19-1.レガシーイベント

「これは」

「随分でけえイベントになるな」

「え、ストーリー型の中で異世界型やるってこと？」

「異世界型の前身の、レガシーゲームっぽいかな」

「3,40年前の、量子コンピューター以前のMMOゲームにはたまにあった形式だな。最近はあまり見なくなったが……」

「生活型会話AIが出てからは、そっちで実装するほうが楽になっちゃったからな」

　６月ももう終わるという頃。談話室で何人もが団子になりEFO通信を見ながらうーんと唸る。

　遺産(レガシー)ゲーム、名前だけは少し知っている。プレイした結果が次のプレイに引き継がれるゲームのことだったはずだ。ボードゲームでボードに直接シールを貼ったり、使用しないカードを破いて捨てたりするゲームがあるのだと以前ぎんがーさんが言っていた。

　オンラインゲームでも、プレイヤーが達成したクエストの結果によって街の様子が変わったり、最悪NPCが死亡したりする様なゲームをそう呼ぶようになり、そこから発展して今の異世界型ゲームがあるらしい。

　EFO通信に目を落とす。

　舞台は１(・)０(・)０(・)０(・)年(・)前(・)のエリシオン。

　何か(・・)があって、強い戦士や英雄が軒並みいなくなり、戦いの余波で荒廃したエリシオンに時空の歪みで世界が繋がる。

　プレイヤーはそこに行って、世界の復興を手伝う、と……。

　これあれですか。サービス開始1000日記念と1000年前をちょっと掛けてるやつでしょうかね。

　戦い手が一気にいなくなったことでジリジリと追い詰められているNPC達に代わり、プレイヤーがモンスター退治を請け負うことになる。

　今とは異なる生態系で見慣れないモンスターも多くいる。現代では発見困難な素材は昔はありふれていた……？などの文言から、多分素材集めとしては最上級のイベントになることがうかがえる。

　街の中では単純に人手も足りておらず、生産クエストも大量に発行される、と。

　プレイヤーたちの働き次第で街がどんどん復興していくのだろうことが見て取れた。

　イベント期間は７月１８日～９月１２日まで。一般的な夏休みイベント期間を超える長規模イベントだ。

「異世界型ゲームとレガシーゲームって何が違うんでしょうか？」

「えーと、大きいくくりとしては多分同じ？レガシーの中に異世界型が入ってる、かな？一般的な細かい分け方だと、異世界型は内部でNPCが生活してるから、放置時間が長いとNPCが自分で解決したり死んだりしてプレイヤーがイベント逃したりする。夜間強襲とかあるとプレイ時間制約もでるし、あとは好感度や性格の一致不一致によるイベント発生の有無とかかな。レガシーゲームはプレイヤーのやった結果は残るけど、プレイヤーがなにかするまでゲーム自体は動かないし、NPC好感度によるイベント不発とかもない感じ。EFOは時間固定サーバーとかもあるから、夜中になんかしろって言われても好きな時に21番サーバー入ればいいから」

「なるほど」

　なるほど、NPCが生活している異世界型ゲームでは時間制約も受けるのか。知らなかった。

　皆さんの解説や予想を話すのを聞いていく。皆さん色々なゲームをしているだけあって全く知らない話がちらちらと聞こえてくる。私も他のゲームの情報も知ったほうがいいんだろうか。

「モンスター討伐やクエスト報酬で貰えるポイントで特別アイテムを交換できます、ね……」

「何がくるかねー？新規アイテムとしてはこの間超越ポイントが出たけど」

「どうかな、あれはカンスト勢向けのアイテムだから、もうちょい初期ブーストアイテムが来るんじゃねーかな」

「例えば？」

「純粋な経験値ブーストアクセとか？上位でも初心者でもあればあるだけいいし」

「あー、超欲しい。１％ブーストでも欲しい」

「あとは耐性系とかかなー。別に作れるけど、配ってくれるなら普通に欲しい」

「ああ、耐性系はつよつよアクセ出してもゲーム性そんな変わらんしな」

「そうそう」

「リーダーはなんか聞いてるー？」

　複数人が一斉にリーダーさんの方を向く。

　リーダーさんは苦笑しながら肩を竦めた。

「知らんし、知ってたとしても言えねーよ」

「それはそうな」

　さざなみのような笑いが広がる。

　スタートは３週間後の７月１８日。

　来週から２週間はストーリー進行サポート期間に入るらしい。

　現実世界は梅雨でじっとりとした日が続いているけれど、夏休みの足音が聞こえてきていた。