19-16.ジュラビレッジを防衛せよ 3
『スキルレベルをマックスにするまでに100回自爆する』と言われているスキルは伊達ではなく、フィアフォーファイアを育てているプレイヤーは皆無だった。
というか根本的に今この場にパーティープレイ主体の方しかいらっしゃらないので、そりゃあ育てていないでしょう。周囲に一人でもプレイヤーがいたら使えないスキルですからね。私ですら大会の予選で使うのはやめてもらっていた。燃焼は連続ダメージ判定なので無敵判定内で生き残れるかがかなり賭けなのと、あと普通に燃えるの怖かったので……。
シアさんはあちらこちらに引きずられるようにそこかしこに爆炎を撒き散らし、おかげで全体はすごい速度で持ち直している。
大丈夫と言っていましたが、本当に大丈夫でしょうか……。
その最中、突然空気が変わった。
何が、とは言葉にすることが難しい。
空気が少しだけ重たい。感じるはずのない息苦しさがうっすらとのしかかる。
フェーズ移行だ。
「ねむ蝉さん」
「うん、戻ろう」
「ねむ蝉!セリス!」
「お待たせしましたか?」
リーダーさんたちは既に待っていた。
「いや、大丈夫。フェーズ移行したと思う、突っ込む。――ロイド」
「ああ」
「ここは任せた」
「ああ。行って来い」
「……いいんですか?」
またロイドさんを置いていくのは……。
「さすがにアネシアさんを休ませたい。ロイドがいればもつからな」
「それは…」
「大丈夫だ」
ロイドさんがまっすぐに、あまり硬さのない声で言う。
「お前がいれば後顧の憂いはないからな」
「もうゾンビ切るの飽きた……」
「単調だけどひたすら数が多いの、さすがにしんどいっすね」
ニンカさんとグライドさんが肩を竦める。
「大分長丁場になった。さっさと終わらせよう」
「ああ。――行こう」
リーダーさんとねむ蝉さん、ニンカさんとグライドさん、それから私の5人。ヒーラーは死んだ場合の悲惨さが尋常ではないので連れていけない。
ヒーラーが向こうにいると、脚を落としたゾンビの、脚が生えてきたので……。
先頭はねむ蝉さん……ではなく、ニンカさんの召喚獣、雷を発する大虎が、そこら中のアンデッドの脚を破壊し尽くして先導している。
「あたり引くまで召喚ガチャするのしんどかった」
隣を走るニンカさんが遠い目で言う。
「3回連続で子猫だったからな」
「あたし傀儡師向いてない気がしてきた……」
一番くじ要素の強いジョブですからね……。
さっきまで壁のあったあたりに着く。奥が一段と暗くなっていて、此処から先が第二エリアだろうと思わせた。
全員で固まって脚を踏み入れる。足元から這い上がるような闇が視界を少し悪くしている。
月明かりがあれば楽かもしれないけれど、ビショップがいると過剰に護衛しなければいけないので、なかなか難しいところだ。
ニンカさんの雷虎が少し明るいのが助かっている。
周囲が拓けた。
広場の奥にはイベント開始前に見た時より一層どす黒い空気を発する祠が鎮座している。
空の星は輝いている。
いやに、輝いている。
まっすぐに突っ込んだリーダーさんの長剣、オートクレールが祠の中心を両断しようとしたその時。
赤黒い闇がぼこりと泡立って、異形が出現し。
敵の盾がリーダーさんの剣を弾いた。
出現した異形の影は5つ。
片手剣片手盾。
大盾メイス。
大弓。
カード。
細剣。
「……ミラーマッチっすかね?」
「そういうことっぽいねえ」
「体格違うから、ジョブだけかな」
「ガチ編成で来れば来るほどしんどいやつだな」
「遊び人系で来たのは失敗でしたね」
「まあしゃーない。ほーんとどこまでも初回クリアさせる気がないな」
こちらが使えるスキルは相手も使えると思ったほうがいいだろう。つまり相手も神出鬼没を使うということだ。
遊び人系が完全な地雷な気がする。私とニンカさんで二人もいるんですけど大丈夫ですかねえ。
「まあ――――クリアしに行こうか」
リーダーさんが剣を振って、ねむ蝉さんの鏑矢が飛んだ。




