19-3.最前線へ
南側から竜巻でも吹き荒れたかのように街は吹き飛んでいた。
石造りの壁はごろりと足元に転がり、かろうじてここが道だったのだろう場所の判別が付く程度に瓦礫が道の脇に積み上がっている。
本来家のある場所には布のテントが張られ、薄汚れた服を着たNPCが出入りしているのが見て取れた。
タウンに入って一気に重たくなった空気から逃れるようにギルドの鍵を使用する。
いつものギルド談話室に到着し、ほっと息を吐いた。
「いやー、思ったよりしんどいにゃ」
「そう、ですね」
「ま、土日にはすっかりきれいになんだろ」
リーダーさんが一段明るい声を出す。
その顔が配信をするときの笑顔だと分かって、気を使わせてしまっているなと思う。
「集まったか」
「おう、おまたせ」
先に来ていたロイドさんが声をかけてきて、ひとまず状況の共有が始まった。
ヘロズタウンの南の平原を抜けた先、ソマニやフィツィロがいた森へは進行不可状態だった。進もうとすると「ここから先へは進めない」というシステムメッセージが出るらしいので、システム的な立ち入り禁止状態だ。
タウン内にある転送石が壊れている状態で、ワープアイテムを含む他のタウンへのワープが利用できない。ギルドからの直接転移も不可能なので、おそらく転送石を復旧するクエストが発生するのだろうとのことだった。
NPCに話しかけるとコレを手伝ってくれアレが心配だと色々お使いが発生するらしい。
冒険者協会のあった場所が一応それらしく機能していて、報酬の受取はそちらになるらしい。ただ、報酬一覧は見れるものの、今のところ交換できるのは一番レアリティの低そうな腕輪だけらしい。復旧度に応じて報酬が増える仕様のようだ。
「東の森林側はどうだった?」
「見たことないモンスターはいたけど、弱いな。多分通常マップと同じくらいだと思う」
「そうか。平原部も同じくらいだった。ただ、道がなくなっていた」
「道?」
「そう、ボートタウンへ行くための道らしい道がなくなっていた。四方八方どこからでも敵が来る状態だな」
「復興ってもしかして道も作るんですかね?」
「その可能性が高い」
ふむと考える。
EFOでは「街道」と定義されている場所にはモンスターはポップしない。
街道判定外で湧いたモンスターが道まで出てくることはあるけれど、数は少ないので道なりに歩いている間は比較的安全に移動することができる。
道を作るとなると道の判定を発生させる必要があるわけで、どうするんだろう。クエストで発注されるとかが現実的だろうか。人が多く歩いた場所が道判定になっていくとかだったら面白いな。
「タウン内のクエストは、今んとこはお使い系やな。瓦礫の除去、簡単なモンスター討伐系、あと低級薬草の採取やった」
「ファーストタウンらしいクエストだな」
「だね。――――今俺が考えてる話をしていいか?」
「ああ」
リーダーさんが全体を見渡して言った。
「ヘロズタウンは早々に出ようと思う。モンスターの強さ的にも、カンスト勢がいる場所じゃない。初心者向けクエストを食いつぶすのは良くないしな」
「そうだな」
「適宜パーティを組んで、順次前線の街に向かってくれ。敵の強さやイベントの状況が分からないから、逃したくないイベントが発生した場合はそっちを優先していい。ギルドメンバー情報の現在位置情報をオフにしてるやつはイベント初期だけでいいからオンにしてくれ。サポメンのパーティで敵が強くて進行が詰まった場合はキャリーするから連絡を」
「あいよ」
「そのうえで、おそらく発生するイベントのファーストタッチをしたい」
「ほう」
「そのためにトップチームは足の速さを最優先する。場合によってはロイドも置いていく」
「……」
どよめきの声があがった。リーダーさんがロイドさんを置いていくと宣言することはほとんどない。
そこまで足の速さを優先する…………ああ、なるほど。ファーストタッチだけで発生しそうなイベント、ありますね。
「メンバーは俺、セリス、ぽんすけ、ねむ蝉。悪い、ニャオ姉はメンバーに入れられない」
「仕方ないにゃ。いってらっしゃい」
「あたしは?」
「ニンカも今回はだめだ。道が悪路で足が遅くなる可能性がある」
「……了解」
「俺はついて行く」
ロイドさんが言った。
「追いつけないようなら置いていく。それでもいいなら」
「……分かった」
結婚しておくべきだった、という小さな声が聞こえた。
結婚指輪はいろいろな制約を無視して合流できますからね。結婚していれば、追いつけるかという問題は無視できたでしょう。
さて、あそこに行くのだと、多分お着替えが必要ですね。
設定画面からサブキャラクターを選択する。
しゅるりとほどけるように髪の色が変わって、桃色の髪が落ちた。
「……そっちでいく?」
「細剣の方がよかったでしょうか?レンジャー・ランサー・ランサーなら、汎用高めのファイターで基本拳が良いかと思ったんですが。こちらならタンクもできますし」
「ああ、それはそうだな。頼んだ」
リーダーさんもコンソールを弄り、手持ちの装備が槍に変わった。
「じゃあ、状況開始。こっちも準備でき次第出発する。最前線――――楽園の農場へ」




