閑話 素材ってどれが必要なんでしょう?
セリス視点
「武器作成には大きく武器種や攻撃力を決めるヘッド、武器耐久を決めるヒルト、全体補正を決めるバインドがある。この3要素を揃いのシリーズ、例えば雷鎚のハンマーヘッド・雷鎚のハンドル・雷鎚のランゲットの3つで武器を作ると、――クリエイト。こんな感じで雷鎚の戦鎚っていうアイテムになる」
おもちさんがアイテムをずらずらと並べながら話してくれる。
サザンクロスの倉庫がパンクすることはまずないから好きな素材を取ってきて良いとは言え、雰囲気で集めるよりは多少指針が欲しいと思っていた。鍛冶部屋にいたおもちさんに武器作成やエンチャントの基本的な話を教えてほしいと言ったら、いいよいいよと二つ返事でその場でお話が始まったところだ。
でも説明のために雷鎚の戦鎚を作るのはちょっと心臓に悪いのでもう少し手頃な素材で見せてほしかったです。
「このアイテム詳細のところに[Bind]って書いてあるのがバインドですね?」
「そうそう」
「えーと……雷鎚のランゲット、雷鎚のハンドルに、例えばヘッドを雷雲の残像にするとどうなるんでしょう?」
「えーと素材ランクが雷9雷9雷6で、武器種が短剣だから……えーと多分雷撃Ⅲの短剣で、攻撃力補正が高くなるかな」
なるほどシミュレーターもあるんですね。これは有志が作ってるやつで、漏れも例外もあります、と。なるほど。さっきの戦鎚もシミュレーターじゃだめでしたかね?目の前で高級素材が消費されるとちょっとヒッてなるんですが……。
「基本的にはシリーズで揃えたほうが強いよ」
「ですよね」
「で、作成後の強化要素は大きく強化・魔法エンチャント・属性付与の三種類。強化は純粋に強化ね。武器の後ろについてるプラスいくつってやつ。まあ、武器のレベルアップ?基礎ステータスが全体的に底上げされる。要求素材は錬金台に乗っけると分かる。有名どころはWikiにまとまってるよ」
「ほうほう」
「魔法エンチャントは、よくあるクリティカルアップ+何%とか、そういうやつ。魔法の種(クリティカル)ってやつと素材合わせてエンチャントするとつく」
「はい、これですね」
「うん、魔法の種は店売りとドロップがあって、まあ、ドロップのが性能はいいね」
「それは仕方ないですねぇ」
「で、属性付与はできる武器と出来ない武器がある。最初から強い属性がついてるやつは追加付与できない。自分自身の属性が弱かったりなかったりする武器だけ付けられる」
「そうなんですね」
「属性付与は、えーと……1.5周年かな?の追加アプデで入ったやつなんだよね。弱武器の救済要素だから、そもそも強い武器にはつかない」
「あ、へえ、知りませんでした」
1.5周年だと、EFOはもう始めていたかな。まあ始めてすぐのころは武器更新も激しいので、武器強化周りのアップデート情報はあまり真面目に調べていなかったし、見ても分からなかっただろう。
「今は組み合わせによっては4つ属性が付くってことで、強武器強防具ランキングは無属性武器防具のランキングが結構上ってるね」
「ああ、雷雷木風とかのことですね?」
「そう、一般的な武器が持ってる属性は2つまで、シリーズ作成や強素材ぶっこんだ武器で3つまでしか付かないのに対して、無属性に属性付与したら4つまで入るってんで。組み合わせによってはやっぱ強いからねー」
「あの組み合わせって今のところ……」
「総当たりのみ、成功率激低、暗数不明」
「わ、わぁ……」
「まあ、生産系のエンドコンテンツだよね……」
おもちさんが大変に遠い目をなさった。
「今んとこ秘匿はされてないっぽいから、まあそのうち出揃うんじゃねー?」
「せめて生成エフェクトの差分とかあれば良いんですけどね」
「少なくとも俺は分かんなかったねー。総当たりで試すのにも種類も多いし、成立する組み合わせでも失敗率高いから不成立なのか失敗なのかわからんくて。素材いくつ用意すりゃ良いのかもわからんという……」
「成立しないことを証明するのって、いわゆる悪魔の証明ですものね」
「まあ一応運営の中には答えがあるけどね。で、あとは耐久度回復か…これ解説いる?」
「いえ、耐久は大丈夫です。素材もふんわり把握しています」
話はなんとなくわかった。
やはり足りなくなりがちな素材は魔法エンチャントに使われやすいクリティカル率アップ系素材と、被クリティカル率低下系かな。あとは2属性素材が山程あれば、もしかしたら暇な誰かが研究するかも、という感じか。長時間狩りするならこちらのほうがいいかもしれない。
「すみませんお時間いただいて、ありがとうございます」
「いえいえー、今暇だったし大丈夫よ」
「暇……だったんですか?」
「やること多すぎて何から手を付ければいいかわからなくなってフリーズしてたから結果的に暇だった……」
おもちさんの背後には過去イベントで出る新素材の山が築かれていた。
中には新しいパーツ素材なども紛れていて、新しい組み合わせを試すにしてもとにかく素材の詳細をきちんと見ないと始まらないとのことで。Wikiの情報は新情報系はガセも多いので結局自分の目で見ないと信用ならないらしい。
「セリスちゃんもなんか面白い組み合わせ思いついたら教えてーな」
「はい、まあ、私の考える様な組み合わせはきっと誰かやってますけどね」
「…………俺、セリスちゃん見るまでイカサマダイス使ってるプレイヤー知らなかったから、ちょっとその認識は改めといて」
「……だめですか」
「だめです」
――――だめらしい。
「え、ええと……私も新素材知らないの多くて。一緒に見てもいいですか?」
「どうぞー、好きなだけ見てて」
隣に腰掛けて素材の山に手をかける。
アイテム詳細を開いては閉じる。開いては閉じる。
普段見ない項目や気にしていない種別も沢山あるなぁ。
エンチャント主体のサポートメンバーは大体の素材の概要を言えるらしい。それは、辞書を覚えるみたいな話だと思うんですが……。本当でしょうか……。
「あれ、セリスちゃんいるー何してんの?」
「あ、今素材について教えていただいていて」
「まじ?セリスちゃんも錬金やる?」
「流石に難しいんじゃないかと…」
「いいじゃん教えるよー?一緒にやろうよ~」
「あ、セリスだ。なにしてるとこ?」
他の生産メンバーが部屋に入ってきて、場が賑やかになっていく。
「おもちー、霊峰の、トラが持ってきたやつ、ドムナの素材見た?」
「今見てるー。これさ、ワンチャン氷風系の武器だったらシリーズより強くならん?」
「やっぱ可能性あるよね?螺氷穿あたりバラしてみる?」
「お試しにはちと数が心もとないな」
「もう100個くらい取ってきてもらうか」
「数の桁がおかしいだろwwww」
わいわいと楽しそうな声が、鍛冶部屋に響いていた。




