19-10.ワールドクエストの在処
「爆弾にフリーハンドをあげるとこうなるんだね」
天を仰いだリーダーさんが言った。――いやちょっと待ってください。
「……なんか、今表示文字変でしたけど」
「とうとうシステムに認められたか、おめでとう」
「全くおめでたくないですけど!?」
なんですか爆弾って!
なんで音声認識の文字おこしにこんな表示されるんですか!?
「別に変なこと言ってないじゃないですか……ねむ蝉さんのアーレインだって、遷都前ならここが王都のはずっていう一点読みでしょう?」
「いやそうだけど、オレのはちょうど今最前線だしいっとけで行ってきたのもあるし、まあ首都ならなんかあんだろくらいのノリで、こんなでかいクエストが来るとは流石に思ってなかったよ?」
「そうな。王都ならたしかに何かありそうだってのは分かるんだけど……ごめん今色々考えてるんだけどそんな大規模イベントが起きそうな場所がわかんない」
「転送石クエストが進めば多分出てきますよ。なので先にイベントを起こすか、転送石クエストを順当に進めるかという問題でして」
前者のほうが配信としては目立つしイベントの先駆者になるのは楽しそうだけど、100人200人集めることが前提のイベントだと失敗する可能性がそれなりにある。
後者は誰かが先にイベントを発生させてしまう可能性があるけれど、想定された道順通りに物事を進めればまず失敗しないだろう。
「ほんっきでわからん。なに」
リーダーさんが首をかしげた。
いえまあ、さほど変なものでも、もったいぶるようなイベントでもないのですけれども。
「これから滅ぶ村の、防衛イベントです」
何人かが一斉に考え始める。
話続けて大丈夫でしょうか。自分で考えたいですかね?こういう時の間のとり方未だにわからないんですよね……。
「…………あ、ジュードの石柱か?」
ぽん、とロイドさんが言った。
「そこもですね。あとは一応ヒュトレン荒野とマルミス湖の近くのところは見てきましたが、全部まだ生きていました」
ワールドに複数個所ある「いかにも何かありそうな朽ちた柱が沢山あるところ」。特に地名も何もなくただ存在だけしているそれは、フィツィロ討伐クエストの時にたくさんのプレイヤーが何かないかと探していた場所だ。
1000年前のこの大禍を越えられなかった村の成れの果てなのだろう。
「本気でワールド中回ったのか」
「結構のんびり走ったので、他のことは何もできていませんけどね。普通に歩くと移動時間だけで8時間くらいかかりますから」
「ソロだよね?戦闘大丈夫だった?」
「旅人日和は有効でしたよ」
「なるほど。あれまじで売るほどあるからな…」
敵意を一つ作るごとに200個できますからね――――普通は。
動画コメントで「ニンカさんのあの運がサザンクロス一番のズル」って言われていたのはちょっと笑ってしまった。失敗時生成の錬金本当に面倒だからな……。
「まあ、話はわかった。あそこに村があるのな」
「小さいのですけれど」
「――――うん、ファーストタッチして、クリアも取る」
「できますか?」
「1000人イベントだったらさすがに今すぐ何か起こることはない。告知が出て数日後の夜とかになるかな。100人レイドだったら、トラ小屋まで数に入れれば俺達なら行ける。配信すりゃ人も来るしな」
「分かりました」
「っし、とりあえずギルチャで声掛けだな」
<ワールドアナウンス:霊峰の主 が討伐されました>
「…………」
「…………………」
「おおう」
「……」
「トラキチさんですね」
さっき配信開始通知は流れてきていた。今このタイミングで復興クエストを無視して強そうなボスに挑んでいることまで含めて、おそらく彼だろう。
「これこそぜってえレイドだろ何やってんだよあいつ」
「トラ小屋のフルメンバーなら、6人パーティ4つくらいはできるんじゃないかにゃ?」
「流石に平日この時間にフルメンバーは…あそこなら居るかもしれん……」
「いるだろうねw」
霊峰の山頂はボスらしいボスが存在しない。
だからこそフィツィロのときにたくさんのプレイヤーが駆けつけていたのだけど、どうやらここで討伐される運命にあるボスだったらしい。
プレイヤーがいなくてもいつか討伐される歴史だったということかな。どういうボスなんだろう。後でアーカイブ見ておかなくちゃ。
「まーよし、行きますか」
「走るか〜」
「はよ転送石復旧しろ〜ヘロズから走るの遠いんじゃ〜」
「転送石復旧クエストをガン無視することを決めた人が言っちゃだめだろw」
「ぐうの音も出ねえ」
「ま、」
サポートメンバーが全員奇術師にお着替えをした。
「アーレインまでは飛べるんですけどね」
「瞬間移動様々だわ。ワープマーカーって仕様どうなってる?」
「マーカー個数は表世界と過去世界で共有、表裏合わせて10個まで。表と過去の行き来は不可、過去世界に居るときは過去側のワープマーカーにしか飛べない」
「マーカー個数共有か〜」
「表側に置いてたやつは諦めて全部破棄したっす」
「それはもうしゃーない」
まあ表世界は各タウンに通常の転送石がありますからね。
一部双子の悪夢とか迷路マップの走破が面倒ですけれど、今は必要ないし別にいいでしょう。
「悪い、瞬間移動持ちのサポメンで手分けして石柱群全部に転移できるようにしといてもらっていい?」
「あいよ、やっとく」
「頼んだわ。とりあえずこっちはアーレインから一番近い、ジュード石柱群からってことで」
てててん♪
リーダーさんのジュード石柱群への集合通知がギルドチャットに書き込まれた。
『...前線組はとりあえず行っとけします。まだ見てないけどクエストはあるはずだし多分大規模防衛系なんで来れそうな人はなるべく来て。なんもなかったらごめんw』
「よし、行くか~」
はーいという少しばかり間の抜けた声とともに、全員が行動を開始した。
瞬間移動:四章『閑話 ふたりの遊び人 下』(ep.28)




