19-14.ジュラビレッジを防衛せよ 1
19時過ぎにVRポッドに戻ってログインしてお着替えをする。
アーレインでピストン輸送をしているメンバーに声を掛けると、ちょうど戻ってきていたおもちさんが振り返った。
「あれ、セリスちゃん緑?」
「そうですね。ゾンビとかスケルトンに毒は効かないんじゃないかな、と…」
「あー。確かにダメかも」
一部の遺跡にいるスケルトン系の敵、基本的に毒効かないんですよね。
「お願いできますか」
「はいはい、お手を拝借」
一瞬世界が揺らいで、次の瞬間にはジュラビレッジに到着した。
「ありがとうございます」
「おう、頑張ってなー」
村の中は人がたくさん来ていた。
現在森へは進行禁止、防衛開始までのカウントダウンが出る薄い壁がある状態だ。
「ああセリス来た?」
「来ました。どうなってますか?」
リーダーさんが手を振る。近くにカメラっぽい光が浮いているので、おそらく配信中なのだろう。
奥にはトラ小屋メンバーも見えている。
「とりあえず大きいギルドに東西南北で別れてもらってる。南側の、祠がある方はサザンクロスがもらった」
「いいんですか?」
「流石に譲ってくれたよ。防衛ラインは全方角必要だろうから分散してる。今のところ200人ちょっと超えたくらいかな」
西側はオルタナティブ、東側は777、北側はですぺなるてぃを中心に動いているらしい。
平日の夜早めの時間なので有名ギルドでもいない人が多いらしい。うちのギルドでも不参加が多い。
それでも200人は集まったけれど。
「アーレインはもうあまり人がいませんでした」
「そっかー。10分前だし、そろそろ終わりかな」
「間に合った!?」
声に振り返ると、ニンカさんとグライドさんだった。
「おー、ぎりっすかね」
「お二人ともいらしたんですね」
「流石にこのイベントはやりたい!ホントは結婚式も出たかった!!!!」
「いやもうそこはいいだろ…」
「15時はなー、まだ試験時間中っした」
「俺等が予約取ったわけじゃないから仕方ないねー」
「試験は大丈夫ですか?」
「え、あー、えー……明日は大丈夫」
ダメそうな返事が来ましたね。
「ダメっぽい返事だなw」
「まー、明日超えれば土日っすから、まだギリ…」
ぴろん♪
「ん……あ、もう一人来るそうです」
「お、誰だろ」
「おじゃましまー……す?」
黒髪の奇術師、アネシアがびっくり箱さんに運ばれて飛んできた。
「おお、ある意味セリスよりレアキャラじゃん」
「すみませんシアさん、ここ配信映っちゃいますけどいいですか?」
「うぇ。あー、すみません、どきます」
「一緒に行きますか?」
「いえ、向こうにフレンドもいるので大丈夫です。セリスまた今度遊んでくださいね!」
「ええ、また今度!」
シアさんはそう言ってひらひらと移動した。
彼女は疎遠になっていたフレンドともそれなりに遊べる状態に戻ったらしい。よかった。
「あーセリス」
「はい!」
「開幕、突っ込めそうだったら突っ込む」
リーダーさんからパーティ申請が飛んできた。
「了解です」
「グライドとニンカもいい?」
「もっち」
「あいっす」
「まあ、ここタウン判定あるから、死んでも普通にフェニックスで復活できるし気は楽だな」
「あれ、そうなの?」
「そうなんです。今特殊イベント扱いでサブキャラチェンジは使えないんですけれど、復活はできます」
「誰か試したの?」
「ぎんがーさんが自爆して復活試してました」
「なんだ、じゃあ余裕じゃん」
「ゾンビアタックできるんじゃ、すぐ終わるかもっすね」
会話の中に引っかかるものを感じて、一瞬首を傾げる。
「っし、時間だな」
「あ、はい」
だけど思考時間が取れないまま、イベントが動き出した。
19:32、襲撃イベントが動いた。
カタカタと音のなるスケルトンの山猫の群れ。
腐敗した狼。
骨だけの巨鳥。
他にも様々なゾンビやスケルトンが、四方八方から村をめがけてやってくる。
「ここは任せた!」
横に展開した他のメンバーを横目にリーダーさんについて森へ駆け出した。
パーティはリーダーさん、ロイドさん、私、ねむ蝉さん、ニンカさん、グライドさん。
ニャオ姉さんがいないけれど、フルメンバーだ。
少し離れた場所でトラキチさんとハムさんも駆け出したのが見えた。
おびただしいアンデッドの群れ。EFOはアンデッドが非常に少ないゲームなので、そもそも見慣れていなくて、ちょっとばかり気持ち悪い。
「ヒール無効!」
グライドさんの声が響く。
ゾンビ系にはヒール……らしいのだけど、ダメージ判定はない。ボルグ遺跡のアンデッドにも効かないらしいから、EFOのアンデッドには効果がない設定なのだろう。
「HP表記がないな」
「脚を崩しても這ってくる。正確に頭を潰せ」
「ちょっと面倒だな!」
森の途中、この向こうに祠がある、という場所に薄い壁が見えた。
「フェーズ制か!」
「第一フェーズでは突入不可か…どうする」
「壁の光が見えるギリギリ村側で暴れる。MP危なくなったら申告、その場合は村まで撤退して回復する」
「「「了解」」」
少しだけ村側に戻る。
切っても切っても湧いてくるゾンビに、ああ、これ経験値にいいな、などとちょっと不謹慎なことを思ってしまう。
数分アンデッドを薙ぎ払い続けて、MPよりももしかして継戦限界を意識したほうがいいのではないかと思い始めた時、村の反対側からとんでもない爆発が聞こえた。
「なんだ!?」
「イベント進行?」
「光の壁は消えてない。フェーズ2でも消えない仕様なら一旦戻ったほうがいいかもな」
「っし、戻る、行けるか?」
「いけまーす」
スケルトン狼をなるべく切り払いながら村に駆け戻る。
村の中は、大混乱だった。




