閑話 山の頂は遥か遠く
ランドルフ(一般プレイヤー)視点
「ジャンプブースト――――っぐ」
少しだけスキルの発動が遅かった。
剣神リフェルの剣先が足先をかすり、何度目かのMISSの表示が踊る。
――――とても大切なことなのですが、
何十回も再生している動画の声が脳内に響く。
――――回避に失敗した時に、絶対に足を止めてはいけません。失敗しても無敵が一枚剥がれるだけです。HPダメージもないし、死にもしません。というか無敵のない状態で攻撃が当たったら、この構成の場合ほぼ即死します。生きているということは周囲からサポートを受ける状態ではないです。とにかく止まらずに次をきちんと避けてください。失敗したと思って余計なことを考えると、どんどん無敵が剥がれてしまいますので。
とにかく走る。飛ぶ。跳ねる。頭に叩き込んだ敵の予備動作をきちんと見定める。
あ。
走りすぎた。
そう思った瞬間には脚がもつれてすっ転ぶ。
上から降ってきたリフェルの剣に突き刺され、連続ダメージ判定でそのまま死亡した。
タウンにリスポーンし、突っ伏した姿のままギルドの鍵を使用する。
世界が揺らいで、ギルドのロビーに突っ伏した。
――――スタミナ管理なのですが、すみませんこれは説明が非常に難しくて。とにかくスタミナ消費にならない競歩の動きを、安地で叩き込んでください。ええと、コツとしては、左右の足が同時に地面を離れると速度が遅くても走行ないしはジャンプ判定になります。必ず片足は地面に着けて、足を入れ替えるタイミングは必ず両足を着けてください。
意識、したんだけどなぁ……。だめだったかぁ……。
録画していた動画を再生する。あー、足離れてんな。これだめか……。
正面に別のギルメンが、やはり同じような突っ伏し姿勢で戻ってきた。
「よっすトッシー、しんできたぁ」
「おなじくぅ……」
「トッシーの方は本当にだいじょーぶ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、怖くはないのよ。できねーだけで……」
トッシーは恐るべき炎のゆらめきのレベル上げを試みている。
置物系モンスター相手にスキルを使用してるんだけど、しょっちゅうスキル距離を間違えたりなんか関係ないゴミに当たったりして死に戻りしている。
運営から不快なプレイの強要についての問い合わせ窓口への誘導メッセージが来たらしい。自分で好きでやってます、大丈夫です。
「スキル経験値が入んないってのしんどすぎる~~~」
「それなぁ」
スキルの経験値は「スキルが終わった時」に入る仕様だ。
フィアフォーファイアはスキル継続時間3秒に対し、自爆した場合は1秒で死ぬので、自爆するとスキルが育たない。
「そこ以外はいいんだよ!一撃で周りの敵全部持ってくの楽しいの!楽しいんだよ!レベル上がったらタワーディフェンスモードで俺は勇者になるんだよ!レベルだけ上げさせてくれ~~~!!!!!」
……うん、頑張って勇者になってくれ。
俺にはできん。お前がやりたい分には止めない。止めないのがギルドのルールだ。
とりあえずは休憩するらしいトッシーの叫びをBGMに流しながら何十回目かの避けアサシン解説動画を開く。
「避けアサシンやってるやつらまじで本当に頭おかしい」
「実際避けアサプレイヤーってどんくらいいんの?」
「えーと、ですぺなるてぃのアサシンさんと、777のアサシンさんはやってたよ。動画になってる。オルタナのアサシンは諦めたってつぶやいてた気がする」
「やっぱ少ないねえ」
「そりゃそうよー」
むずいんだよ避けアサ。普通のタンクならジャスガが必要ないようなゴミダメとかカス当たりでも無敵剥がれちゃって、簡単に6MISSとか飛ぶ。
ラフェル動画とか、解説動画とか、おるさんとのコラボでの17連戦とかでぜんっぜんMISS出てないの、やってみて訳わからん度が爆上がりした。
「し ん だ ~~~~~!!!!!」
戻ってきたのはもじゃもじゃん。やっているのは細剣士だ。
「ランドルフー、爆裂ジャンプできないー」
「やれ」
「できねーんじゃ!」
「爆裂ジャンプはもはや変わり種じゃなくて基礎技術なんだよっ!」
リーダーの突発ボスラッシュで初お披露目された爆裂ジャンプ。かっこいい~と思ってもじゃが新規に細剣士を育て始めた矢先、大会で4位のアネシアさんが完璧な爆裂ジャンプを披露して、大会後のインタビューでそもそも発案がアネシアさんだったことが発覚した。
空中移動の存在しないEFO内でサザンクロス以外にも再現可能な疑似空中移動ということで一躍注目された。
これは結構できるプレイヤーも多いらしく、最近の上位遊び人系では基礎技術扱いらしい。
リーダーとセリスさんによる爆裂ジャンプ解説動画も上がり、もじゃは大変頑張って――――今日も爆死している。
「お、ランドルフ避けアサどうー?」
「むりにきまってんじゃーん」
また別のギルメンがワープして来た。
こいつは色んな武器のシークレット仕様を探すべく今日も意味不明な動きをし続けている。
ここはギルド「変わり種プレイ同好会」。
プレイングスキルのさして高くないただの一般プレイヤーが、日々楽しく爆死する場所である。




