19-8.RTAチャート
「ただいま~」
「戻りました」
トラキチさんとハムさんは結局別行動、ねむ蝉さんとぽんすけさんはせっかくだから少し前線の街に残ると言うので、リーダーさんと2人で戻ってきた。
ギルドは無人かと思いきや、談話室でロイドさんとグライドさんがなにか膝を突き合わせて話し合っている。
「ああ、戻ったか」
「お疲れさんっす。見てましたよ」
「ありがと、終わったわ~。そっちは何してた?」
「ああ、こちらはまだ配信中なので注意してくれ」
「え?」
言われてサブチャンネル配信を開くと、確かに配信が続いている。
別れた直後にサブチャンネル配信がついたことは確認していたのだけど、死に戻りしても続けていたのか。
……何の画面なんだろう?チャート表?
「リーダー」
「おう?」
「明後日結婚するぞ。今から受付に行く」
「…………は?」
え?
「順番を譲ってくれる人を募った。最速が明後日だった」
「え?は?ちょっと待ってくれる?何の話?」
「結婚の話だ。指輪を取りに行く」
「え~~~~~っと……あの、結婚てゲームのウェディングであってる?」
「ああ」
「あの、ちょっと落ち着こう?今な?新規大規模イベントの初日でな?」
「極めて冷静だ」
「そのセリフ言うやつが冷静なわけねえだろ!あの、配信見てたんならわかると思うんだけど、これから表世界の変化とか確認しに行こうって話をしててな?」
「見ていた。セリス、サブチャンネルの方で頼めるか」
急に話を振られる。え、ええと、あ~……はい。
「大丈夫です。こちらで見てきますね」
「助かる」
「いやちょい待てって!明後日って無茶だろ!?ニンカとグライドがまあまあガチって一週間かかったんだぞ!?」
「今RTAチャートを作っていた。12時間でいける。バッファ込18時間もあれば大丈夫だろう」
「待て、ちょっと待て、本当に待て」
ああ、これ結婚RTAチャートですか……。
12時間、バッファ込18時間……まあ、生活に必須の時間以外を全てゲームに費やしたらいけますね。
「リーダーさん」
「セリスも何か言って!」
「諦めて結婚したほうが良いですよ」
「いや別に結婚が嫌って話じゃなくてさ!するんだったらロイドとだろうしそこは良いんだけどさ!今じゃないじゃん!?」
「いえ、今すぐしたほうが多分良いです……」
配信を少し巻き戻してちらちらとコメントを眺める。これは……大分荒れていたのではないでしょうか……。
「ねえちょっとあのマジほんとに待って、俺今結構しんどい新規ボス終わったばっかなの」
「あのボスだって、俺がいれば苦戦せずに終わっていた」
「それはそうなんですよねぇ」
「それはそうだけどさぁ」
ギミックの正体は固定箇所以外への攻撃のダメージロック。
相手は固定人型大サイズボス、近接アタッカーではそもそも武器の金具部分に攻撃を当てることが難しい。
遠距離攻撃でも、範囲にダメージが入るような大きな攻撃は周囲の竜巻に飲まれて届かない。
的が武器の金具部分なので、外側からは大きな戦鎚の頭が邪魔して、弓スキルのような直線的な攻撃は当たりにくいときている。
竜巻によって体がかなり上に浮いたことをみるに、今回の溜め時間を利用した竜巻の強行突破はおそらく想定解の一つだろう。
前衛クリアでの正攻法は、多分イベントでもらえるアクセサリーを使用する方法だ。前衛の攻撃が届けば良いわけですからね。
その上で……ロイドさんというか、メイジ系がいれば余裕だった。バレット操作中の彼を守るだけだったら私とリーダーさんでお釣りが来る。
敵も随分柔らかかったし、初見で前情報がなく適性職業を連れて行かなかったから苦戦しただけで、本来あまり苦戦することは想定されていない気がする。
自分がついて行けなかったせいで盛大に苦戦している配信をじっと見ていたわけですものね。嫌だったんだろうな。
「置いてったのは悪かったよ…」
「別に、そこは気にしていない。お前がボルナデラストーリーを気に入っていることは知っていたし、一番最初に突っ込みたい気持ちも分かる。俺もストーリーがあるかもしれないと気付けなかったのだから、その時点で誰が悪いという問題ではない。俺を連れていけばもう30分は余計にかかった。30分あれば、トラキチならクリアしただろう」
「まあ……そう」
ファイタービショップでは突破が少し難しそうなギミックだったので、トラキチさんとハムさんのペアでクリアまで行けたかは、ちょっと微妙なんですけどね。
だけどギミックボスでさえなければ、30分あればあのお二人ならクリアしてしまうだろう、という信頼は確かにある。だからこそあれだけ急いだのだから。
「次は絶対に置いていかれない。このイベントで他の分断がないとは言い切れない。イベント進行前に結婚する」
「……マジなのね?」
「だからそう言っている。順番を譲ってくれるプレイヤーが表側の教会で待っている。行くぞ」
「あ〜〜〜〜……えーと、配信ついてんだっけ?」
「ああ」
「――――はい、おはようございますカッコキョウベン、メインチャンネルの方は見てくれたか〜?リーダーでーす。ということで、明日の予定が全てキャンセルされまして、突発結婚RTAがスタートします。まだチャート見てないんだけど、12時間RUNだって〜。記憶が正しければ山のような素材採取だったと思うんで、作業BGMにどうぞ。イベント攻略自体はサブチャンネルの方でギルメンに依頼するんで、よかったら見てな〜」
「サブチャンネル配信自体は後日編集して、メインチャンネル側の動画にするか?」
「ああ、それがいいな。メイン側しか見てない人結構居るだろうし。じゃあそういう感じで進行していきますか。サブチャンはこの後セリスのイベント確認配信になる予定なんで、一旦切って俺達の方はメインでつけ直すね〜」
「それじゃあ、行くか」
「あいよ、じゃあ一旦この配信は切るね。チャート作成みんなが手伝ってくれたのかな?ありがとなー」
「付き合ってくれてありがとう。おそらくすぐにメインチャンネル側で再開する」
「ま、一旦締めましょ、オツカレサンシタ〜、ばいばいっ…………しゃーーーーーない!行くか!」
「ああ」
「行ってらっしゃいませ」
「いてらです、結婚式は出れないんで、配信アーカイブは消さないでくださいね」
グライドさんが肩をすくめた。
「グライドさん来れないんですか?」
「イベント初日だから入っただけで、大学は今丁度試験期間」
「えっ、それ大丈夫ですか?」
「俺の方はもう4年次だから試験とかほとんどないんだけど、実はニンカがちょっとやばい。なんで来週の中頃くらいまでほとんどいないっす」
ああ、今ニンカさんがいらっしゃらないの、別の場所に行っているのではなくてもう落ちたんですね。
「それは……がんばってください」
「頑張らせます……試験終わったら走るんで、美味しそうなとこのピックアップよろです」
「承知しました」
グライドさんはそれじゃ落ちます、と言ってログアウトした。
「セリス、悪いんだけどとりあえずサブチャンは任せた」
「任されました。そちらも、頑張ってください」
「12時間か〜〜〜〜」
「さっさと行くぞ。できれば今日中に4時間分終わらせたい」
「わかりましたよ、いってきまーす」
ロイドさんに引きずられるようにリーダーさんも出ていった。




