも組める、いいですねぇ~。


「顔がうっせえ」

「ひど!?…あーまあ、どっちみち遠慮します。ギルメンじゃないですし、これ以上は寄生っぽいです」

「ロイドさんは気にしないと思うけどね。まあ、気持ちの問題か」

「ですです。地道なレベル上げは割と好きなので、二次転職(チュートリアル)終わったらあとは自分でやります」

「じゃ、今日はここまでかな」

「そうですね。ありがとうございました」

「楽しかったし、またそのうち組もうぜ」

「……!はい!ぜひ!」


 フレンド:ニンカがパーティを解散しました。


 楽しかったな。そのうち話の続きも聞きたいな。進展したら教えてくれるかな。


 ふわふわとした足取りでログアウトを選択する。

 明日からは細剣士のレベル上げだ。

 あ、メインキャラよりサブキャラのレベルって上げられるんだっけ?後で調べておかなきゃ。

 布団に寝転んで、毛布を抱きかかえ、幸せな眠りに落ちた。



 □■□■□■□■□■□



 初期職(ノービス)は足が遅い。

 あっという間に追いつかれた場所は、ボートタウンの隅だった。


「いやまじ、待って、ごめん、あの、謝りたくて…」


 プレイヤー:グライドからパーティの申請が届きました。


「あの、音声外部に出したくないので、できれば受けてもらえると……」


 パーティ申請を受理しました。パーティリーダーは グライド です。

 ウィスパーモードが選択されました。


「ありがと」


 どっか座ろうか、と案内されたのは街の隅にあるベンチで、なんとなく「そっか、こういうのも全部座れるのか」と今更思ったことをよく覚えている。


「昨日は、急に言っちゃってごめん。あの、変な意味はなくて。次のレベリング場所、有名どころだと木霊の森だけど、前に組んだ車椅子の人が、あそこは歩行補助だと歩きにくいから行きたくないって言ってたなと、ほんとにそれだけなんだ。実際アタッカーがモンスターの後ろ取るなら迷路系マップより平原系の方が戦いやすいかなとか、色々考えてたら、なんか前提すっぽかして聞いちゃって」

「あたし」

「……うん」


 つらつらと話をするグライドさんに言った言葉は、今度は一言一句覚えている。


「あたし、()()()()()()()()()()()()()()


 歩けていると思っていた。それが楽しかった。健常者と同じようにプレイできると思っていた。

 上級エリアで回避ができない問題はあったが、昨日遊んだ中低級のエリアではきちんとできているつもりだった。

 EFOの歩行補助はそれだけの完成度があって、実際今まで一度だって指摘されたことはなかった。


「俺自身の話なんだが」

「はい」

「相手のやりたいことが、なんとなく分かるんだ」


 相手が踏み出す瞬間が分かる。相手が振りかぶるその瞬間が分かる。次に右に移動したいのか、左に移動したいのかが分かる。

 たとえば目線の移動だったり、ほんの僅かな体の傾きであったり、歩幅が少しだけ変わる瞬間だったり、いろいろなものを読み取って、一瞬だけ先にやろうとしていることが分かる。


「おかげでまあ、柔道はそれなりに強いんだが」


 中学では全国大会まで行ったらしい。すごい。

 でも地道な練習というのがそこまで向いていなくて、高校ではその地道な練習を積み上げた人たちには勝てず、大学ではやめたそうだ。


「だから君が、右を向きたいと思って体が少し右に倒れるのと、実際に足が右を向くタイミングが合ってないのが、まあ、分かる」


 それはまさに歩行補助システムのラグそのものだった。


「差別的な意味とか、だからダメだって話ではなくて。ゲームだし苦手とかできないとかはまあいいんじゃないかと思ってて、苦手な場所避けようか、って相談のつもりだった。

 その、実際EFOの歩行補助はよくできてて、言っちゃなんだけど俺くらいヘンテコでなければ気づかないと思う。だけど隠してたことをいきなり暴かれるのは、気分良くなかったよな。本当にごめん」


 真摯に頭を下げた彼は、


「それだけ、伝えたかったんだ。本当にごめんな。時間まで取ってもらって」


 プレイヤー:グライドがパーティを解散しました。


「時間取ってくれてありがとう。またそのうち遊んでくれたらうれしい」

「    」


 謝ってほしいなんてひとつも思っていなくて。

 なにか言わなきゃと思うのだけど、何もかもが言葉にならなくて。


「じゃあまた」


 昨日と変わって少しさみしそうな笑顔を向ける彼に追いすがりたくて。





 プレイヤー:グライドへパーティを申請しました。




「…………」


 プレイヤー:グライドがパーティ申請を受理しました。

 パーティリーダーは あなた です。

 ウィスパーモードが選択されました。


「えっと?」


 困ったような顔で足を止めたグライドさんに、何も言葉を用意していなくて、ただじっと沈黙が長くて。


「あのっ」

「うん」

「この間組んだの、本当に楽しくて。あの、最後は、びっくりしちゃって、気まずくて、その、えっと、謝ってもらうようなことは何もないんです。びっくりしちゃっただけで、バイタルチェック引っかかって強制ログアウトはくらっちゃったんですけど、ほんとそれだけだったので。だから、その、えっと」


「また、あたしと組んでくれますか」


 彼はびっくりした顔をして、そのあと満面の笑みを浮かべて。


「もちろん」

「あたし、貴方とならどこにだって行ってみたいです。苦手なフィールドも、挑戦したいです」

「いいねいいね。したらば、ちょいとレベリングに付き合ってもらおうか」


 差し出された手は、やっぱり大きくて温かかった。


 …

 ―――

 ―――――

 ―――――――


「んー、ちょっと休憩してからもうちょいレベル上げとくかな…」


 現在146レベル。150にしておかないと、相方(グライド)と組むときに向こうの経験値が入らなくなってしまう。

 だけどまあ、流石に長時間だったので一度休憩しておくべきだろう。


 150の覚醒技取得が楽しみだ。


 これでまた、どこにだって一緒に行ける。



 あたしはボートタウン隅のいつものベンチに腰掛けて、ログアウトした。



4章ここまで、閑話を挟んで5章になります!

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