19-7.帰還方法
ボスエリアが解除される。
先程まで暗雲立ち込め雷と風が荒れ狂っていた空はからりと晴れ渡り、初夏の爽やかな風が吹き抜けた。
「葬送が果たされました、か」
少し呆然としたような彼の声がする。
無理やりこの世に繋がれたあのおじい様は、自然の摂理に戻ったのだろう。
色々と、余韻とか、考察とか、ドロップの確認とかあるんですけれど、あの、ですね、そろそろですね。
「リーダーさん……」
「ん?」
「あの……手を、離して、いただけると……」
「――――――うぉわ!?ごめん!!!!!」
体を抱きとめたままになっていた彼が大慌てで離れていく。
「い、いえ!あの!本当に死ぬところだったのでっ!ありがとうござい、ま、す……」
だめだ顔が見れない。
「いや、あの……とっさにやっちゃったんだけど、二人で転んで滑ってふたりともダメージ入ったから結局いてもいなくても変わらなかったと言うか、ハムさんのヒール間に合ったから結局俺いらなかったというか……あの……ほんとごめん」
「クイックダッシュで突っ込んでってビビったわw」
集まってきたねむ蝉さんが言う。
ああ、クイックダッシュか、なるほど。
「ヒーローみたいだったよ〜w」
ぽんすけさんがからかうように笑った。
「ヒーローならせめてもっとかっこよく抱きとめたかった……かっこわる……」
「そういう問題なのww」
「一緒に滑って転んだ挙げ句お姫様にダメージ入れてるヒーローがどこにいんだよ」
「まあとりあえずここに一人?」
会話に入れず俯いてしまう。
え、これ後でアーカイブ見直せるんだろうか。解説いれるんですよね?直前まででいいですか?それか私居なくてもいい?
「お疲れさまでした」
「あ……ハムさん、お疲れ様です。あの、ヒールありがとうございます。死ぬところでした」
「貴女を死なせる選択肢はなかったですからね。ヒールⅡもプロテクションもクールタイム中でしたから、少々焦りました。……いらなかったかもしれないですけどね?」
彼女はそう言って少しいたずらっぽく微笑った。
ほんとに、本当にそれくらいで許してください。なんで…どうして……。
話題を変えようとボルナデラが消えた場所を見る。
大きな光がくるくると回り、内側に雷と風が渦巻いていた。
「風雷の残滓、再戦用だな」
光の柱を見ていたトラキチさんが言う。
「流石に初回プレイヤーしか戦闘できないってことはなかったですね」
「まあそれはね。ストーリー型でやったら顰蹙ものでしょ」
「異世界型だと結構あるけどねー」
ぽんすけさんが遠い目をした。
異世界型ゲームの話をするとこの顔をされる方が何人もいるのだけど、そんなにトラウマなのだろうか。
「これ、元の世界はどうなってるんでしょうか?」
「ん、ああ、そっか」
「依代を壊してしまったので……ボルナデラ戦できなくなってたりしますかね?」
「こっちのことって向こうに影響すんのかね?」
「ボスの挙動違い過ぎだから戦闘できないってことはないと思うけど、一応過去ってことになってるし、見てみないとわかんねーな。一回戻ってみるか」
いつの間にか先行して歩き出しているトラキチさんとハムさんの後ろを追いかけ、元々楽園の農場エリアのタウンである場所に到着し、
「タウン判定、ないですね」
「まーじーかー」
立ち往生した。
「うん……まあ、NPC一人もいない状態でタウンですって言われても、それは違うやろとしか言えんな」
「そうだけど、そうだけどさ」
「近くの街にクエストNPCがいて、その人を連れてきてから戦闘するのが正規ルートなんじゃないでしょうか」
「うーん。返す言葉もない」
あー、これは……。
「え、タウン判定ないとギルド入れない?」
「入れません」
「今各種ワープアイテムって」
「使えない」
「表世界への戻り方は?」
「今んとこギルド経由かヘロズタウン脇の裂け目のみ」
「あれ?じゃあこっからどうやって戻るやつ?」
ぽんすけさんの疑問に全員が一様に微妙な顔をして。
「隣の町まで徒歩で行ってから、タウンエリア内でギルドの鍵を使用するのが、多分、一番早いです……」
「…………」
「…………」
「…………」
「「「締まらね~~~~」」」




